第238話「白銀VS狂化」
クエストが開始して、十分が経過した。
最初に現れたのは主に近接武器を手にしたの闇堕ちした原住民〈ダーク・レヒュジー〉ばかりで、脅威度としてはそこまで高くない。
最初は騎士の両盾使いロウを主軸とし、自分とクロの三人で対応にあたった。
上級スキルを使用してきても、敵の技はただアシストに身を任せているだけ。
現にロウの技を複合した盾に、雑な剣技はことごとく全て弾かれる。
そこから生じる僅かな硬直時間を狙い、オレがスキルを叩き込んで光の粒子に変えていく。
レベルは90とかなり高めだが、正直に言って大した強さはない。
防御をロウだけではなく、自分も担当して綺麗なパリィを決める。動きを止めた敵はクロの〈瞬断〉で切断されて光の粒子となった。
「まだ全然余裕だね」
「余裕はあるけど油断するなよ、クロ」
「慢心は大敵です、如何なる時でも気を緩めてはいけません」
「……わかった、気をつける」
オレとロウの注意を受けて、カタナで敵を両断しながらクロは頷く。
戦いは全てが終わったからと言って、油断してはいけない。遠足で帰るまでが遠足なのと一緒だ。
一瞬の気の緩みが、全てを台無しにしてしまう。
そういう感じで連携を取りながら、後衛から援護を貰っていると二十分に到達する。
予想通り敵の攻めてくるパターンは、ここで変化した。
第二陣の敵襲では弓兵が追加されて、危惧していた通り上と地上からの狙撃が降り注ぐ。
まるで雨のような矢の攻撃を、シオが騎士の〈挑発〉と盾でセツナを守っている最中、ここは自分の出番だとイノリが弓を構えて出た。
「生憎と、我の腕前はプレイヤー最強クラスなのじゃ!」
空間が震えるほどの一射を用いて、遠く離れた敵をイノリは速射でまとめて撃ち落としていった。
一撃でHPが消し飛ぶ光景は、正に圧巻の一言。
弓なのに一体なにを使用したら、あんな威力がでるのか。気になって〈洞察〉スキルでみたのだが。
──〈グランドウィンド・アロー〉。最上位の付与スキルが施された魔石をレベル100の〈錬金術師〉のスキルで非常に面倒な工程で加工し、
た、たけぇ……!?
例えるならば、最前線組のメイン武器を矢にして撃っているようなものだ。
最上位の付与スキルを込められる大魔石は、一つで大体50万エルは掛かる。
超高価な代物を普通の矢を放つように連射するブルジョア〈錬金術師〉に、流石にオレもビビってしまった。
「友の為ならば、資材と金は惜しまず使うのじゃ!」
弓から放たれる暴風の一撃は、避けようとする敵を巻き取るように炸裂する。
どうやら風の矢は、標的を竜巻に巻き込むえげつない効果があるらしい。
「──ハハハ! イノリだけじゃねーぞ、俺もいることを忘れんな!」
槍を構えて〈魔術師〉のシンが発動させたのは、二十発以上の〈ファイア・アロー〉。
全てを制御する人外の業を
絶対に殺すという確たる意志を感じる、そんな二人の恐ろしい猛攻によって、展開していた敵の弓兵は全て抹殺された。
二人の圧倒的な
そんなイノリとシンの大活躍で、二十分から三十分のWAVEも難なくクリアした。
残り時間が半分になると、
「……やっぱり出てきたな、アイツはオレが相手をする」
敵の最後方から一人、とんでもない圧を放つ者が姿を現した。
他とは少し違う黒ローブを纏う敵。
前を開けているので、その下には漆黒の鎧が見えるが、レアリティはSSランクとかなり高い。
シャムシールという曲刀を両手に、悪魔をモチーフとした仮面を付けた強敵にイノリは間髪入れず矢を射るが、
『中々に、良い狙撃だ』
敵は綺麗なジャストパリィを決めて、矢の炸裂を完全に無効化した。
イノリの矢は時速500メートル以上は出ている、自分でも視認するのがやっとな狙撃に反応してパリィを決めるとは、ゲーマーならば世界級の実力がある。
アレが、今まで師匠が相手してきた〈闇の信仰者〉の幹部の一人。
全てを見抜く〈洞察〉スキルが見たのは、
〈双曲刀の狂魔〉グレシル。
レベルは測定不能、職業はこれまで一度も見たことがない〈狂戦士〉。
敵から放たれる圧から推測するに、100以上あるのは間違いない。
曲刀を構えた信仰者達をまとめる幹部は、切っ先を此方に向け告げる。
『我が名はグレシル! 崇拝する魔王シャイターン様の為、セツナ姫よ。その首を貰い受ける!』
「オレが、させると思うなよ」
「邪魔をするならば、貴様等も道中で返り討ちにした冒険者と同じように切り刻んでくれる!」
グレシルは職業の固有スキル〈狂乱の舞〉を発動し、残像を発生させる程の速度で突進して、空中を直角で曲がる立体的な軌道を織り交ぜてくる。
以前相手をした〈ヘルヘイム〉の大戦斧使い以上の変態機動だが、負いきれないレベルではない。
白銀の剣を手にしたオレは、真っ先にセツナに向かう敵の前に立ちはだかり、並の冒険者では反応するのが難しい連続の薙ぎ払いを剣で受け流し、
『なんだと……?』
「セイッ!」
逆にカウンターで、左上から右下に向かって振り下ろす斬撃を放った。
『──チッ』
舌打ちをして緊急回避〈クイックステップ〉で、横に大きく跳んで敵は回避する。
『クソぉ! 忌々しい、善を気取る神の下僕がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
武器を左右に構え、グレシルは曲刀カテゴリーの十二連撃を発動する。
コマのように回転しながら繰り出される連続攻撃は、少しの判断ミスで直撃を貰いそうな程に鋭く速い。
だけど、対応できない速度じゃない。
左手にガントレットを呼び出し、ひたすら受け流しと防御に専念する。
『我等は認めぬ、貴様等みたいな善を気取る悪を!』
「善を気取る悪? どういう意味だ?」
『自覚がないのだから、尚更たちが悪い! 元はと言えば、天上の怪物達が己が罪を認めぬから、魔王様はこのような世界に生み出されてしまったのだ! その無知、幼稚、万死に値する!』
「オレ達の罪って、まるで意味が分からないんだが……」
此方の集中を削ぐ為の世迷い言、にしてはなんかやたら言葉に芯がある気がする。
いやいや、ここで集中を散らすと不味い。後方にシオが控えているとはいえ、こいつの実力はかなりヤバい。絶対に通すわけにはいかない。
連撃技はモノによっては、クールタイムだけじゃなく硬直時間まで強いられる。
十二連撃は確実に、硬直時間が発生するはずだ。そこを狙う。
(7、9、10、11───)
十二撃目が放たれたら攻めようと考えていると、敵は十一回目で後ろに大きく跳んだ。
此方の考えを読まれた?
いや、違うこれは、
退避した敵は身を低くして、何か力をためるようなポーズで固まる。
するとその全身から不気味な紫色のオーラが吹き出し、鋭い
『ハハハ、数回手合わせしたら分かる! 貴様は出し惜しみをして勝てる相手じゃないようだ。ならば使わせて貰うぞ──〈バーサーク・モード〉ッ!』
「うげ……」
読み取った情報によると、思考が鈍化して周囲にいる者を倒すことしか考えられなくなるらしい。
更にHPが減少し続ける代わりに、全ステータスの上昇とノックバックやスキル硬直時間を無視して、HPが1になるまで無制限に暴れ続ける最上位の強化スキル。
それが〈狂戦士〉の最大最強の奥の手〈バーサーク・モード〉。
「ぐおぉ!?」
更に加速した敵は砲弾のように此方にむかってきて、攻撃を受け取れられながらも止まらず、鋭い回し蹴りを叩き込んでくる。
辛うじてガントレットで防御するが、猛攻は止まらない。
半分以上理性を無くした人型の猛獣は、オレの命を刈り取らんとひたすら攻めてくる。
HPは少しずつ削られる。敵も減ってはいるが、此方の方が先に尽きそうなペース。
このまま防戦一方では、ジリ貧で負けてしまう。
なるほど、師匠には遠く届かないが強いと言わせるだけの説得力はある。
「流石は幹部だな。小鳥遊家を除けば、ここまで苦戦させられるのは〈ヘルヘイム〉戦以来だぞ」
『グオオオオオオオオオオオオオオッ!』
「だけど狂化がどれだけ強力でも、意識をほとんど失っているオマエじゃ、オレには届かない」
自らの使命、執念そういった強い思いを全面に出して敵は食らいつこうとしてくる。
『ルシファァァァァァァァ! 貴様は、貴様だけは絶対に、魔王様に近づけてなるものかぁ!!』
近づけさせない。オレが魔王の前に再び立つと何か起きるとでもいうのか。
すごく気になる、戦闘を止めて話を聞きたいと思ってしまうけど、ここは護衛戦であって自分一人の戦場ではない。
舌打ちをして、この場における最善の判断を自分は下した。
「──気になるワードが出てきてるけど、オマエ強いから話を聞く余裕が無いよ」
攻撃、防御、速度、三種の付与スキルを同時発動。
敵の左からの攻撃を避けて、右からの斬撃を拳で受け止める。
火花を散らしながらゴリゴリ削れるHP、残り半分切ると右の剣で刺突技──〈ストライク・ソード〉を発動させた。
グレシルは身の危険を感じて、後方に跳んで逃げる。だがこの刺突技は、ただの刺突技ではない。
一日に五回しか使えない仕様に変更された〈スキル・ユナイテッド〉。
それで飛ぶ斬撃〈アンゲリッフ・フリーデン〉と、更に防御に専念してためていた〈バスターチャージ〉を融合させた
「──穿て、真空の槍〈バースト・ストライクフリーゲン〉ッ!」
開放した必殺技は、敵に突き刺さり遥か彼方まで連れて行く。
目視が困難な場所まで消えると、巨大な光の粒子となって爆散した。
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