第6話 美少女NPCとログアウト

 村に戻り、俺たちは最初に出会ったあの噴水に腰を掛ける。


「これからどうしようか…」

「私はシノハさんについていきますよ」

「それはありがたいが…もうさんつけは良いぞ? 俺もユキって呼んでるしな」

「え、あ…じゃぁ、シノハ? あぁ…なんか、でも」


 可愛いかよ。尻尾をピンッと硬直させ目を真ん丸にしながら困惑する表情を見て、俺も笑いそうになってくる。

 でも、いつか俺達は最強の相棒になる。その時になったら、こういう恥じらいも無くなってくるんだろうな。

 嬉しいよな悲しいような…なんだか複雑な気持ちだ。


「ユキは、この世界についてどれくらい知ってるんだ? こう…ここから近い町とか」

「も、森を抜けた先に大きな街がある事だけは…シノハさ…えっと、シノハに見つけてもらう前に村人たちがそう言ってるのを聞いて」

「成程…目指す価値はありそうだな」


 どの方角かは知らないが、あの森で綺麗に整備された道は一つしかなかった、俺達が通ってきた広場へ通ずる道――その奥にもう一本。

 おそらく道なりに進んでいけば何とかなるだろう。


「まぁでも、出発は明日にするかな…時間もヤバいし」

「時間…まだ、昼頃ですよ?」

「あぁいや…まぁ、気にするな、色々疲れたんだよ」


 NPCと俺とでは時間の流れが違う、分かり切ってはいたがこのあたりの関係が非常に難しい。

 俺がここで中断、ログアウトしたとして、その間ユキはどうなるのだろうか?

 まぁでも、一回ログアウトしなければそれは分からない。



(ここでログアウトするのも、なんかひどい話だよな。…宿屋に行ってみるか)


 体力回復や休息に利用されるゲーム内施設として宿屋という物がある。RPGではご定番のあそこである。

 ユキも魔法を連射したことによって、MPの減少も激しい物になっている。疲れも少し溜まっているだろう。


「なら、今日は宿屋に行って休むとしようか」

「あ、はいっ」



 宿屋に入り、NPCに銅貨4枚を払い部屋の鍵をもらう。どうやら、宿屋から退出するまではその部屋を自由に使えるというシステムらしい。

 部屋にはこの村の割に大きいベッドが二つ、ベッドに関しては寝っ転がるだけで回復できるという新設設計だ。


「…良し、今日は休んで、明日に備えるぞ」

「はい、シノハさ…シノハ、おつかれさまです…」

「あぁ…良し、このタイミングで」


 俺はメニュー画面を開き、その一番下にあるログアウトという項目を押す。

 その瞬間、ヒュゥゥゥンという機械が停止する時のような音を聞きながら、意識を失っていった。



 〇



「……んっ」


 気づくと、俺は現実世界に戻っていた。ヘッドゴーグルを外し、ぐいっと身体を伸ばす。

 実際に体は動かしてないとはいえ、まるで激しい運動をしたかのように身体が重かった。


「戻れたか。にしてもすげぇな…このゲーム。想像以上に面白かったわ」


 このゲームを進めてくれた大樹に感謝しないとな、このゲームを知らなかったら、ユキにも出会えなかっただろうし。

 …ユキ、大丈夫なんだろうか? ダメだ、ちょっと過保護になってきている。

 まぁ、ゲームだしなんかこうシステム的なアレで何とかなるだろうと勝手に判断する。


「飯くうか。続きは明日だな」


 重い身体をベッドから起こし、自分の部屋から出る。もうこの時点で俺は、明日が来るのを待ち遠しく感じていた。

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