第124話「スキルレベル100」


 アレから〈エウテニアー〉の街を探索して村長からのお使いクエストをいくつかこなした。


 ファンタジーゲームのお使いクエストというのは実に面倒なモノで、基本的には往復になるパターンが多い。


 足が悪い村長に先ずは「村の端に住んで火山を調査している女性の学者が、病気で寝込んでいるから薬を届けてほしい」と頼まれて、ソラ達は病に効く薬を受け取り持っていく。


 薬を届けると、それを飲んだ女性はたちまち元気になり、その際にソラ達は彼女の口から「この地域一帯の火山の活動がおかしい」と何やら穏やかではない事を聞かされた。


 それを伝えて欲しいと頼まれて村長のところに戻ると、次は女性の学者と共に調査して欲しいと再び依頼される。


 学者の家に二度目の訪問をすると、今度は彼女に頼まれて、近くにある火口の調査に馬車で向かう事にした。


 火口の調査中で〈レッサードラゴン〉に襲われる耐久イベントみたいなのが発生したが、オレ達はこれを誰一人ダメージを貰うことなくクリア。


 調査を終えて〈エウテニアー〉の街に戻ると、学者は調べた情報を共有する為に他の街に連絡を取り、そこで全ての火口が活動を停止させていることが発覚する。


 この異常事態から彼女は〈魔竜王〉ベリアルが復活する恐れがある事をオレ達に教えてくれて、最後にその事を村長に伝えると「王に報告しなければ」と言った所でクエストは完了した。


 中々に手間が掛かるクエストであったが、それに応じた大量の経験値とエルを獲得できたので、オレは満足する


 ちなみにその際に、ソラのレベルは61から62になり、クロのレベルは56から57に一つ上がった。


 しかし良い事だけではない。


 〈魔竜王〉が復活するかもしれない。


 この事にショックを受けた一人の竜の皇女が、震える唇で信じられないと言わんばかりに呟く。


「〈魔竜王〉が復活……そんな、なんて事なの……」


 オレとクロはリアルで〈魔竜王〉ベリアルの復活イベントが近い事を知っていたので、学者の話を聞いても全く驚かなかった。


 しかし母親を亡くした原因である〈大災害〉の復活を聞いた、何も知らないアリスが受ける衝撃はオレ達とは違う。


 サタナスの手を握り締めて、彼女は不安な顔を浮かべる。


「一年前に、母上が火口に身を投げだして、復活を阻止したっていうのに……」


 顔は真っ青で、アリスは今にも気絶しそうなくらいに酷い顔をしている。


 オレとクロが何て声をかけてあげるべきなのか、分からなくて悩んでいると。


 小さな少女は、そんな彼女の手を優しく握り返して、微笑んでみせた。


「ソラお兄ちゃんがいるから、だいじょうぶだよ!」


「うん! ソラは世界最強だからね、リヴァイアサンだって、ソラがいなかったら倒せなかったかもしれないし!」


「おう、戦いなら全てオレに任せろ」


 三人の視線を受けて、ソラは右手で胸を打ち、まるで〈レッサードラゴン〉を相手にするかのように、軽く承諾しょうだくする。


 相手は7つの大罪の内の一つ、傲慢ごうまんを司る〈魔竜王〉ベリアル。


 間違いなく一筋縄ではいかない強さだろうが、こちらは以前に戦った〈嫉妬しっとの大災害〉リヴァイアサンと戦った時とは、比較にならない程に強くなっている。


 恐れるものは何もない、と自信満々の表情を浮かべるソラ。


 アリスはそれを見て、苦笑した。


「そうね、規格外の英雄がいるのなら大切なモノを失うかもしれないと、不安に思う必要はないのかも……」


 規格外の英雄。


 今までも沢山、冒険者ソラは他が驚くような規格外な事はしてきた。


 きっと今から行うことも、他の人からしてみたら、有り得ないと驚かれること間違いない。


 しかしオレは、彼女の不安を払う為に。


 いずれ相対する〈魔王〉と戦う為に、今以上の高みに至るとしよう。


「ふふふふ、みんな大船に乗ったつもりでいてくれ。何せ今のレベルアップでオレは、遂に到達したからな!」


 ニヤリと笑みを浮かべるソラは、ウィンドウ画面を開いて、自身のステータスの項目の中にある職業をタッチ。


 先程獲得した〈スキルポイント〉を確認すると、そこには通常プレイヤーならレベルが1上がるごとに【10】ずつ増えるポイントが【40】となっている。


 これはオレが魔王に破れた際に獲得したユニークスキル〈ルシフェル〉が、もたらしてくれている最上位の恩恵。


 その効果はレベルアップした時に、常に4倍のスキルポイントを獲得できるというもの。


 冒険者がスキルレベルを【1】上げるためには、スキルポイントを毎回【20】も消費しなければいけない。


 オレは迷わずに所持している【40】のポイントの半分を、現在設定している〈付与魔術師〉に入れた。


 ソラのスキルレベルは、それによって【99】から【100】という大台に乗る。


 操作した手の動きから、言葉の意味に気がついたクロは、目を輝かせてオレの顔を見た。


「え、ソラ、もしかして!?」


「ああ、来たぜ! オレの職業〈付与魔術師エンチャンター〉のスキルレベルが、遂に【100】に到達だ!」


 スキルレベルが【100】になると同時に、天上から唐突にファンファーレが地上に向かって鳴り響く。


 一体何事なのかとビックリして見上げると、エルに似たような少女の声で〈アストラルオンライン〉全プレイヤーに一つの報告がされた。


『冒険者の皆様に、緊急のお知らせです。只今の時刻で、1名の冒険者がスキルレベル【100】に到達したのを確認しました』


『“協議の結果”、運営より以下の処置を行うことを決定いたしましたので、皆様にご報告致します』


『全体のバランス調整と致しまして、現時刻よりスキルレベル【100】に到達した冒険者以外の獲得スキルポイントを【10】から【20】に増やします』


『また、レベル1から現段階のレベルに応じたポイントの補填を実施します』


『以上でお知らせを終わります。皆様、今後とも〈アストラルオンライン〉をお楽しみくださいませ』


 ファンファーレと共に、天の声は消える。


 静寂が戻ると、黙って聞いていたクロ達の視線は、近くにいるスキルレベル【100】に到達した冒険者ソラに向けられた。


 彼女達の視線には、尊敬やら呆れやら色々な感情が含まれている。


 それに対してオレは何て答えるか困り、後ろ髪を掻(か)きながら、乾いた笑い声を出す。


「……あ、あはは。遂にオレが独走し過ぎて、全プレイヤーに強化補正が入っちゃったな」


「こういう事ってあるの?」


「あるわけ無いだろ。というか普通に考えて、一人のプレイヤーだけが全ての経験値を常にブーストしている現状が異常だからな」


 そう言いながらも実は内心では、


 ナーフされたら嫌だなぁ。


 でも仕方ないよなぁ。


 と常々思っていたから、個人の下方修正ではなく全体の強化というのは、予想外だったけど両手を上げて喜びたい対応である。


 少しだけホッとしたソラに対して、クロとアリスはくすりと笑った。


「まぁ、ソラだから驚かないよ」


「我もレベル云々以前に、ソラ様の常識外の強さは散々見てきたので驚かないわ」


「よく分からないけど、ソラお兄ちゃんすごーい!」


 両手を上げて、喜んでくれるサタナス。


 そんな彼女の頭を撫でながら、更にスキルレベルを上げようと操作するソラ。


 だがウィンドウ画面を開いていた彼は、そこでふと気づいてしまう。


 目の前の小さな四角形の画面に、エラーメッセージが表示されている事に。


 そこにはこう書かれていた。





 ──レベル上限です。

 これ以上スキルレベルを上げることは出来ません、と。





 ちなみにこの時、他のプレイヤー達はというと。


「剣姫様バンザーイ!」


「スキルレベル100って、剣姫どんだけチートなんだよ!?」


「先を行き過ぎて全員に強化修正入るとか、剣姫様ヤバすぎないか!?」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 皆の衆、偉大なる剣姫様を崇めるのだぁ!」


 と各王国で大騒ぎになっているのだが。


 辺境の地にいる少年は、この事を知る由もない。

 

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