第218話「親友達からのお祝い()」

 もう10月だというのに、校内はかなりの蒸し暑さを感じさせる。

 あと一ヶ月くらい経てば、この暑さも少しは収まってくれないだろうか……。

 年々暑い夏の季節が長くなる事で、それ以外の春秋冬はその日数を徐々に減らしている。

 いずれは春と秋が無くなるのではないかと、専門家の間では議論されている程だった。

 そんなスマートフォンでチラ見しただけの浅い情報に、今後の世界の行く末をオレは少しだけ不安に思いながら。


(……アストラルオンラインの問題もあるからなぁ)


 胸中でこの世界が直面している、一番の問題点を呟いた。

 現在の汚染ゲージの進み具合は、9%程度。

 一ヶ月で3%増えているようで、現状だとアレが最大になるのは、早くても三年後らしい。

 これはもちろん、全てのボスを倒すのが大前提だし、特殊条件──例えばお姫様を殺されてゲージが増えるような事は絶対に避けなければいけない。

 もしかすると、今後は更に汚染が増えるようなイベントが起きるかも知れないが……。


 ここで、ふと一つだけ思った。


 果たして汚染が完了したら、この世界はどうなってしまうのか。

 これまでの被害から考えられるのは、アストラルオンラインに存在するモノが現実化してきたという事。

 それだけを判断材料にしても、けしてろくな事にならないだろう。

 海の巨大モンスターが現実化した時点で、モンスターに関してはスケールに関係なく、何が現れてもおかしくない現状となったのだ。

 ならばエルの側にいたあの謎の鎧騎士達は、モンスターに対抗するための部隊にも取れるが、その目的は定かではない。


 授業の合間の休憩時間を利用して、この件は皆と話し合った。


 結論としては、今まで世界を守ってきたエルを信じて、動向を静観する事に落ち着いたけど。

 オレは胸の内にある不安を、未だに拭い去る事ができないでいる。

 その原因は光の国にいる魔術師、エムリスからのメッセージが一因となっていた。


(四つの指輪が集まりし時、神に選ばれた天使達は、汚れた魂を断罪する……)


 エルは自分の事を知りたければ、『四聖の指輪物語』をクリアする必要があると言った。

 だけど予言の事を考えるのならば、果たして四つ目の指輪を、このまま素直に集めて良いのか。

 どちらにしても、次のユニークシナリオを進める事で、必ず指輪を入手する流れになるんだけど……。

 自分の直感が、今回はとてつもなく嫌な予感がすると告げていた。


 ……ダメだなぁ。


 エルは世界を何度も救っているのに。

 あの喫茶店の一件から、どうしても悪い方のイメージばかりしてしまう。

 額に僅かににじむ汗を左手で拭いながら、オレは首を左右に振り、一旦この嫌な妄想を払った。


「あの二人、大丈夫か?」


「真司、ボク達にできるのは信じて待つことだけですよ」


「おお、流石はイケメン紳士。説得力のあるお言葉だねぇ」


 隣で待機している親友の真司と志郎が話題にしているのは、つい先程屋上に上がって行った、二人の少女の事だった。

 時間にして、既に数分くらいが経過している。

 ここで待つように言われたけど、二人が話している内容は自分にも大きく関係がある。

 二人の側で見守りたかったけど、今回は此処で待っているように、恋人である黎乃に言われてしまった。


 まぁ、下手にオレが側にいるとややこしくなりそうだし、その方が良いのは分かるけど……。


 情けないなぁ、と自分の足りない部分を再度認識させられて、溜め息が出てしまう。


「まったく、お前もアレだよなぁ。一体どれだけの罪が、重ねられているのやら」


「〈スカイ・ファンタジー〉の時には、お姫様達にフラグを乱立させすぎて、イリヤさんと祈理さんから、何度も怒られていましたからね」


「英雄気質が強すぎるのも考えものだよな。んで、実際に問題を解決しちまうんだから、そりゃ夢見る女の子は惚れるわ」


「SNSでは武神ともう一つ、ジゴロ神と呼ばれてましたから……」


「……ごふっ!?」


 隣りにいる親友の二人からは、呆れた顔で非難する言葉が飛んできた。

 胸にグサグサと突き刺さるけど、あの時は本当に交際する事は考えられなかったので、吐血する思いで受け入れるしかない。


「今回も出会ったお姫様達……確かアリアさんとアリスさん、今回加わったラウラさんと、メッセージのやり取りを定期的にしてるらしいですよ」


「それ小鳥遊ちゃんから怒られないのか?」


「……近況報告してるだけだし、クロも知ってるから大丈夫だよ。多分……」


 ヤバい、こうして客観的なポジションから指摘されると、少しだけ不安になってくる。

 メッセージの内容は彼等に言った通り──例えば『海の国でラウラと出会った事』そして『問題解決のために海底神殿に向かう事』を簡潔に送り、向こうからは応援の言葉が返ってくる流れである。

 けして仲睦まじいやり取りではないし、何だったらこんな内容を送られて、アリア達は楽しいのかすら分からない。

 ああ、でも時々アリアとアリスとサタナスで、お茶会をしている画像付きの報告はとても助かる。

 近々ラウラもお茶会に混ざる予定らしいので、黎乃も四人からの報告がくるのを楽しみにしていた。


「……それにしても、今日は二人とも容赦ないけど一体どうした?」


「いやー、恋愛に一番近くて遠いヤツがいきなりリア充になったからさ。記念に今まで思ってた事を、言ってやろうと思ってな」


「後方腕組みのボク達は、今まで散々やきもきさせられて来ましたから。ゴールインしたのなら、これは全力でイジろうと思いまして」


「おまえ等、鬼か!?」


 それから二人に、今まであった女性とのエピソードを振り返りながら、彼等から見て鈍感だったポイントを一つ一つ指摘されたオレは、


 ああああああああああああああああああああああああああっ!!


 今の状態で改めて考えると、確かにこれは酷い……っ!

 天然ジゴロと鈍感のという言葉が、次々にガードすら許さず胸に突き刺さっていく。

 気分は正にハリネズミ。

 可視化できたなら、今の自分は奇怪なオブジェに見えること間違いなし。

 二人に胃が痛くなるような過去話を延々とされた結果、


「待たせて、ごめんなさい!」


「三人共、待たせてごめんなの……って蒼空君はどうしたの?」


「……スミマセン、本当にスミマセン」


 仲良く手を繋いで戻ってきた、黎乃と祈理の二人を困惑させる程に、オレはただひたすら謝罪するBOTと化したのであった。

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