第128話「竜王祭②」
〈竜王祭〉のイベント内容は、単純なもので基本料金は全屋台統一して1000エル。
それ以上にもそれ以下にも設定する事はできず、参加する者は決められた金額に見合う商品を提供しなければいけない。
だから普通の〈レッサードラゴン〉の肉を使った串焼きだと、1000エルの条件をクリアするには一本では不足で二本必要となる。
オレ達の串ドラカツは一本でも基準を満たすことに成功したので、タレはオマケとして、そのまま行くことになった。
勝敗を決めるのは売った個数。
一番多く売った者が、この祭りの王者となるという実にシンプルで分かりやすいルールだ。
そして時刻は9時から〈竜王祭〉が始まって、現在は12時のお昼時。
ソラは真剣な眼差しで、目の前に並んでいるフライヤーと戦っていた。
「──串ドラカツ60本揚がったぞ!」
スキルによって出来上がった瞬間を見逃さず、二つの大型フライヤーから完成した料理を全て取り出す。
それをトレーに移すと、カウンターの前に立っている三人に向かって差し出した。
「りょーかい!」
手早くクロが受け取ると、他の二人と三人で均等に20本ずつ分け合って、目の前に綺麗に整列している客と向かい合う。
「お、おひとつ1000エルでしゅ! あぁぁぁ、また噛んじゃったぁ!?」
「はい、お待たせしました。二本で2000エルですね、ありがとうございます。
危ないから後ろの人は押さないで下さい。串ドラカツご希望のお客様は、順番で後ろの方からお並びください」
「商品受け取った者は、立ち止まらずに道をあけなさい。列の割り込みは皇女として許さないわよ」
「串ドラカツ美味しいよー!」
混雑する客を相手に、屋台の前で黒と白のオーソドックスなメイド服を身に纏った、四人の天使が対応してくれている。
何故メイド服なのかって?
それは可愛い女の子が接客するなら、メイド服を着るべきだって古事記にも書かれていると、妹のシオが熱弁したからだ。
「ソラ、はやく次を作って!」
「お兄ちゃん、もうすぐで無くなりそう!」
「こっちも無くなりそうよ!」
「はいはい、もうすぐ出来ますよーっと」
三人がレジ対応している間にフライヤーに放り込んでいた次の串ドラカツを、ソラは出来上がったと同時に先程と同じように回収して、三人に差し出す。
そして事前に揚げるだけにしていた串ドラゴカツを60本取り出して、フライヤーに一斉に放り込み、ソラはあっという間に60本を売り切って先程渡したのを手にするクロ達に視線を向ける。
うーん、四人とも実に似合っている。
少しだけ恥ずかしそうにしているクロは実に可愛らしく、まるで小動物のよう。
その隣では接客モードのスイッチをオンにしたシオが、テキパキと目の前の客を処理していき、サービスとして時折ウインクして周囲の客をドギマギさせる。
竜のお姫様にメイド服という組み合わせも破壊力がバツグンで、オレはメイド服を着せた不敬罪で捕まるのではなかろうかとつい思ってしまう。
いつも着ていたワンピースではない服装のサタナスも愛らしく、客は彼女の頭を撫でてから離脱するという何だかよく分からない流れが出来上がっていた。
ちなみにオレは、ここにはいないシンとロウと同じ執事の姿だ。
何故この女子の面子で、一人だけメイド服を着ないのかと問われると、それは自分が男である大事な一線を守るために拒否したからだ。
メイド服を着せようと妹は一歩も引かなかったが、この身体は少女でも心は日本男児。
はい、わかりましたと言ってメイド服なんて着たら、正直に言って身体だけじゃなく心も少女になりそうで怖い。
というわけでゴースト竜王に負けそうなら、最後のカードとして切る事を約束したオレは、晴れて執事服を着ることになった。
うん、ひらひらしていない服は、実に心が落ち着く。
そう思いながらもソラは、屋台に備え付けられている〈クリスタル〉に表示されているスコアを確認する。
現在のトップは新作ポーションと共に、焼きそばっぽいモノを売っていた〈
3位は4位とスコアが同じで、老舗のたこ焼きっぽいモノを売っていた屋台と、ゴースト竜王の屋台だ。
最強の商業クランが一位なのは納得だけど、まさか大学芋で3位にピッタリついてくるとは、ゴースト竜王率いるスケルトン達もネタ枠ではなかったという事か。
具体的に見える差としては、オレ達は下の3位に100皿くらいのリードをしている。
回転数はかなり高いはずなのに、これだけの差しかない事に、少しだけ震えた。
向こうのストックがどれだけあるのかは分からないが、こうなると限られた時間でどれだけ多く最速で売れるかが勝敗を分けそうだ。
「まぁ、楽に勝たせてはくれないよな!」
揚げ終わった串ドラカツを渡しながら、次のを投入させるソラ。
今の時刻は12時で、自分達が売っている本数は大体1620本。
接客時間を20秒くらいとして、売れる速度に対して揚げるのが追いつかなかったりした事もあり、大体一人頭540本売っている計算だ。
流石に3時間も休むことなく売り続けているからか、3人とも少しだけ疲れが見える。
そろそろ交代して上げたいところなのだが───
「おーい、偵察終わったぞ」
「遅くなってすみません、直ぐに交代しますね」
この上ないタイミングで、執事の姿をしたシンとロウが戻ってきてくれた。
「で、女子組を休ませる間、俺達男組みは三人態勢だ。一人減るわけだから速度は確実に落ちる。──ソラ、一人で二人分の接客が本当に出来るんだな?」
「おう、任せろ。オレがレジに立つから、代わりに揚げ物担当を任すぞ、シン!」
「いや、それは余裕なんだがおまえの負担が……」
「ふっふっふ、任せな。屋台のクソゲートップ一位から三位を制覇したオレに、不可能はないからな」
闇討ちが必要な屋台ゲームもあれば、時には常に最高の接客をしなければいけない屋台ゲームもあった。
あの地獄をクリアしてきたオレからしてみたら、この程度の接客はお茶の子さいさいだ。
「なら良い。分かった、おまえに全てたくすぞ」
「ボクもできる限り、最速で対応していきます」
「よーし、それじゃやるぞぉ!」
と、男子三人でテンションを高めていた時の出来事だった。
カウンター側の方で、少しだけ客がざわざわするのが聞こえる。
ちらりと視線を向けると、そこにはクロの手を掴む中級者程度の冒険者とその仲間っぽいのがいた。
「ねぇねぇ、キミ達とても可愛いね。よかったら俺達と」
最後まで言い切る前に、オレの鋭い殺意がピンポイントで、僅かレベル30しかない低レベルの冒険者達を射抜く。
「ひぃ!?」
レベル60という圧倒的な差から生じたものか、ソラに睨みつけられた冒険者達はクロ達に対する言葉を途中で止めて、慌ててその場から逃げるように退散する。
その情けない姿を見送った後に、気を取り直した冒険者と竜人族の客達は、再び屋台に並び直した。
ぽかーんとしたシンとロウが、オレの方を見ると先程の事について尋ねてきた。
「ソラ、今のスキルか?」
というシンの問いかけに、ソラは首を横に振った。
「いや、軽く睨みつけただけ」
「軽く? 凄い睨みでしたよ。ボクですら一瞬、鳥肌が立ちま痛!?」
身震いして見せるロウに軽くデコピンして黙らせると、ソラはフライヤーの前から退いて全員に言った。
「はい! 今から交代だぞ。女子達は師匠が今から来るそうだから、一緒にどこかで休憩して、オレ達男子組みは今からその間全力で在庫を売り切る覚悟でヤルゾ!」
有無を言わせない言葉の圧に、他の5人は『了解!』とだけ答えた。
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