第3話 スアルイードの魔導師
聖王カザーンがまだ即位していなかった頃。カザーンは兵を率いて北の蛮族を攻めるため進軍した。スアルイードの小さな町を通過する際、騎乗していたカザーンは杖を持った老人に呼び止められた。
老人はカザーンに対し、あなたは王になる宿命を負っているが、今その宿命が揺らいでいる、どうか馬から降りて助言を受け取って欲しい、と述べた。
カザーンの従者らは下馬を求めたことを無礼だと罵ったが、カザーンは制して馬から降りて老人の前に跪いた。
老人はいうには、この遠征でカザーンは敗北するが、黒い木のある砦に三日立て篭もり、四日目の日の出までに峠を越え、五日目と七日目に竜の巣穴に潜れば生きて帰ることができると。従者らは信じなかったが、カザーンは老人に礼を述べ、もし戦に敗れることがあれば必ずその通りにしようと語った。
カザーンの軍は蛮族を追いカラク峡谷に攻め込んだが、果たしてそこで蛮族の伏兵に遭い包囲された。兵を次々と失う中、従者の一人が峡谷の一角に古い砦があったことを思い出し、カザーンは僅かな兵を連れてそのパントラン砦に逃げ込んだ。パントランは古い時代に焼失した砦で、焼け焦げた黒い木が今も残っていた。
カザーンはスアルイードの老人の話を思い出し、何としてもここで三日持ちこたようと兵を鼓舞した。
蛮族はパントランを包囲したが、狭い攻め口からの無理押しを避け兵糧攻めを選んだ。包囲されて三日目、とうとう水も食糧も尽きたカザーンは命運が尽きたと天を仰いだが、その時カラク峡谷を大水が襲い、包囲していた蛮族を呑み込んだ。
夜になって大水が引いたので、カザーンは生き残った兵士らを連れてソリュートの峠に急いだ。夜明けが近くなると、カザーンは大水を逃れていた蛮族が追撃してきていることを知った。カザーンはしんがりで蛮族の追っ手を退けつつ、兵士らに日の出までに峠を越えよと命じた。カザーンが峠に立った時、峠の北から激しい風が吹き込んできた。その風はカザーンを追ってきた蛮族らをも吹き飛ばし谷底へと薙ぎ払った。カザーンも飛ばされそうになったが、辛うじて峠の南側に逃れることができた。
蛮族から逃れたカザーンらは、馬も食糧も失い、飢えに苦しみながらトルバーンの荒野を渡った。五日目になって竜の巣穴と呼ばれる洞窟を見出し、カザーンがそこに潜ると水と魚を得ることができた。カザーンらは七日目にも同様の洞窟で水と食べ物を得て、それをもってトルバーンの荒野を渡りきり、無事にシエルクアーナの街にたどり着いた。
そこにはスアルイードで会った老人が待っており、カザーンが老人の助言を容れたことを感謝した。カザーンは我こそ老人のおかげで助かったのであると深々と礼を述べ、老人に是非我が師となってほしいと強く求めた。
老人は私はそのために貴方をここで待っていたと答え、カザーンの陣営に加わった。
スアルイードの老人の名をユリーという。
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