第177話「剣姫VS黒姫」
クロと二回ほど戦って、危ないところはあったが辛うじて勝利することはできた。
初めて出会ったときは回避と攻撃くらいしかできなかった少女だが、オレが教えた『受け流し』『切り払い』『受けの型』を高いレベルで習得しており、危うく剣を受け流されてからの〈
いや、とっさに受けるダメージを一度だけ無効にする防御スキル〈パーフェクト・プロテクト・コール〉を発動させなかったら、確実にオレはクロに負けていた。
アリサに対して行った、
これでVR歴が半年というのが、とても信じられないポテンシャルだ。
分析しながら、ソラはクロの履歴をふと思い返す。
師匠が対戦ゲームの世界大会五連覇を成し遂げた王者であるシノで、そのシノと互角の戦績を持つという元プロゲーマーの母親を持つクロ。
……あれ、これ冷静に考えてみたら、とんでもないハイブリットが意図せず誕生したのではないか?
とんでもない結論に至ると、ソラは額にびっしり汗を浮かべた。
「むー、最後にもう一戦しよう」
「え、今日はもう止めない?」
無敵スキルとか色々と上級のスキルが二戦でクールタイムに入っているので、今やると普通に不利というか負けそうな気がする。
そんな珍しく腰が引けた情けない心境でいると、ニヤリとオレのスキル事情を察したアリサがクロを援護した。
「ソラちゃんは最強の冒険者なんでしょ? たった二戦かしていないのに、私と連戦した後のクロちゃんを相手にもう戦えないほど疲れたの?」
「ッ!?」
これ以上ない一撃を受けて、オレはぐうの音も出すことができない
周りの船員達からも、そういえばという雰囲気が漂いだすと、逃げ出すことが出来なくなったソラは前言を撤回するしかなくなった。
ロと少し離れた位置で相対した。
「それじゃ、始めるぞ」
「準備オッケーだよ」
互いに確認すると剣を抜いて即座に〈アクセラレーター〉を発動。
地面を蹴って一瞬にしてトップスピードに達したソラは〈ソニックソードⅤ〉を使用、真剣な眼差しで一気にクロに切り掛かる。
「そう来ると思ってた!」
電光石火の如く動きに反応してみせたクロは刃を斜めにして、速度の乗った重たい一撃を、顔を歪めながら教わった防術を駆使して受け流す。
姿勢が僅かに乱れる。
蹴りが来ることを推測していたソラは、とっさにステップを踏んで紙一重で回避して見せた。
「あっぶな!?」
少しでも動くのが遅かったら直撃を貰っていた。
冷や汗を流しながら、剣を横に構えたソラは、緑色のエフェクトを発生させる。
水平二連撃〈デュアルネイル〉。
加速した状態から繰り出される鋭い横薙ぎの斬撃が、クロの胴を狙い放たれた。
辛うじて反応した少女は〈ソードガード〉を剣に発動させ、二連撃の斬撃を奇麗に刃の部分で受け止める。
これに対応できるのか。
内心で驚きつつも、攻撃の手を止めるわけにはいかないとソラは次のスキルを選択する。
それは三連撃のスキル〈トリプルストリーム〉と〈ストライクソード〉を〈スキルユナイテッド〉で合成した必殺の三連撃。
〈ストライク・トリプルストリーム〉。
身体の左側を相手に見せるようにして、腰を落として剣は切っ先を敵に向ける。
左手は刃に添えるだけ。
殺意を少しだけ込めて、ソラは目にも留まらぬ速さで三連撃の刺突を解き放った。
「くぅッ!?」
しかしクロは、これにも反応する。
極限まで高めた集中力で初撃は身体を傾けるだけで回避、二撃目を鋭いステップで避けた。
最後に追いすがり放たれた刺突を、タイミングを見計らって切り払うと、そこでクロは地面を強く踏みつける。
洞察スキルで何が来るのか素早く察知したソラはバックステップしてクロの〈格闘家〉の固有スキル──地面を強く踏みそこから発生させる振動で相手の動きを止める──〈
「今度はこっちから行くよ!」
更にクロの動きは加速する。
身体強化のスキル〈戦意高揚〉が使用されると〈アクセラレーター〉を使用しているソラに勝るとも劣らない速度までステータスが強化された。
スキルを使用しないで、刃を数回交える。
この数日母親のアリサによって鍛えられた剣技は、見事としか言いようがなく互角の打ち合いとなった。
時折スキルのエフェクトをフェイントに入れてくるのも、中々に厄介である。
青いエフェクトを一瞬だけ発生させて〈ストライクソード〉を警戒させると、普通の右下から左上にかけての斬撃がやってくる。
回避は無理と判断して、剣で防御して二人は弾かれるように離れた。
そろそろ勝負を決めなければ。
〈アクセラレータ〉の効果時間を一瞬だけ確認した、正にその時。
クロが一気に前に出てきた。
「ハッ!」
緑色のエフェクトから、最も使いやすい水平二連撃〈デュアルネイル〉だと判断。
クロの鋭い斬撃を全て受け流し、反撃に転じようとしたソラ。
その脇腹に──三つ目の連撃が突き刺さる。
それは流れるように剣撃の最後に織り交ぜられた蹴り技〈龍蹴〉。
直撃を貰う寸前で、とっさにオレは〈エンヴィー・オブ・ダークネスコート〉のスキルを使用。
MPを【500】消費する事で180秒間、物理攻撃ダメージを20パーセントカットする〈エンヴィー・スケイル〉が発動する事で、ソラはHPを二割削られる程度で済んだ。
蹴り技を受けて、オレが次に放った技で決着をつける。
シチュエーションとしては、始めて彼女と戦った時と全く同じ展開だ。
ソラは上段から放つ強撃〈バーティカル・スラッシュ〉を振り下ろそうとする。
そこにクロが、剣を手放して前に出る。
まるで
不味い、と危険を察知したソラはスキルの使用を中止。慌てて〈ソニックステップ〉を後方に向けて使用すると、弾かれるようにクロの射程範囲内から離脱した。
「あっぶな……」
距離を取り思わず、今の心境が呟きとなって口から出る。
あとコンマ数秒反応が遅れていたら〈格闘家〉の固有スキル〈龍掌底〉を受けて負けていた。
正にあの時と同じく勝ちを狙いに行ったら、負けていた一瞬である。
あと一歩で勝てた筈の少女は、少しだけ口を尖らせて残念そうな顔をした。
「むぅ、残念」
「いや、今のは本当に危なかった……」
「でもソラは反応して避けた。……やっぱり凄いね」
嬉しそうな顔をするクロ。
此方の残りHPは半分まであと三割。
対して相手は、ただの少女ではない。
二人の天才によって誕生した、天然の最強の冒険者の一人だ。
この状況で出し惜しみをして、勝てるような相手じゃない。
一か八か、この一撃で勝負を決めなければ。
剣を鞘に収めると、ソラは腰を落として右肩をクロに向けて居合斬りの構えを取る。
選択するのは最大五分間のチャージで絶大な威力を生み出す〈バースト・チャージ〉。
中級のスキルを開放するのに、六枠もの風属性付与を必要とする飛ぶ斬撃〈ストーム・フリーゲン〉。
二つのスキルを〈ユナイテッド〉させる事で、一つの上位スキルが誕生する。
その名は───〈エアリアル・フリーゲン〉。
風の精霊の名を冠した、上位の攻撃スキル。
通常の五枠を越え、十五の付与枠を与えられた〈ルシファー〉にしか扱えない力。
ソラを中心にして風が巻き起こり、風は大きくなって嵐となる。
チャージ時間はおよそ、一分。
全ての風を束ねて刃に収束させると、周囲に訪れたのは一切の風が消失した無風状態。
「───開放」
「くぅ──ッ!?」
ソラが発動した新技を前に、とっさに防御力を上昇させる〈金剛体〉と〈ソードガード〉で防御したが、クロは圧倒的な力に防御を崩されて風の刃に切り裂かれる。
HPが半減になると、ソラの勝利が確定した。
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