第228話「ゴーレム戦」
荒原地帯には様々な土人形のモンスター達が
なんでも彼等は古代文明に〈錬金術師〉の工房で大量生産された労力らしく、文明が滅んだ後はアルゴリズムが狂って人を襲うようになったらしい。
強さ的に言うと五十センチ程度のハニワ型とドグウ型は同じくらいで、レベル80以上であれば苦もなく倒す事ができる。
一番の問題は時々大量に出現する、動物の形を模したアニマルゴーレムだ。
こちらは弱点攻撃でないとマトモなダメージが与えられない仕様で、数多の初見冒険者達が残機を一つ減らしている。
そうなった大きな理由は、どう見ても奴等の身体の素材が石で出来ている事にあった。
この世界で『土』に有効なのは『風』だ。
誰だって弱点は風属性だと思うところ、なんとアニマルゴーレムは『風の魔石』が動力源だから弱点は火属性となっている。
初めてエンカウントした時は、〈洞察〉スキルで見抜いた情報に苦笑いしてしまった。
つまりゴーレムは、動力によって属性が変わることを意味する。それを上手く利用できたら、属性を変化させて戦うスーパーゴーレムが誕生するかもしれない。
──と言ってもプレイヤー側の〈錬金術師〉にはそんな能力はないので、今考えたアイデアを実行に移すのは不可能なのだが。
「お兄ちゃん、上の空になってるわよ!」
おっといけない。
こんな事に思考を巡らせていたら、妹に怒られてしまった。
パーティーメンバー全員に火属性を付与しながら、オレは前方から迫るイノシシ型ゴーレムを防御力貫通の〈レイジ・スラッシュ〉で頭からケツにかけて一刀両断にする。
一体目を倒した自分の身体は、地面に着地して硬直時間を課せられる。
そこに別のバイソン型ゴーレムが迫ってくると、阻止する為にロウが間に割り込んだ。
「〈ファランクス〉!」
ダメージ半減スキルと不動のスキル〈イモウビリティ〉を発動した双盾の騎士は、猛烈なタックルにHPを削られながらも単独で停止させる。
動きが止まったバイソンゴーレムに、今度は親友のシンが火属性魔法〈ファイア・ランス〉を何発も叩き込んで光の粒子に変えた。
これで二体は処理した。
チラッと女性四人組の方を確認したら、そこでは戦う少女達がプロ顔負けの連携を見せていた。
「〈挑発〉!」
騎士職のシオがスキルで注意をひきつけながら、バード型とスネイク型とアリゲーター型──合計で三体の敵ゴーレムの間を駆け抜ける。
視線を強制的に引き寄せられた敵は、完全にクロ達に背を向ける形となった。
「ナイスなのじゃ!」
イノリの放った炎の矢が突き刺さり、そこから更に魔石を加工して作り出された特性の
動きが僅かにスタンしたタイミングを狙って、同時に前に飛び出したクロとセツナがカタナを抜く。
「〈瞬断〉ッ!」
「〈
火属性が宿った居合切りが三体を纏めて両断し、内刀と小太刀を利用した回転切りが更にHPを消し飛ばす。
これで合計五体を倒すことに成功。全員気を緩めようとしたら、そこで感知スキルが更に地面に潜んでいる敵の存在を見つけた。
「シオ、後ろだ!」
「む……」
少し離れた位置にいる妹の背後の地面が盛り上がり、そこから三メートルくらいのモグラ型ゴーレムが姿を現す。
まさかのゴーレムの奇襲。
範囲外から高速で接近してくるとは、バリエーションが豊富過ぎないか?
慌ててイノリが援護射撃を行おうとするが、敵の巨大な爪がシオの小さな身体をとらえる。
だがその寸前でシオは、左手にカイトシールドを構えて〈ファランクス〉を発動。
受けると同時に滑るように内側に踏み込み、右手に構えた片手用直剣を振り上げる。
「封印開放、真の力を此処に──〈カラドボルグ〉ッ!」
キーワードを口にしたシオに応えて、魔法剣の刀身が伸びる。
更には『威力強化』『耐久強化』『アシスト強化』と複数のバフが同時に掛かり、剣を構えたオレンジ色の鎧ドレスを纏う姫騎士は〈レイジ・スラッシュ〉を振り下ろす。
防御する腕ごと切り裂く必殺の一撃は、そのままモグラ型ゴーレムを光の粒子に変えた。
少しだけヒヤッとしたが、ピンチに焦ることなく冷静に対処するなんて流石はオレの妹。
スキルで他に敵の姿は確認できない、これで戦闘は終了だ。
次のエンカウントが発生する前に全員揃って、後方で待機している馬車に戻った。
三之村に向かって走り出す馬車の中で、仲間達と先程の戦闘について話をする。
「お兄ちゃんの付与スキルの援護があると、こんなに楽なのね……」
「ああ、そういえばトップランカーの中に〈付与魔術師〉はいないんだよな」
「そうよ。あのゴーレムなんて初見じゃなくても、死ぬ人達が沢山いるんだから」
道中の戦いでオレは、常にグランドクラスの『攻撃力上昇』『防御力上昇』『速度上昇』の三種に加えて初級の『火属性付与』をパーティーに付与している。
これがないと敵のダメージは〈ファランクス〉有りでも七割近く削られ、先程のように少ない攻撃数で倒す事ができないからだ。
「〈レイジ・スラッシュ〉なんて普通は三発は撃ち込まないといけないのに、一発で倒せるなんて有りえないわ」
「ソラの付与スキルはチートですからね。こんなのが他にもいたら、ゲームバランスがおかしくなりますよ」
「ロウ、それは褒めてるのか?」
「半々ってところですね」
「付与スキルをキメ過ぎると、気持ち良すぎて一生このパーティーから抜け出せない呪いに掛かりそうだな」
「シンよ、我はもうソラ君がいないと生きていけない身体になってしまったのじゃ……」
「これは責任を取らないといけませんね」
「バフまいてるだけなのにそこまで面倒見きれるか!」
長年の付き合いでたくみに連携を取ってくる親友三人に、オレはげんなりして責任云々に関しては全力で拒否する。
隣にいるクロは、ずっとニコニコとこのやり取りを眺めているばかり、こちら側の味方にはなってくれない様子だった。
「しかしスペシャルクエストで入手したシオの魔剣、伸縮自在なの面白いなぁ」
「良いでしょ、ボスを倒したラストアタックボーナスで貰ったのよ」
トップランカーの中にはシオや師匠のように、スペシャルクエストで超レアな装備品を入手している者が何人かいる。
妹が持っているのはSランク魔剣の〈カラドボルグ〉、効果は様々な強化を展開させた上に最大十メートルまで刃が伸びるらしい。
せっせと育成中の愛剣にも、そんな面白い特殊効果が付かないかなー。
そんな事を思いながらオレは、今の戦闘によってレベル105まで上昇したステータス画面からジョブの項目を開く。
保留していた36ポイントは20増えて合計56になり、今後のゴーレム戦の事を考えて〈ファイア・エンチャント〉を上位付与スキルに進化させる事にした。
ジョブスキルの強化に必要なポイントは、一つにつき5ポイント消費する。
10まで強化するのに45消費して、残りは11ポイント。だがこれで〈ファイア・エンチャント〉は〈グランドファイア・エンチャント〉に進化する事ができた。
「よし、これで次の戦闘がもう少し楽になるかな」
「ほんと、オマエはジョブポイントの増え方もえげつないよなぁ……」
「殆どのプレイヤーが最大でも一つか二つくらいしか上位スキルにするので精一杯なのに、合計で九つも最大まで強化してるなんてソラだけですよね」
「ふふふ、そんなに羨ましいならオマエ等も女にならないか?」
「「すみません、それは謹んでお断りします!!」」
即座に謝罪の姿勢を取るシンとロウ、そういったやり取りをすること数十分後、オレ達は参之村に着いた。
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