第151話「キングクラブ戦」
クラブが長い同類との戦いの果てに進化した、全長八メートルはある巨体に硬い甲殻を併せ持つクラブの王者。
その鋭いハサミは常に強者を求めて、深い海を
以上がサポートシステムこと〈ルシフェル〉が聞かせてくれた巨大カニに関するエピソード。
出現条件は同族であるカニを30分以内で一定数を倒した後に、クエストを完了させるのが第一条件。
第二条件はランダムエンカウントらしく、その確率は3%以下でとても低いとの事。
だからアレが現れたのは、ぶっちゃけた話をすると半分以上はオレのせいだと言える。
レベルは70で弱点の属性は【雷】。
だが何よりも冒険者達にとって恐ろしいのは、ランク【C】以下の装備を問答無用で破壊する二つのハサミだろう。
現にBランクに届いていない騎士の盾は、防御スキルを無視して真っ二つにされて、とっさにハサミを武器でガードした者は防御した武器を破壊された後に真っ二つにされて消える。
援護射撃にと、万が一の事を考えて港に設置されている大砲をNPCの船員達が放つが、防御スキルを発動させたキングクラブはそれを簡単に弾いてしまう。
正に初見殺し。
高ランク装備を揃えていない者には、自分に挑戦する資格はないと言わんばかりに、無慈悲な装備破壊と共に死をプレゼントする圧倒的強者。
ついでに装備に費やしたエルの事を考えると、二重の意味でダメージを受けて立ち直れなくなる事間違いなしだ。
なるほど、確かにアレは強い。
今は
二本ある内の一本を何とか削り切ったところで、敵のモーションが変化する。
カニのくせに高く跳躍して、全質量を利用して地面にスタンプ攻撃。そこから発生した衝撃波が、周囲にいた全ての冒険者達をスタンさせた。
──不味い。
港に到着して〈白銀の魔剣〉を抜いたソラは、後方に続く二人に指示を出した。
「敵のハサミはCランク以下の装備を破壊する効果を持ってる、基本的に受けることはしないほうが良さそうだ」
「つまり回避と攻撃に専念しろってことなのじゃ」
「りょーかい!」
走りながら弓を手にしたイノリが、ストレージから上質そうな矢を取り出して構える。
オレが四つの〈攻撃力上昇付与〉と一つの〈雷属性付与〉を重ねがけしている彼女は、金色の雷をその
「さてさて、それでは一ヶ月ぶりの出陣見せてやろうぞ!」
舌なめずりをした少女は、狙いを定めてMPを消費。
騎士を両断せんと迫るカニに対して、イノリは渾身の力を込めた、最初の一撃を放つ。
「
手元から飛翔した一つの雷は、真っ直ぐにカニの右目に向かって飛ぶと突き刺さり、真っ赤なダメージエフェクトを発生させた。
『ガニィ!?』
クリティカルヒットしてニ割程のHPを削った彼女に対して、キングクラブは殺意を抱いて駆け出した。
だがそれは、余りにも致命的な判断。
地面を駆ける二つの閃光が、白銀の刃と薄いラベンダー色の刃を手に地面から飛翔した。
「オレ達を無視すると、死ぬぞ」
二人が繰り出すのは、レベル5の雷属性の付与と突進攻撃スキル〈ソニックソード〉の複合技〈ライトニング・ソード〉。
二つの雷を宿した刃が、とっさに迎撃しようとした敵の一撃を回避して内側に潜り込み、最も柔らかいお腹に二つのバツ印を刻んだ。
発生するのは赤いダメージエフェクト。
目玉に受けた一撃と合わさって、キングクラブのHPが一気に三割程削れる。
「ソラ!」
標的をソラとクロに変えた怒るモンスターは、二本のハサミを構えて〈デュアルシザース〉を発動させた。
大質量の二つのハサミを、よく引き付けてから二人は〈ソニックステップ〉で真後ろに高速で跳んで回避。
スキル攻撃をする事で発生した一瞬の動きの停止を逃さずに、敵の残ったもう一つの目玉を正確な狙撃でイノリが射抜いた。
矢が着弾したと同時に、付与したスキルとは別種の雷がモンスターの全身を駆け巡る。
弱点属性でHPが更に一割減して、そこから状態異常の〈
『ッ!?』
両目を潰されて更には〈麻痺〉まで付与されたキングクラブは、一時的に行動不能になる。
加えて目の欠損に対して自動回復モードに入り、隙だらけになるのを見て、ソラとクロは同時に前に出た。
二人して発動するのは、速度上昇スキルの〈アクセラレータ〉と攻撃力上昇スキルの〈ストレングス〉。
それに加えて〈強度〉〈鋭利〉〈急所〉の三種の付与スキルによって強化された二つの剣が、スキルエフェクトで眩い光を放つ。
キングクラブのHPは残り六割程度。
もてる最大強撃ならば、オレが密かに考案している技で倒しきれるか?
「いっくよー!」
先行したクロが〈ライトニング・ストリーム〉による水平二連撃を刻み、更に最後の突き技を寸前でキャンセル。
下段に構えた直剣をそのまま勢いを殺さずに〈ライジング・スラント〉を発動。
右下から左上に稲妻と共に斜線を刻み、キングクラブのHPを残り三割まで削る。
「ソラ!」
「流石は相棒、良い仕事だ!」
スキル硬直に入ったクロの言葉に応じて、剣を横に構えたまま〈ライジング・ストライクソード〉を発動させた。
眩い青い閃光のエフェクトが、周囲を照らす。
刺突スキルを右手に構えたソラは、ミサイルの如き速度で突撃して、キングクラブの胸の中心に〈白銀の魔剣〉を突き刺す。
そこで敵のHPは残りわずかになるけど、オレの攻撃は終わらない。
突き刺した状態のままで片手直剣カテゴリー、雷の上位スキル〈ライジング・バーティカルスラッシュ〉と跳躍の上位スキルを
そのまま空中を蹴り、剣を手にしたまま中段から上段に一気に駆け昇る。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
雄叫びと共に、白銀の剣を振り抜く。
必殺の刺突技と垂直強撃を綺麗に繋げた連続技を受けた〈インクリィーシン・キングクラブ〉のHPが0になるのを確認して、オレはスキル硬直に入った。
巨大なカニは光の粒子になって爆散。
シークレットモンスターというだけあって凄まじい経験値が入り、レベルが2つも上昇。
更にキングクラブの甲殻というアイテムがドロップする。
ソラはそのまま受け身を取ることも出来ずに、地面に背中から落ちた。
しかし危ないところで、役目を終えて走ってきていたイノリがキャッチする。
「ふぅ、なんとか倒せたな」
ため息混じりに呟くと、イノリが呆れた顔をした。
「無傷で倒しておいて、よく言うのじゃ」
「それは仕方のない事だよ。このアバターのビルドは、敵の攻撃を受けることを前提にしていないからな」
本来のオレのスタイルはバランス型なのだが、この身体では積載量の限界があるのでどうしようもない。
そもそも受けると、ノックバックや怯みで反撃できない可能性が高い
受けるのは最終手段で、できる事なら回避がベストなのはどのVR対戦でも変わらないだろう。
ならばボス戦でタンクはいらないのでは、という話になるのだけど。大型ボスの攻撃を避け続けるのは、集中力を大幅に削るから事故などを踏まえるなら受けれる人達が必須になる。
昔からここら辺の話は、VRMMORPGの戦術掲示板で議論されているが要るの要らないだので結論は出ていない。
そんな事を考えていると硬直が解けたクロが、同じ団のソフィア達と何か話した後に別れて、こちらに歩み寄り笑顔で二人に労いの言葉をかける。
「二人とも、おつかれさま!」
イノリは、彼女に対して微笑を浮かべた。
「噂には聞いておったが、やるではないかクロ。これは正妻戦争に思わぬダークホースが現れたもんじゃ」
「だろ? クロの実力は、たった数ヶ月でオレ達に追いつく程すごいんだぞ」
「ほ、褒めても何も出ないよ?」
褒められる事に慣れていないのか、クロが恥ずかしそうに顔を真っ赤に染める。
その様子をイノリと二人で、ニヤニヤしながら眺めている時の事だった。
聞き慣れた
そこにはこう記されていた。
【アップデートのお知らせ】
・後一時間後にアップデートが始まります。
・安全地帯か簡易テントを用いてログアウトしなければ、強制的に【天命残数】が一つ減るのでご注意下さい。
内容に目を通した後、硬直が解けたソラは二人の視線を受けながらこう判断した。
「とりあえず今日はここまでだな。宿に戻ってログアウトするから、イノリも来るか?」
「是非ともお供するのじゃ!」
「やったー! 今回はイノリちゃんが一緒なんだね!」
嬉しそうなクロとイノリが仲良さそうに小躍りするのを眺めながら、オレは二人を連れて宿に向かう。
しかしソラは、大事なことを一つ忘れていた。
借りている宿が、“ダブルベッド”だと言う事を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます