第111話「第二回VR緊急会議」


 第二回VRチャットの緊急会議が始まる。


 蒼空が用意した大きな円卓を中心にして、質素な部屋の仮想空間に集うは〈アストラルオンライン〉の最前線で戦う五人の英傑。


 一人は180以上の高身長のクールな少年、高宮たかみや真司しんじ

 本日のコーデは、白のYシャツに紺色のジーンズと実に安定的なモノをチョイスしている。


 もう一人は170程の身長に天然の茶髪、いつも爽やかな笑顔が印象的なイケメン少年、上月こうづき志郎しろう

 縦線の白と青のストライプ模様のポロシャツに、七分丈と実にオシャレなコーデだ。


 オレの隣に並び立つのは、身長150前半程の黒髪をポニーテールにしている淡麗な顔立ちの少女、妹の上條かみじょう詩織しおり

 今日は和の気分なのか、巫女装束を身に着けていて実に可愛らしい。


 そしていつものメンバーを呼び掛けたのは、この空間の美力数値を極端に落としている平凡な顔立ちをしたオレ、黒髪の少年こと上條かみじょう蒼空そらである。


 アバターの服装は全くいじっていないので、一人だけ前回と同じだ。


 仮想空間の中でくらい、もう少しオシャレに気をつけたらとか言われたりはするが、そんなものを気にする時間があるのならば、オレは1秒でも多くゲームに専念したい。


 センスが無くて、毎回似たようなデザインの服しか着ないから諦めたとか、そんなんじゃないんだからな?


 そんな言い訳を自分に向かって胸中で思いながら、意識を切り替える。


 有事の際には必ず集まるようにしている蒼空は、話を始める前にこの中にいる新メンバーの一人に視線を向けた。


 自分の背後に隠れるようにピッタリくっついている、幼い白銀の髪と碧い瞳の少女。

 髪の色を際立たせる黒いワンピースが実に似合う彼女の名前は、小鳥遊たかなし黎乃くろのだ。


 リアルスキャナーを利用してログインした黎乃の容姿を見た親友の二人は「ゲーム内の蒼空とそっくりじゃないか!?」と驚いた様子で指差した。


 そういえば真司と志郎は、まだリアルでは黎乃と会っていないので、ゲーム内で黒髪にしている彼女の姿しか知らないのか。


 とりあえずオレは二人に、彼女がロシア系の母親の血が色濃いハーフだと教えた。


 オマケにハトコなのだから、世の中は広いようで狭いというか何というか。


 それを説明してあげると、二人は「マジか」と実にお決まりな驚きの声を上げて、黎乃をマジマジと見る。


 彼女は少しだけ気恥ずかしそうに頬を赤く染めると、消えそうなくらいに小さな声で自己紹介をした。


「こ、こっちでは、はじめまして。小鳥遊、黎乃です……」


「小鳥遊ちゃん、よろしく。俺は高宮真司、好きに呼んでくれて構わない」


「ボクは、上月志郎です。名前の呼び方は、お好きにどうぞ。小鳥遊さん、今後ともよろしくお願いします」


「よ、よろしくお願いします。高宮さん、上月さん」


 挨拶を終えると、四人はいつもの指定席に腰掛ける。


 黎乃は等間隔で並べている椅子をわざわざオレの真横までもってくると、嬉しそうに座った。


「えへへ、蒼空のとなり」


 その可愛らしい言葉と笑顔に、蒼空の頬はつい緩んでしまう。


 黎乃はしっかりしているようで時々、こんな感じに年相応の甘えをしてくる。


 何せ彼女は3歳も年下なのだ。

 オレが高校一年生だから、高くても中学1年生、低くて小学6年生くらいなのである。


 両親が〈アストラルオンライン〉に囚われている今は、オレが全力でハトコの兄として彼女が寂しさを感じないように甘えさせてあげなければ。


 使命感に、一人燃える蒼空。


 それはそれとして、メチャクチャ可愛いなぁ。


 オレは身を寄せてくる彼女の頭を撫でながら、今日色々あって疲弊していた心が癒やされていく感覚にホッコリする。


 一方で微笑ましい光景に、真司と志郎がニヤニヤしながら、蒼空に向かってわざとらしく羨ましそうな顔をした。


「うわぁ、志郎見てみろよ。あそこだけべたべたなラブコメしてるぞ」


「このゲームに誘ったのボク達なのに、親友とは数回しか遊ばずに女の子とイチャイチャするなんて、流石は蒼空ですね」


「友情なんてものは、女の前では無力なんだな。俺何だか泣けてくるよ……」


「こっちは捨てられた男同士、寂しく今度ある夏祭りを楽しみましょうか」


「ああ、そうだな。アイツは小鳥遊ちゃんの相手で忙しいだろうからな」


「親友に捨てられるって、こんなに悲しい事なんですね」


 バレバレの嘘泣きを演じる二人に、蒼空は冷たい眼差しを送る。


 こういう時に構うと、非常に面倒なのは長年の付き合いで十二分に理解しているので、蒼空は無視することにした。


「はい、バカなこと言ってる二人は無視して会議を始めるぞ。先ずは──」


「いやいやいや!」


「少しは触れてくださいよ!」


「やかましいバカども! 精霊の森については悪いと思ってるけど、今回はオマエ等がヨルと行動しているのも悪いんだからな。レベル45以上になったんなら、さっさと用事終わらせて合流しに来い!」


 ジロリと睨みつけると、真司と志郎は苦笑した。


「ま、今回も合流できるのはイベント始まった辺りかな」


「そうですね。まぁ、近々“リアルの方でも祭りがあるので”、そのときに思いっきり遊ぶとしましょう」


「お兄ちゃん……」


 志郎の“祭り”という言葉を聞いた詩織が、不安そうな顔をして此方を見る。


 ──祭り。


 それに行くということは、二人に今まで黙っていたリアルの身体の変化を知られるという事。


 どの道夏休みが終わったらバレるのだ。


 ここで逃げる事は、許されない。


 心の中で決意した蒼空は、小さく頷くと二人に応えた。


「あぁ、オレも二人には言わないといけない事があるからな。いつもの神里公園で待ち合わせしよう」


「分かった」


「言いたいことですか。楽しみにしてます」


 一つの大事な約束をすると、蒼空は話を切り替えて今日学校であったことを、全員に話した。





◆  ◆  ◆





 全てを聞いた四人は、予想通り渋い顔をした。


 世界に訪れた改革は〈世界樹〉ユグドラシルとテレビに出た〈神〉エルの宣告によって他の四人も知っている。


 初回ということで例の白髪の不審な少女が現れて、みんな自宅で【ランク】を獲得したのだが、黎乃は【E】で他の三人は【F】という結果になった。


 真司と志郎と詩織は【F】なので、桐江と同じように〈アストラルオンライン〉で設定している職業の初期スキルしか使えない。


 一段階上の黎乃は、初期の職業のスキルに加えて、オレと同様に攻撃スキルも獲得したとの事。


「ランク【C】の蒼空はどんな感じなんだ?」


 と尋ねる真司に、蒼空は正直に答えた。


「オレはレベル2のスキルを全部使える感じだな」


「マジかよ、人類最強なんじゃないか?」


「師匠にはいくらスキルを獲得しても、勝てる気は全くしないけどな」


「でもこんな過剰な力が必要になるっていうのは、素直に喜べない話ですよね」


 状況を把握した志郎が、真剣な表情で今後の先行きを懸念(けねん)する。


 それには、オレも全くの同意見だ。


 【ランク】を獲得することによって、ゲーム内で取得したスキルをリアルで開放する。


 すなわち以前のイベントでは出現する事の無かったモンスターが、今後は現実に現れる可能性が高いという事。


 ゲームで戦って現実でも戦うとか、正直に言って働きすぎで冒険者が過労死するのではなかろうか。


 詩織は少し考える素振りをして、自分の考えを口にした。


「モンスターね。精霊の木で世界が埋め尽くされそうになったんだから、今更モンスターが一匹や二匹現れても不思議じゃないけど、なんでこのタイミングだったのかしら」


「うーん、意味なんてないかも知れないからなぁ」


 不明な点が多すぎるので、そこまで考えるとキリが無い気がする。


 蒼空達があーでもないこーでもないと会話をしていると、今まで黙っていた黎乃が一つだけ自分の考えを口にした。


「もしかして、テレビで言われていた〈聖別〉に意味があるんじゃないかな」


 その言葉に、オレ達は揃って「あー」と間抜けな声をもらす。 


 黎乃の言葉に対して、最初に反応をしたのは真司だった。


「……そういえば聖書の一部に〈聖別〉って言葉があったな。神様が人を選び、分けるって意味だ」


「まさか冒険者を一般の人と区別する為に、ランクとスキルを与えたって事ですか?」


「その可能性は高いだろうな。分けた後どうする気なのかは、全くわからないが……」


 志郎の問いに真司はそう答えると、オレに視線を向ける。


 蒼空は皆を見渡して、今回の会議を締める結論と今後の方針を言い渡した。


「とりあえず現状では何もわからないけど、今後はより気をつけて行こう。報告、連絡、相談のホウレンソウを大事に、今日の会議はこれでおしまい!」

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