第158話「パンの配達と謎の少女」
宿を出発したソラ達は、とりあえず情報収集を兼ねて簡単なクエストをいくつか受ける事にした。
最初に受けたのは、お使いクエスト。
長い坂道を何度も降りたり登ったりするので、経験値が良くてもかなり時間の掛かるクエストなのだが、これをソラは〈素早さ上昇付与〉と〈跳躍力上昇付与〉でステータスを強化する事で、ショートカットを繰り返し行い一時間の内に四件も達成する事ができた。
そして最後のパン屋の小さな娘さんが焼いた、できたてのパンを城の門番をしている父親に渡してほしいというお使いクエストを実行中。
パンが入った袋を丁重に収納したソラは、高くジャンプして家の屋根に着地すると、次の家の屋根に向かってジャンプ。
クロとイノリも後ろに続いて、オレ達は下の道を走るよりも素早く、王城に向かって真っ直ぐに跳んでいく。
やっている事は完璧に忍者で、見かけた他の冒険者達は目を丸くしてその様子をスクショする。
自分は長いズボンだけど約ニ名はスカート。
中の下着が見えてしまうのではと思うが、これはゲームの中。
ちゃんと盗撮防止にセクシャルガードが働いて、中身は真っ黒に塗りつぶされるので問題はない。
考えられる限りの最短距離で跳んだソラ達は、最後の家の屋根を跳ぶと、10メートル以上はある大きな門の前に綺麗に着地した。
それを目撃した門番の男性が、腰を抜かしそうな程に驚いて見せる。
「白銀の冒険者様!?」
「どうもー、可愛い娘さんから心のこもった荷物を届けに来ました」
「あ、ありがとうございます」
ストレージから取り出した、できたてのパンが入った紙袋を驚き顔の門番に手渡すと、クエスト達成と同時に経験値が加算される。
ちなみにこのクエストは食材の鮮度システムの関係上で、制限時間が設けられている。
もしも中身のパンを食べてしまったり、ちゃんと届けれなかった場合には、失敗と共に信頼度が落ちて最悪村人からクエストを受けられなくなるので、気をつけないといけない。
オマケに港付近のパン屋からここまでの道中、このクエストを作成した者の罠なのか進路を妨害するイベントがランダムでいくつか発生する。
例えば子供が坂道でジャガイモの袋をすっ転んでぶちまけたり、女性が悪漢に襲われたりとか。
そういったイベントを発生させないのが、オレが発見した建物の上を跳ぶルートだ。
ちなみに正規ルートを見ながらやった事があるのだが、道中で必ず起きていたトラブルは何一つ無かった。
流石に建物上を跳んでいくなんていう発想は無かったのだろう。
門番の男性は受け取った袋とオレを交互に見ながら、困ったような顔をして頬を右手の人差し指で掻(か)いた。
「いやはや、白銀の冒険者様は相変わらず凄い事をされる。先日のキングクラブの一件でも、城の団長や国王が絶賛されておりましたよ」
「ああ、あの甲羅しか落とさなかったヤツか。経験値は良かったけど、アイテム的にはそこまで美味しいモンスターじゃなかったな」
「ハハハ、そこまでお強いと強敵に打ち勝った名誉よりも、ドロップ品にしか関心がないのですね」
「当たり前だろ。見えないものよりは、便利で役に立つ物の方が良いに決まってる。それがレアなアイテムだと尚の事良いぞ」
ソラのゲームにおける、モチベーションの大部分を占める基本要素を口にすると、門番の兵士は実に興味深そうな顔をした。
「面白い話をありがとうございます。なるほど、冒険者がモンスター達を率先して狩っているのはそういう理由もあるのですね」
「おう、覚えとくと良いぞ。オレも英雄だのなんだの言われてるけど、基本的には全部自分の為にやった結果だからな」
「いえいえ、例えご自身の欲の為に行動されたとしても我々の考えは変わりません。
外界の民からしてみたら、アナタと仲間の方々が〈大災害〉から二国を救った偉業は、十分に
兵士が微笑を浮かべると、門の向こう側が何やら騒がしくなった。
〈感知〉スキルで見たところ、複数の兵達が右往左往している様子が分かる。
扉が開いて男性の名前が呼ばれると、
「話の途中ですみません、失礼します」
兵士はそう言うと、もう一人の門番に騒ぎの様子を見てくると言って門の中に消える。
話し相手がいなくなったので、次のクエストに向かうために
「おまたせ、待たせてごめん」
「大丈夫だよー」
「われ等も暇つぶしに情報交換をしておったからの」
二人と合流すると、HPゲージの下にある経験値の貯まり具合を見てみる。
称号の効果で経験値もそこそこ貯まり、後少しでレベルが一つ上がりそうだった。
「荷物を運ぶだけでこんなに貰えるなんて、美味しいクエストだったな」
「一番下の街から一番上のお城の門番に制限時間付きのパンを渡すって聞いたときは、ふざけるなと思ったのじゃが、ソラ君のおかげで思いの外楽に終わったのじゃ」
「ぴょーんぴょーんって、アスレチックみたいで楽しかったね!」
「それは何より。よし、それじゃ次に行くよ」
次に受けたのは、浜辺に定期的に飛んでくるサメっぽいモンスター〈ブリットシャーク〉レベル50をひたすら撃ち落とす作業だ。
〈ブリットシャーク〉は名前の通り弾丸のように飛ぶ能力を有しているモンスター。
耐久値と防御力と状態異常の耐性が低い代わりに攻撃力だけに特化していて、もしも回避する事が出来なかったらフルアーマーの騎士のHPが、一撃で八割持っていかれる程のダメージを受けることになる。
これに対してオレ達の取った作戦は、イノリが狙撃でスタンさせた敵を、オレとクロが二人で
「はっ! ほっ! てりゃ、なのじゃ!」
ハイスペックの弓を使っているとはいえ、イノリは海から飛び出してくる弾丸というよりは、ミサイルのような動きをするサメ型のモンスター達を次から次に正確な狙撃で射抜いていく。
「良い仕事だ」
「これは楽だね」
勢を止められ浜辺に落ちてピチピチ跳ねるサメ達を、待機しているソラとクロがまな板の上の
ドロップ品は武器の素材になるっぽいサメの牙とか、食材として売れるフカヒレとかばかりで、珍しいアイテムとかはない。
三人で黙々と繰り返し行う作業と化しているサメ狩りを行っていると、不意にオレは誰かに見られているような視線を感じた。
誰だ?
感知スキルでそちらの方角を見てみると、頭まで隠れるようなマントを羽織っている一人の少女っぽい人物を見つけた。
背丈から推測するに、恐らくはクロと同じくらいの年齢だと思われる。
「ソラ、どうしたの」
「いや、なんでもないよ」
悪意のたぐいは一切感じない事から、クロにはこの事は黙っておく。
理由としては単純なもので、ちらりと横目で〈洞察〉スキルを発動したところ、相手のレベルは60程度。何か変な動きがあったとしても、オレなら対処できると判断したから。
数十分後に作業を済ませて、サメ達が出てこなくなると、ソラ達はビーチの管理人に話をしてクエストを完了。
レベルが上がりオレは71に、クロは66になってイノリは62となった。
経験値を増やすスキルの類を持っていないプレイヤーは、お使いクエストとサメクエストを両方やったとしても、レベルが1上がる程度なので
「さて、それじゃ次に行こ」
「ちょ、ちょっと待って下さい……」
三人で次のクエストに向かおうとした時だった、背後から先程視線を送っていた人物が声をかけてくる。
振り返ってフードで隠しているその顔を覗き見ると、青い髪とサファイアのようにキラキラと輝く宝石のような瞳が、オレの事をじっと見つめていた。
「キミは?」
「……はじめまして、ラウラと申します。
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