第109話「ランク制度」
リアルの冒険者のランク付け。
ランクと聞いてパッと頭の中に思い浮かぶのは、ギルドで試験を受ける事でランクを上げていき、それによって冒険者が受注するクエスト難易度の制限を解除する事くらいか。
ゲームによってはランクで買えるモノとかも制限されてたりするが〈アストラルオンライン〉ではそういったものはない。
まぁ、現実でランク付けしてどうするんだ、と言いたいところだけど自称神様は楽しそうに「ランク付け!」とホワイトボードにデカデカと書いている。
ランクとは一体何なのか尋ねると、エル・オーラムは輝くような笑顔で答えた。
「あなた方冒険者が所持しているカードには、これまでの戦いと〈アストラルオンライン〉の攻略を進めることで獲得できる貢献ポイントが蓄積されています。
それを学校や役所に配置された〈守護機関〉の使者に渡すことで、貯めたポイントに応じたランクを私達が与えます」
「いやいやいや、どういう原理でポイントを貯めてるんだよ。ヘッドギアには、カードを挿す場所なんてないんだけど?」
首を横に振って否定する蒼空。
オレ達が使っているVRヘッドギアは、バイクのフルヘルメットみたいな形状をした精密機械だ。
装着することで、ユーザーの脳に直接接続して仮想の五感情報を与え、仮想空間を生成する器具。
小さなゲームソフトを頭頂部に差し込む機能はあるけど、クレジットカードみたいなモノを挿して読み込むような機能は一切ない。
充電も大昔のUSBプラグではなく、専用の台座を使用しているので、外付けすることは不可能。改造して外付けしたとしても、そもそもゲームから貢献ポイントを読み取る事が、システム的に存在しないと思われる。
蒼空がそれを指摘すると、自称神様は自身の白いワンピースの胸元に手を突っ込み、一枚のカードを取り出した。
……オレはツッコミは入れないぞ。
オマエ胸小さいのにどこから取り出した、とツッコミを入れたい衝動にかられるが、それをグッと我慢する蒼空。
彼女は冒険者カードを皆に見えるように上にかざして、説明を始めた。
「このカードは貴方達のプレイデータを、直接読み取ってるハイテクノロジーなカードです。ですから後から渡されたソラ様も、ちゃんと魔王と戦ったときのポイントが加算されているので、ご安心してください」
「プレイデータを読み取っている……?」
「はい、実はこのカードは一見カードに見えて、精密な機械なんですよ。アナタ方がログインした時に自動で同期するようになっています。
プレイ時期を参照して貢献度が極端に低い場合には、その場で警告を出されます」
「はー、なるほど。それでちゃんとカードを発行された人間が、攻略活動してるかどうかを判断するのか。データをどうやって読み取っているのか気になる事はあるけど、警告を無視したらどうなんだ?」
疑問を尋ねてみると、エルは笑顔で答えた。
「もちろん、3回目までなら許しますけど4回目を迎えたら、テレビで皆さんに言ったように死にます。仏の顔も三度までってヤツです」
デスヨネー。
物理的に殺されるのか精神的に殺されるのか、彼女達の手段が気になるところだけど、聞くのは何だか怖いのでヤメておく。
何故かというと、エルが笑顔を浮かべているけど目が全然笑っていないから。
まるで深淵を覗いているみたいで、ゲームで例えるのならば、此方の正気度がマイナス50はされそうなくらいに不気味だった。
何か似たようなのを見たことがあると思った蒼空は、そこで一つのゲームを思い出す。
ああ、そうだ。
クトゥルフのVRゲームをやったことがあるのだが、アレに出てくる邪神が可愛らしい少女の姿に擬態しているのだ。
一つの答えに至った蒼空は、どストレートに言ってみた。
「オマエって神様というよりは、邪神っぽいよな」
「もう、そんな酷いことを本人に言いますか? そういうのは良くないと思います。……まぁ、相手がソラ様じゃなければ呪い殺すところですけど」
可愛らしく両頬に両手を当てて、恥じらいながらも身体をもじもじとさせる白髪の少女。
見た目は百人に聞けば百人全員が美少女だと答える程の容姿なので、その仕草だけ見たらとても可愛らしいと言える。
しかし彼女が呪い殺すと言うと、普通に洒落に聞こえない。
いや、今回も目が笑っていないので恐らくは本気なのだろうが……。
理事長と校長と桐江が彼女の発言に恐怖して、額にびっしり汗を浮かべているので、ここら辺で話を変える事にする。
内容はもちろん【ランク】付けにどんな意味があるのかだ。
「それで高いランクには、何かゲーム内で使えるレアなアイテムが貰えたりとか、特典みたいなのがつくのか?」
するとエルは呆れたような顔をした。
「……模範的なゲーム脳をしていますね。流石は〈アストラルオンライン〉でぶっちぎりの先頭を突き進む攻略者です。ご要望のアイテムに関してですが、残念ながらそういったものはありませんよ」
「なんだ、それならいらないんじゃないか」
オレの興味度が、マックス100パーセントから一気に0まで減少する。
アイテムが貰えないのなら、ランクなんていくら高かろうが、所詮は自己満足の飾りに過ぎない。
人によっては、下のランクを相手にマウントを取る道具にしかならないので、オレにとっては尚更興味なんて無かった。
すっかり
だがそれを見ても、自称神様の笑顔は一向に曇ることがない。
むしろ彼女は「ふふん」と楽しそうな顔を浮かべて、オレを見ると続けてこう言った。
「ご安心してください。ゲームで使えるアイテム等はありませんが、ランクにはちゃんと意味はありますよ」
「意味ねぇ、ランクが高いと貴族様にでもなるのか?」
「そうですね、簡単に答えるのならばランクが高ければ高いほどに〈アストラルオンライン〉で獲得している【スキル】がリアルで開放されるようになります」
「なーんだ、スキルか。リアルで【スキル】が使えたって、一体何に………………うん?」
この自称神様、今ナチュラルにとんでもない事を言わなかったか。
ランクが高ければ高いほどに、“リアルで使用できる【スキル】が開放される”。
つまりオレで例えるのならば〈感知〉スキルとか〈洞察〉スキルとかが、使えるようになるという事。
もしも攻撃のスキルも使えるのだとしたら、一瞬にして人間を殺す事だって可能になる。
いや、どう考えてもヤバイだろう。
「おいそれは……」
蒼空が立ち上がろうとすると、その肩を隣にいる桐江が叩く。
彼女は剣を打つ時と同じように、真剣な眼差しをエル・オーラムに向けて、疑問を口にした。
「そのランク付け、アタシは反対だね。神様、もしも【スキル】を持った人間が暴走したらどうするのさ?」
「それは絶対に起こりません」
「何故、断言できる? 人っていうのは欲望の塊(かたまり)だ、そういった人間が力を手にしたら、必ず一人や二人は絶対にやらかす。それが人間って生き物なんだよ」
「ふふふ、最上位の鍛冶職人(スミス)さんは随分と怖がりなんですね」
「ああ、怖いとも。暴走した人間が、アタシの知り合いを巻き込む可能性だってある。もしも大切な人を亡くしたら、それを怖いと思うのは普通の事さ!」
鋭い視線で桐江はエルを睨みつける。
その気迫は、普段の彼女を知っている自分が驚くほどに強烈なものだった。
エルはそれを受けてなお、笑顔を全く崩さない。
パチン、とエルが指を鳴らすと目の前にあったホワイトボードが消える。
エルは蒼空と桐江、理事長と校長の四人の視線を受けながら、もう一回指を鳴らす。
すると傍らに一人の白髪のスーツ姿の女性が現れて、彼女の手にはカードを読むためのモノと思われる機械が握られていた。
「今後の〈世界の汚染〉はもっと激しくなります。これは人が生き残るための手段なのです。もしも道を違えたモノが現れた時には、天罰が落ちるでしょう」
エルは桐江に歩み寄ると、その頬に軽く右手で触れる。
「ッ!?」
それだけで彼女は脱力して、ソファーに勢いよく倒れるように座った。
「さて、それではソラ様と桐江様のランクがいくつなのか見ましょう。今日はそれが楽しみでやって来たのですから!」
何事もなかったかのように、笑顔を浮かべる自称神様。
オレはその笑顔が、不気味で怖いと思った。
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