第165話「錬金術と付与魔術」
特にやる事もないので、何かあったら部屋のドアを叩いて欲しいとルーカスに伝えて、ソラ達は部屋に戻る。
と言ってもみんな割り当てられている自室ではなく、何故か当たり前のようにオレの部屋に集まっていた。
四人もいると、流石に六畳程ある部屋も少しばかり狭いと感じる。
少女達は、それぞれ好き勝手にソファーやベッドに腰掛け、中身男子のソラがいるというのに無防備な姿でリラックスして、なんとも言えない有様だ。
それともオレの身体が女子だから、彼女達に意識されていないだけなのか。
考えてみるけど理由はまったく分からないし、気まずくなっても困るので聞いてみる気は起きない。
高校一年生で、思春期真っ盛りのソラ。
昔はそれなりに意識していたはずの女子との関わりにも、今ではすっかり慣れてしまい、真横にクロが座っていても平常心でいられるようになっている。
黒いストッキングを解除して、生足を披露しているハトコの少女。
彼女から視線を外して、ウィンドウ画面とにらめっこする事にしたオレは、現在サポートシステムの〈ルシフェル〉と考案している、自分達にしか出来ないチート技をアレコレ相談する事にした。
〘───いやはや、マスター良く思いつきましたね。悪知恵がすごいというかなんというか〙
無機質な少女の声で、ルシフェルが感心を半分に呆れ半分といった感じの感想を口にする。
ソラはふふん、と鼻歌混じりに褒め言葉として受け取り微笑を浮かべた。
「なんとでも言え。修正される可能性は無きにしもあらずって感じだけど、バレなければたぶん即対応される事は無い筈だ」
〘なるほど、通りでアレだけ沢山あったエルをあんなに消費するわけです。無計画に見えていて意外と考えられていたのですね〙
「そ、そうだな……うん、ちゃんと考えていたんだよ……」
〘声のトーンが少し上がりましたね。それとだいぶ歯切れが悪いですよ、マスター?〙
「うるさいな、細かいことにサポートシステムが言及するなよ」
アイテムストレージとは別にある『攻撃』『防御』『補助』スキルの一覧を眺めながら、ソラは眉をひそめてムッとした。
しばらく〈ルシフェル〉とスキルについて問答を繰り広げていると、不意に床の上で何やら見たことが無い道具を広げていたイノリが尋ねてきた。
「そういえばソラ君の付与スキルは、アバターとか武器に使用できるのは聞いておるのじゃが、こういうアイテムとかには使えないのじゃ?」
彼女が手にしてみせたのは、ポーション等に使用しているスライムゼリーだった。
ふむ、ポーションの素材に付与スキルか。
そんなの考えたこともなかったな、とソラはあごに手を当てて、少し考える素振りをする。
言われてみたら〈アストラルオンライン〉を始めてから、一度もアイテムに対して使おうと思ったことはない。
中央広場の掲示板にある最新の初心者用の説明にも〈付与魔術士〉に関しては、冒険者を強化するスキルを扱う職業としか記載されていないはず。
もしもの話なのだが。
ドロップアイテムを付与スキルで加工する事が出来るとしたら、中々に面白いアイテムが錬金術で作れるのでは?
そして誰もやったことが無いのだとしたら、チャレンジしてみる価値は十二分にあると思う。
──というか、その答えを知っている者が側にいるではないか。
ルシフェルにどうなんだと尋ねてみると、サポートシステムの彼女は何故か“ハッとした雰囲気で”少しだけ間を開けてから。
〘………アイテムの加工の件ですが、マスターがスキルレベル100に到達した時点で解禁されています〙
と、言った。
ソラの時が止まる。
そう彼女は、スキルレベルが100になった時点で、アイテムにも使用できるようになっていたと答えたのだ。
どういうことなのかと聞いてみたら〈ルシフェル〉はこう説明した。
〘あの時マスターは、スキルレベルの上限に到達した事で頭が一杯でしたから、聞かれたら答えようと思っていたら、そのまま忘れてました〙
なるほどね?
確かにスキルレベル上限に至り、オマケにプレイヤー全体に強化補填が来てかなりテンションが上がっていたが、まさかそんな項目が開放されているなんて誰も思わないだろう。
オマケにアイテムを加工するなんて、1ミリも考えた事なんて無かったので「アイテムに付与スキルって使えるのかな?」なんて尋ねる機会は先ずやってこない。
せめて一言だけ、新しい事が出来るようになったよ、と教えてほしかったが………忘れていたのなら仕方がない。
いや、サポートシステムが忘れるなんて有りなのかと疑問には思うけど、今更追求したところで意味はないし無駄だ。
今度からはちゃんと教えてくれ、とソラがお願いするとルシフェルは〘承知しました、マスター〙と力の入った返答をした。
「ソラ君、疲れた顔をしているけど大丈夫なのじゃ?」
「あ、ああ、大丈夫だ。それよりも付与スキルを試してみるよ」
手渡されたスライムゼリーに、先ず何を付与するかを考えなければ。
少しだけ考えて、ソラは先ず《火属性付与》のスキルをスライムゼリーに対して使用する。
赤いオーラみたいな光に包まれた青いゼリーのアイテムは、淡い発光と共にその色を鮮やかな真紅に変えた。
それは例えるならば、まるでリンゴみたいな感じだった。
アイテム名はスライムゼリーから変更されて〈ファイアゼリー〉という名称になる。
「おお、色が変わったのじゃ! 見たところ火属性の付与スキルを試してみたみたいじゃが、はてさてお味と効果はどうなのじゃ!」
「え、味?」
すっとソラの手から〈ファイアゼリー〉を受け取り、イノリは舌で軽く舐めた。
「ふむふむ、これはアレじゃ。リンゴゼリーじゃな。効果は……火属性に対する耐性が一定時間上がるらしいのじゃ」
「お、おう。それじゃ全部の付与スキルをスライムゼリーに試して変化を見てみるか。錬金術でポーションにするとしたら、各種類どれだけ付与したら良いかな」
「色々と試したいから各種100セットは欲しいのじゃ。それが終わったら、グリーンスライムゼリーとかハーブとかも100セットはお願いしたいのじゃ」
「え、それ全部今からやるのか?」
「もちろんなのじゃ、徹夜の作業になると思うから今から一回ログアウトして夕食とトイレを済ませてから取り掛かるとするかの。……ああ、MPなら問題ない。われが即時回復のマジックポーションを1000本以上はもっておるのじゃ」
どうやら錬金術士の廃人ゲーマーとしてのスイッチが、完全にオンになっているらしい。
イノリは実に目を輝かせながら、
「アイテムが終わったらインゴットとかも試してみるのも面白いのじゃ。幸いにもここには鍛冶職人のNPCがおる。われの矢くらいなら大量生産できると思うのじゃ」
と、呪文のように今から行おうと思っていることを、口にしている。
アイテムを100セットずつ付与スキルを使用するだけでも、どう考えても徹夜コースなのに、そこからインゴット等などに手を出したら明日の昼まで掛かるのではなかろうか。
でもこうなったイノリが止まらない事は、この場でオレが一番良く知っている。
それに此処で手伝って、トップクラスの錬金術士の彼女から何かアイテムを貰うのも悪くはない。
何より明日は、第一週の土曜日で学校は休み。
多少の無茶をしても問題はなかろう(朝の休日の日課に関しては、ログアウトした後にシノに土下座をする予定として)。
時刻はもう既に20時になろうとしている。眠そうな顔をしているクロの頭を優しく撫でて、ソラはこう言った。
「えっと……クロはちゃんとリアルで寝ろよ。オレは今からイノリと探求の世界に旅立つから」
「うん、りょーかい……」
新しくやる事が増えると、ソラ達は一度ログアウトをする事にした。
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