第114話「少女達の成長」


 街に着くと、オレ達は直ぐにそこら辺にいる村人に話をして、事情を知っている村長の居場所を教えてもらう。


 そこから街の端にある質素な家に住んでいる村長に会うと、話を聞いて竜王から受けた【村に向かう】クエスト内容を【謎のモンスター討伐】に更新する。


 ソラ達は更に、源泉に陣取ってるという〈謎のモンスター〉の話を聞いて、新たに入手したマップのルートを確認して直ぐに出発した。


 向かう先はこれまでと同じように地下ダンジョンで、村が組み上げている源泉は、マップから得られる情報から察するに一番奥にある。


 門番に話をしてダンジョンの扉を開けてもらうと、ソラ達は突入する前に話しをした。


「というわけで、今回は実戦だ。回避じゃなく三種の防御を意識して戦おう」


「うん、わかった」


「……が、頑張るわ」


 今回の陣形は趣向を変えて、修行の成果を見るためにアリスとクロが前衛。

 サタナスの護衛を務めるのは、パーティーの中で一番強いオレになった。


 二人を先頭にして、サタナスと手をつないで薄暗い道を進むこと数十分。


 確かに道中のスケルトンの数は中々に多かったが、成長したクロとアリスの二人が馬車で受けた数々の鬱憤うっぷんを吐き出すかのように奮戦して、これを余裕で突破。


 次に待ち構えていたのは、作業員の休憩所と思われる少し広い空間。

 そこに中ボスらしき大鎌を手にした、物理的に燃えている全長3メートル程の、スケルトンタイプのモンスターだった。


 名前は〈クリムゾンリーパー〉。


 属性は火属性で、弱点はスケルトンタイプ共通の光ではなく、溶岩地帯モンスターによく見られる水の属性。


 道中のレベル40の雑魚とは違い、此方はレベルが【60】と中々の強敵だった。


 通常攻撃は主に大鎌による薙ぎ払いと、魔法スキルの〈フレイムアロー〉。


 薙ぎ払いは大鎌を振りかぶるモーションから放たれるので、いつ来るのか読むのは容易い。

 しかし〈フレイムアロー〉はどの動作からも放ってくるので、クロとアリスは防御に四苦八苦する。


 時折敵はサタナスを狙ってきたが、今回はオレが護衛担当なので、水属性を付与した〈ソードガード〉で、彼女に届く前に全て切り払った。


 そんな状況が続く中、二人は多少ダメージは受けながらも反撃をして〈クリムゾンリーパー〉のHPを半分まで削る。


 すると燃えるスケルトンは、雄叫びを上げて手にする大鎌を、大きく振りかぶる構えを取った。


〘マスター、アレは13連撃の上級攻撃スキル〈デッドリーサイズ〉。

 一回でもマトモに受けると武器を強制的に弾かれて、続く二撃目を確実に食らう“防御崩しの特性”を持つ、大鎌カテゴリー最上級のスキルです〙


 最上級のスキルか、それはヤバそうだ。


 〈洞察Ⅱ〉のスキルを使用して得た情報を、サポートシステムの〈ルシフェル〉から聞いたオレは、直ぐに二人に武器でガードをする事だけはしないように指示を出す。


 そしてもちろん、オレも見ているだけではない。二人が窮地に陥(おちい)った時にいつでも助けられるように身構える。


 だけど馬車の中で行った特訓で、並大抵の攻撃を物ともしなくなった二人。


 未完成ながらも防御スキルと組み合わせた武器による“流し”と“払い”の二種類の防御の型を駆使して〈クリムゾンリーパー〉の連撃を全て耐えきる事に成功。


 〈クリムゾンリーパー〉は13連撃という超大技を使用した代償として、長い硬直時間に入る。


 その絶好のチャンスを逃すまいと、前に出たアリスが速度を重視に細剣カテゴリーのニ連撃スキル〈アイス・デュアル・ピアス〉を発動。


 鋭く速い水属性を帯びた突き技で、ピンポイントに弱点である核のクリスタルが埋められている胸を2回貫き。


 回り込んで敵の後方を取ったクロが、残り2割まで減った燃える骸骨を確実に仕留める為に〈アイス・クアッド・スラッシュ〉を発動して4回〈リーパー〉の背中を切り裂く。


 中ボスモンスターのHPはすべて消し飛び、光の粒子になって四散。


 初めての二人だけでの中ボスモンスタークラスの討伐に喜び、クロとアリスが元気よくハイタッチをした。


「アリスお姉ちゃん、クロちゃんカッコイイ!」


 喜んで何度も跳びはねながら、オレの手を離してサタナスがアリスに駆け寄って抱きつく。


 その微笑ましい光景は、誰がどう見ても姉妹にしか見えない。


 現状の手元にある情報だけでは、何一つ分からないけど。

 二人が一緒にいる事が、とても自然で当たり前に見える。


 これはあくまでも、オレのハッピーエンド思考からくる願望に過ぎないのだが。

 実はアリスとサタナスが、本当の姉妹だったら良いなと心の底から思った。


「ソラ! 次はボス部屋だよ、さっさとクリアして王都に戻ろう!」


「祭りは三日後よ、それまでにできるだけ問題を解決するのでしょう。立ち止まっている時間は、余りないわ」


「あ、ああ、そうだな……」


 クロとアリスに声をかけられて、意識が思考領域から強制的に戻される。


 ソラは「ごめん、行こうか」と頭を下げて今度は三人の先頭に立って次のエリア、ボスが待ち受けている源泉に向かって歩みを進めた。





◆  ◆  ◆





「やっぱりオマエかよ!?」


 源泉から立ち上る熱気。


 視界の先でゆらゆらと立ち上る湯気。


 そのど真ん中で高温度の源泉に浸かる巨大なシルエットは、紛れもなくヤツ──〈スケルトン・キング〉だった。


 しかも復讐の〈グラッジ〉の名前が消えて、最初に戦った普通の〈スケルトン・キング〉に戻っている。


 まさか温泉に浸かることによって、ヤツは復讐することを忘れてしまったとでも言うのだろうか。


 見たところ、ボスモンスターはこちらに背中を向けて脱力して、どう見ても隙だらけにしか見えない。


 罠の可能性も考えられるが、あのだらけきった姿勢で此方の油断を誘って奇襲をしてきたら、それはそれで恐ろしいと思う。


 これにはサタナスを守るように立っているアリスと、オレの隣りにいるクロも困惑していて、一体どうしようという雰囲気を漂わせていた。


 正直に言うのなら、回れ右をして帰りたい気分。


〘マスター、一応警告しておきますが、ボスモンスターを倒すまでダンジョンから出ることは出来ませんよ〙


 サポートシステムから注意されて、ソラは溜め息を吐く。

 知恵の回るモンスターには見えないけど、とりあえず先手を取らせてくれるのなら、全力で先手を取るのが最善だろう。


 仕方なく気を引き締めたソラは、隙だらけの骸骨に向かって武器を構える。

 付与スキルを行使して10枠の〈光属性付与Ⅳ〉と5枠の〈攻撃力上昇Ⅳ〉の超攻撃特化モードで剣を手にした。


 先ず使用するのは中級の攻撃力上昇スキル〈ストレングス〉。

 それによって付与スキルで向上した攻撃力が、更に上昇する。


 更には属性付与スキルを10枠使用することで獲得した、上級光属性の攻撃スキルの中から、オレはこの位置からでも攻撃する事ができるモノを選択。


 危ないのでクロを後ろに下がらせて、右足を前に身体の右側が敵を向くようにする。


 姿勢を低く落としたソラは、魔剣の柄を手で触れると、自身の持てる最大級の奥義を使用した。


「ハッ!」


 鋭く息を吐き、抜刀。


 居合斬りのフォームで発動したのは、飛ぶ斬撃を放つスキル〈アングリッフ・フリーゲン〉と、光属性の付与スキルの複合技。


 その名も〈シャイニング・フリーゲン〉。


 解き放たれた光り輝く斬撃は、無防備なボスモンスターの背中に吸い込まれるように向かい。


 着弾と同時にクリティカルヒット。


 更にはバックアタックボーナスでダメージが底上げされて、弱点属性というのも合わさってエゲツない威力となる。


 二本あったボスモンスターのHPは恐ろしい勢いで減り始めて、ソラ達がポカーンと見ている眼の前で一本が消失。


 勢いはそこで止まらずに、更に減少を続けてあっという間に真っ赤になり、そして……。


 〈スケルトン・キング〉のHPは、全て無くなった。


「ウソだろ?」


 仮にもボスモンスターが、色々な要因があったとはいえ、一撃で倒されるなんて事は絶対に有り得ない。


 何かあるだろう、とソラが警戒していると〈スケルトン・キング〉は光の粒子となって消滅する演出を始めた。


「ソラがすごいのかな……」


「それとも、アイツが弱すぎ?」


 これには流石のクロとアリスも苦笑いというか、なんとも言えない顔をしていた。


 オレも何と答えたら良いのやら分からなくて、困った顔をするしかない。


 すると〈スケルトン・キング〉は光の粒子となって消滅して、大量の経験値とエルを冒険者に与える。


 残ったのは、源泉と戦いに来た四人のパーティーだけ。


 では、なかった。


 よく見たら〈スケルトン・キング〉がいた場所に、身体が透明で、赤髪の上半身素っ裸の老人がいる。


 彼は此方を見ると、小さな声でこう呟いた。


『やっと魔王の呪いから解き放たれた。天使長殿、ありがとう』


 老人は礼を言った後、更に眉間に眉を寄せてこう言った。


『この地に厄災が迫っている。孫を守ってほしい……』

  

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