第157話「スキルのあれこれ」


 エルの案内が一通り終わると、今日はそこで全員解散する事になった。


 祈理いのりは外で待機していた双葉家の執事、池田という黒いスーツを着た女性の黒い車に乗ってその場から去り。

 それを見送った蒼空は、真司と志郎と別れて、黎乃くろのと二人で家に帰った。


 家に帰ると妹の詩織しおりも既に帰宅していて、素麺そうめんの準備をしていたので黎乃と手伝い、三人で昼食を済ませる。


 そういえば詩乃はどうしたのか黎乃に尋ねてみると、どうやら彼女を送り届けて校長と話をした後、今日は〈戦乙女ヴァルキュリア〉のメンバーと日本支部に仕事に出掛けたらしく、今家には誰もいないらしい。


 あの家で一人留守番は危ない感じがするので、今日のゲームプレイはうちでするのを提案して、これを黎乃は嬉しそうに了承した。


 そして一緒にログインしたいと甘える黎乃のお願いを聞いてあげた蒼空は、ルームウェアに着替えて、彼女と横並びになって自室のベッドに横になる。


 VRヘッドギアを装着すると、黎乃はこう言った。


「今日から忙しくなりそうだね」


 全くだと答えると、蒼空は彼女と声を揃えて、ゲームスタートと声を揃えて仮想世界に意識をダイブさせた。





◆  ◆  ◆





 ログインすると、ソラはクロと共に先ずウィンドウ画面を開いて、リボンで包装された箱型のアイコン『プレゼントボックス』を確認した。


 そこに新着で来ているのは、リアル世界の神様から受け取った『スキル選択券』なるアイテム。


 試しにタッチして確認すると、そこには既存のスキルショップに並んでいるスキルのリストが表示された。


 どうやらこの中から、スキルを一つ選べという事なのか。


 見たところレアスキルの類は存在しないので、高額のエルを使わずに一つだけ獲得できるという利点しか無さそうだ。


 最近の事なのだが、祭りの利益を協力者達に分配しても数百万エルもの大金が懐に入り、つい財布の紐が緩んでしまって残り数万エルしか現在は手元に残っていないので、こういうのは素直に有り難い。


〘マスターは大金を持たせたらいけないタイプの人間ですよね。あの時クロ様も呆れられてましたよ〙


 〈ルシフェル〉それに対してはノーコメントだ。


 ちなみに現在のオレのスキル状況はこんな感じである。


―――――――――――――――――――――


 【冒険者】ソラ


 【スキル一覧】


 【攻撃スキル】


 ・ストライクソードⅤ


 ・ソニックソードⅤ


 ・ガードブレイクⅤ


 ・デュアルネイルⅤ


 ・トリプルストリームⅤ


 ・クアッドスラッシュⅤ


 ・レイジスラントⅤ


 ・バーティカル・スラッシュ


 【防御スキル】


 ・ソードガードⅤ


 【補助スキル】


 ・魔法耐性Ⅲ


 ・物理耐性Ⅲ


 ・状態異常耐性Ⅲ


 ・洞察Ⅱ


 ・感知Ⅱ


 【付与スキル】


 ・属性付与Ⅴ


 ・攻撃力上昇付与Ⅴ


 ・防御力上昇付与Ⅴ


 ・素早さ上昇付与Ⅴ


 ・跳躍力上昇付与Ⅴ


 ・異常耐性上昇付与Ⅴ


 ・付与軽減Ⅴ


 【装備付与スキル】


 ・強度上昇付与


 ・鋭利上昇付与


 ・急所率上昇付与


 【スキルスロット】


 【攻撃枠】


 〈ディセーブル・スラスト〉

 ・敵の防御力を無効にしてダメージを与える刺突スキル。


 〈アングリッフ・フリーゲン〉

 ・遠距離から三日月の形状の攻撃を放つスキル。


 〈カウンター・ブースト〉

 ・敵の攻撃に対して反撃に成功した際に攻撃力を増幅するスキル。


 【防御枠】


 〈ソニックステップ〉

 ・ステップ移動した際に、瞬間的に加速する緊急回避スキル。


 〈ロイヤルガード〉

 ・敵の攻撃を防御した際に、ダメージ量に応じて全スキルのクールタイムを短縮するスキル。


 〈スケープゴート〉

 ・自身にヘイトを向けられた際に幻影を作り出し、一時的に敵のヘイトを解除するスキル。


 【補助枠】


 〈硬直タイム短縮Ⅱ〉


 〈クールタイム短縮Ⅱ〉


 〈装備重量軽減Ⅱ〉


 〈クイックチェンジ〉


―――――――――――――――――――――


 以上がオレの現在のスキル構成となっている。


 色々と購入してセットしたりしたが、何というかスキルが意外にもゴチャついていない事に驚かされる。


 現状のスキルスロット内で変更をするとしたら、真っ先に候補になるのは攻撃枠の〈ディセーブル・スラスト〉と補助枠の〈クイックチェンジ〉だろう。


 他は使い勝手が良いので、外す候補に上がってくることはない。


「さて、選ぶとしたらやっぱりこれかな」


 そう言ってソラが選択して獲得したのは、攻撃枠の〈バースト・チャージ〉というスキル。


 こちら海の国のスキルショップで、お一つ1000万エルというメチャクチャ高額なスキル。流石にこれを購入するのは無理と、オレが肩を落として諦めていた一品だ。


 スキルテキストによると、効果はチャージした分だけ、威力が上がるというシンプルなもの。


 これにオレの付与スキルで極限まで強化して、更に敵の弱点属性まで加えて攻撃を放てば、一体どれほどの威力になるのか。


 ボスモンスター特効スキルの〈ヘヴンズロスト〉を除けば、間違いなくこのゲーム始まって以来の最大火力を叩き出せるのではないか。そう思うと、小躍りしたくなるくらいにワクワクする。


「次の戦闘で使うのが楽しみだ」


「ソラ、楽しそうだね」


「当たり前だよ。こうやってスキルの設定をアレコレ考えているだけで、オレはこのゲームで一年は遊べるぞ?」


「それはちょっと……ううん、だいぶ変だと思うけど」


 苦笑いするクロに失礼なと思いながらも、ウィンドウ画面を操作して決定をタッチ。


 これでスキルの設定は完了。


 次にやらなければいけない事は、一つ上の〈中級付与魔術師〉となった事で、スキルポイントを更に振ることが出来る様になったオレの職業。


 これまで貯め込んでいたポイントを全て投入すると、スキルレベルは110になって二つの選択肢がソラの目の前に現れる。


 それは武器の熟練度と同じで、新しいスキルを獲得するか、既に獲得している付与スキルを二回強化するかのどちらか片方しか選べないものだった。


 新しいスキルは見たところ、武器に付与するもので〈怯み率上昇付与〉という中々に面白い名前だ。


 オレの主武器の〈白銀の魔剣〉はBランクの武器なので四つの付与枠がある。


 現在は三つしか装備に付与するスキルは使えないので、空いている枠にこれを付与しても良いかもしれない。


 というわけで新しい付与スキルを一つ選択して、早速〈白銀の魔剣〉に付与するとソラはウィンドウ画面を閉じた。


「そういえば、イノリはまだログインしてこないのかな?」


「同じ時間にログインするって言ってたけど、イノリちゃん体調が良くないのかな……」


「それなら連絡が来るはずだけど、まさか外出した疲れでアイツ寝落ちしてるのか」


 イノリはリアルの体力がミジンコ以下なので、その可能性は十分にある。


 とはいえ連絡もない状況で勝手に動いて、彼女とニアミスになるのは避けたいところ。


 ここはウィンドウ画面でも見ながら、気長に待つことにするか。


 そう思ってベッドに横になると、何やら大きなクッションに後頭部が当たる。


 あー、これはまさか……。


 嫌な予感がしながらも、恐る恐るその場から逃げようとすると。


 背後から伸びてきた両手がソラの頭を掴んで、力強く引き寄せた。


「ログインして早々にソラ君に甘えられるとは、もしやここは天国なのじゃ!?」


「離せぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 高校男子には刺激の強すぎる二つの凶器を押し付けられて、ソラは必死に逃げようとする。


 だが相手はかつて〈スカイファンタジー〉で共に肩を並べた歴戦の強者、ソラに匹敵する技術でしっかりとホールドして逃してくれない。


 ベッドの上で一進一退の攻防が繰り広げられていると、クロが助けに来るどころか口をへの字にして飛び込んできた。


「わ、わたしだって胸あるもん!」



 ブルータスお前もか。



 後にソラは〈大災害〉を相手にするのと同じくらい、抜け出すのに苦労したと親友の二人に、この時の事を死んだ魚のような目で語った。

 

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