第105話「リベンジ」


 このクエストにサブタイトルを付けるのならば、それは間違いなく〈スケルトン・キングの逆襲〉といった感じになるのではなかろうか。


 なんでこんな事を急に思ったのか。


 それは巨大なガイコツが姿を現すなり『オマエラニ、アノ時ノ恨ミ晴ラサデオクベキカ……』と恨み言を口にしながら現れたからだ。


 しかもボスモンスターの名前も〈スケルトン・キング〉から変化して〈スケルトン・グラッジ・キング〉になっている。


 隣に並び立つ帰国子女のクロは〈グラッジ〉というのは“恨み”を意味する英単語だと丁寧に説明をしてくれた。


 確かに連続しているクエストではあるし「また同じボスモンスターかぁ」と心の中で思ったりはしていたけれど。


 眼の前に現れた、やる気満々な巨大なガイコツの王様を見て、ソラはつい失笑してしまう。


 オマエ復讐に来たんだな、と。


 一度倒されたのに再登場した執念深いガイコツの王様によって、幸いな事にオレの中にあったシリアスな空気なんてものは、どこかに吹き飛んでしまった。


 ボスとのバトルステージとなる採掘場は〈ヘファイストス王国〉の地下と同じ円形で広い空間。

 障害物などが一切ないので、ここで必要となるのはプレイヤーの力と技術のみ。


 とりあえず前と同じようにアリスにサタナスの護衛を任せて、オレとクロが二人で〈スケルトン・キング〉と相対するフォーメーションとなった。


 しかし眼の前に出現したガイコツの王様は、ただ復讐をしに現れたわけではないみたいだ。


 ちゃんと以前戦った時よりも強化されていて、初回だけでなく一定のダメージを受ける度に〈封印〉を付与する〈カース・ミスト〉を周囲に散布するようになっていた。


 オレ達は敵が〈封印〉を使って来ることを知っていたので、事前に自身とクロに耐性スキルを重ねがけして、無差別に撒き散らされる呪いを無効化した。


 アリスはサタナスとギリギリ効果の範囲外にいたので、スキルを封印される心配はいらない。


 まぁ、例えアリスとクロが呪いを受けてスキルを使用できなかったとしても、今回は関係なかったかもしれない。


 ガイコツの王様は、オレという防衛ラインを抜けて、サタナス達を狙うことが出来なかったから。


 敵がオレとクロを抜けるために、足に力を込める予備動作をする。


 そこをすかさず狙い、光属性で強化された突進スキル〈ライト・ソニックソードⅤ〉で膝を打ち抜く。


 強烈な一撃を受けた敵の行動は強制的にキャンセルされて、オマケに一時的なディレイまで入る。


 動きが止まった敵にクロが飛び込み、攻撃スキルでヒットアンドアウェイを繰り返しながら、確実にHPを削っていく。


 大小問わずどんな生き物でも、動き出しというのは力を入れる前の段階なので、そこを狙われたら例えボスモンスターでも耐えることはできない。


 更に5回重ねた攻撃力上昇の付与で得た中級強化スキル〈ストレングス〉によって、ソラの攻撃力は以前よりも高くなっている。


 これに洞察と感知スキルを総動員して、スケルトンの僅かな動作も見逃さない集中力を発揮して、オレはことごとく敵の先手を取っていく。


 正に格闘ゲームで例えるのならば、ずっとオレのターンという状況だ。


 しかも今回からサポートシステムの〈ルシフェル〉が、使用したスキルのクールタイムの完了を教えてくれるので、全ての神経を目の前の敵に注ぐことができる。


 時折〈ライト・ストライクソードⅤ〉でダメージを稼ぎながらも、タンク兼アタッカーの二重の役目を一人で遂行するソラ。


 過去に物理法則を完全に無視した挙動ばかりするモンスター達と比較したら、目の前の常識の範囲を越えてこない敵は、ハッキリ言って全く怖くない。


 バカゲーは凄いぞ、なんて言ったってスケルトンが片腕を高速回転させて空を飛ぶんだからな?


 敵の刺突技〈ストライクソードⅣ〉をソニックステップで回避。更に突き出した状態の剣を、横から強撃技の〈レイジ・スラントⅣ〉で大きく打ち返してディレイを入れると、シフトして前に出たクロが止めの一撃を放った。


 水平ニ連撃〈ライト・デュアルネイル〉を叩き込んで、そこから舞うように駆け上がり、格闘士と付与魔術の複合スキル〈光龍蹴〉で首の骨を粉砕。


 敵のHPは0になり、復讐に復活したはずの巨大なガイコツの王様〈スケルトン・グラッジ・キング〉は二度目の敗北をして光の粒子となった。


 モンスターを倒す事によって、最後の一撃を与えたクロに〈水竜の宝玉〉がドロップする。


 彼女はアイテムを具現化させ、水色に輝く竜の刻印が施された宝玉を手に持ってオレに見せた。


「ソラ、宝玉ドロップしたよ」


「うーん、やっぱりこれ集めると〈魔竜王〉に対する特攻アイテム的な何かになるのかな」


「サポートシステムは教えてくれない?」


「無理、たぶん〈洞察〉で解明できない情報に関しては、教えられないっぽい」


「そっか、システムだから仕方ないね」


〘そうです、システムだからしかたないのです〙


 クロに声が聞こえないのにナチュラルに会話に混ざるな、サポートシステム。


 呆れて心の中で叱り、黙らせる。


 アリスとサタナスの二人と無事に合流すると、度重なる戦闘によって慣れてしまったのか、今回サタナスは一度も泣くことはなかった。


 むしろ興奮冷めやらぬという感じで、小さな少女は跳びはねながら、クロに抱きついた。


「最後のクロちゃんのけりカッコよかったね!」


「ええ、我から見ても美しい蹴り技だったわ」


「あー、そういえばクロの職業って格闘士だけど、今までオレに使った蹴り技と身体強化の〈戦意高揚(センイコウヨウ)〉くらいしか見てなかったな」


 格闘士の打撃と蹴り技は、何方も近距離が主体なので、武器を持って戦うとどうしても間合いが遠くなる。


 だから普段は身体強化がメインになりがちだと、クロは以前に言っていた。


 褒められて嬉しいのか黒髪の少女は、はにかんで笑った。


「えへへ、少しずつだけど剣のスキルと組み合わせるようにしてるの」


 どうやら彼女なりに出来る事を増やそうと、試行錯誤している最中らしい。


 使えないからと放置するのではなく、使えるように努力するのは素晴らしい事だ。


 そこまで考えたソラは、ふと一つだけ彼女に提案してみた。


「それなら防御の修行してみるか。クロのスタイルなら、攻撃を武器で受けてから間合いに飛び込んで、拳とか蹴りで攻撃できるし」


「教えてくれるの?」


「クロが良ければだけど」


「うん、教えてほしい!」


「そうと決まれば、とりあえず地上に戻るか。兵士達が生存してたのも含めて、オッテルに報告しないといけないからな」


 ボスモンスターから換金用アイテムの宝石をドロップ品として入手したオレは、アイテム一覧を確認した後にウインドウ画面を閉じる。


 それから出入り口の方に視線を向けて、警戒レベルを更に上げた。


 ……やっぱり、来るよな。


 シチュエーションは以前と全く同じ。

 クロとアリスに警戒するように指示を出して、剣の柄に手を置いて何時でも敵を迎撃できるようにする。


 こういう時に出入り口が一つだけなのはありがたい事だと、ソラは胸中で呟いた。

 何故ありがたいのかと言うと、敵はそこを通るしかないからだ。

 警戒するソラは〈洞察〉のスキルが敵影を捉えたタイミングで、抜刀すると同時に攻撃スキルを発動する。


 選択したのは最近お気に入りとなっている、飛ぶ斬撃を放つことのできるスキル〈アングリッフ・フリーゲン〉。

 そこに更に風属性を複合させる事で、飛ぶ斬撃のスキルは〈エアリアル・フリーゲン〉となる。


 放たれた空間を切り裂く神風の刃は、そのままオレの狙い通りに“向かってくる敵の片腕を切り飛ばす”。


 クロ達は一瞬、何が起きたのか理解できなかった。


 彼女達の目では敵が来る合図を貰った次に、武器を抜く構えを取った白銀の剣士の姿までしか、映すことができなかったから。


 片腕を失った敵──魔竜王の崇拝者である黒装束の竜人は、己に何が起きたのか理解できないのか、驚愕に表情を固まらせる。


 地面を蹴り〈ソニックソードⅤ〉を発動させて急接近したソラは、得意の刺突技に切り替えると。


「シチュエーションが完全に一緒だったからな、来ると思っていたよ。狙いはアリスか、サタナスか知らないが……」


 ──二人に危害を加えるのなら死ね。


 容赦なく敵の胸を穿ち、その身を光の粒子に変える。


「ソラ!」


 危険を知らせるために、クロが叫ぶ。


 仲間の死を利用して、光の粒子を目眩ましにもう一人の刺客が死角から接近してくる。


 だが感知スキルを持っているオレには、死角なんてものは存在しない。たとえこの場が真っ暗で何も見えない状況だったとしても、範囲内にいる敵の動きは丸裸だ。


 ソラは〈パーフェクト・プロテクト・コール〉を発動させて、もう一人の刺客が放った袈裟斬りの〈レイジ・スラントⅢ〉を左腕で受け止めた。


「な、なんだと!?」


 強撃のスキルを防具も付けていない腕で受け止められた事に、刺客の竜人の男が有り得ないと言わんばかりに叫ぶ。


 ソラは冷酷な視線を向けると、


「冥土の土産に教えてやる、これが〈付与魔術師〉の力だ」


「ふ、付与魔術師……」


 お返しに〈トリプルストリームⅣ〉を発動させて、流れるような三連撃を放ち敵のHPを容赦なく0にした。

 

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