第103話「付与スキルの進化」
ソラ達が〈ヘファイストス王国〉を出発して、西の街〈エウペーメー〉に着いたのは、日付が変わって次の日の昼頃だった。
西の街は作りとしては〈エウクレイア〉と同じ大きな温泉街という感じで、これといって大きな違いはない。
強いて挙げるとすれば、無料で利用できる簡易的な足湯が何箇所かに設けられているくらいか。
看板に書いてある説明を読んでみると、3分間浸かるだけで全状態異常の解除とHPを500ほど回復してくれる効果が記載されている。
内容から察するに、MPまでは回復しないっぽい。
しかし、ここを冒険者が拠点にした際には、回復アイテムの消費節約にかなり便利そうだ。
というわけでソラは、さっそく何もない空間をタッチしてメニュー画面を表示。メッセージ画面に切り替え、手打ちで素早く文字をキーボード入力すると、次に一括でフレンド達に送信する。
ひと仕事を終えた後は、改めて周囲を観察した。
大通りは人通りが多く、屋台とかも出ていて賑わっている。
見たところ住人である竜人達の表情はどれも明るくて、誰一人として暗い顔をしていない。
パッと見た感想としては、ここで事件が起きている様子は見当たらないといった感じ。
兵士達が帰ってこないというから、事態は深刻だと勝手に思い込んでいたが、村の人の平和な日常的光景に少しばかり困惑してしまう。
もしかして、誤報だったのか。
そんな事を考えながら王家御用達の馬車から降りたばかりのソラは、長旅で気持ち的に凝り固まった手足を軽く伸ばす。
実際にゲームで使用している、アバターの体が凝り固まるという現象は絶対に起きない。
これは無意識の内に溜まっている精神的な負荷を軽減する為に、VRプレイヤーが良く使用する小技の一つだ。
吐息を一つすると、同じように伸びをしているクロに視線を向けた。
「いやー、それにしても戦って戦って、戦いまくったなぁ」
「ものすごい道中だったね」
「おかげでレベルがすごく上がったわ」
上機嫌のソラと違い、旅の道中で起きるモンスターとの連戦で大分消耗したのか、げんなりするクロとアリス。
一方でアリスの腕にくっついて、赤いポンチョで肌の色を隠しているサタナスは、今日もニコニコと実に楽しそうだ。
ここに着くまでにオレ達は、昨日と今日にかけてサタナスを狙ったものと思われる2体の〈レッサードラゴン〉の襲撃を10回、1体の〈グレータードラゴン〉の襲撃を5回ほど受けて、これを全て撃退した。
モンスター達から大量の経験値を得たことで、ソラのレベルは51から55に、クロのレベルは46から50になった。
普通ならばレベルが上がったとしても2程度なのに、4も上がったのはオレの経験値を増やす称号のおかげである。
その恩恵でアリスもレベルが50になったことで、このパーティーは3人ともレベル50オーバーとかなり心強い感じになっていた。
ちなみにレベルが上がる事で獲得できる、全てのスキルポイントをオレは設定している職業〈付与魔術師〉に使用して、スキルレベルが87となった。
スキルレベルが上がる事で、今回強化された〈付与スキル〉は以下の通り。
〈雷属性〉〈光属性〉〈闇属性〉の三属性に加えて〈攻撃力上昇〉と〈防御力上昇〉の基礎ステータスの強化スキルがレベル3からレベル4に上がった。
付与スキルのレベル4は、これまでのレベル3とは違い、付与されている間は様々な恩恵を得ることが出来る。
〘今回の基礎ステータス強化の付与スキルは、属性と違い自身に重ねがけする事で、攻撃と防御のスキルを使用することが可能となります〙
「マジかよ」
サポートシステム『ルシフェル』から提供される情報を信じ、試しにマジックポーションを飲みながら〈防御力上昇Ⅳ〉を自身に10個重ねがけしてみたら、防御スキルの枠に二つの新しいスキルが追加された。
5個の重ねがけは、身体に薄いシールドみたいなのを展開させて10分間受けるダメージを大幅に軽減する〈プロテクト・コール〉。
そして10個重ねがけすると、一回だけ受けるダメージを無効にする〈パーフェクト・プロテクト・コール〉が使用可能となる。
こちらは強すぎる効果の反面、クールタイムが2時間と他のスキルと比較しても異常に長い。大型レイドボス戦で耐久戦をした時に、辛うじて二回目が使えるかどうかといったところ。
しかしダメージを完全に無効化できるのならば、一回だけだけど敵の大技を防ぐ事ができるのは、とても強い性能だと思う。
この新しい防御スキル、どんな感じなのか試してみたい。
まるで新しいオモチャを買ってもらった、子供のように目を輝かせるソラは、隣にいる黒髪の少女にお願いしてみた。
「クロ、悪いけど今から〈決闘〉の完全決着を申請するから、全力で〈ストライクソード〉をオレに向かって放ってみてくれ」
「え、なんで?」
「ちょっと〈付与スキル〉で新しいのを獲得したから、試してみたくてさ。ダメならアリスでも良いんだけど」
「……まぁ、良いけど」
メニュー画面からソラは〈決闘〉の完全決着を申請。
クロは承諾して腰に下げている〈
そういえば、こうやって相対するのは初めて会って半減決着の〈決闘〉をした時以来だな、とソラは思った。
改めて今の彼女を見てみると、強さとしてはあの時よりも格段に上がっている。
何事にも手を抜かないタイプなのか、クロから放たれる本気の気迫が、ビリビリと肌を刺激した。
「いくよ、……多分、HP残らないんじゃないかな」
「大丈夫だ、ダメージは一切発生しないから遠慮なく来い」
「むぅ、どうなっても知らないから!」
オレの挑発に少しだけ頬を膨らませたクロは、引いた半身を大きく前に振り出し、右足で地面を力強く踏む。
発生したエネルギーを、全て余すことなく右手の剣に。
思わず見とれてしまう程に綺麗なフォームで、黒髪の少女は右手の鮮やかなラベンダーカラーの剣を、オレに向かって突き出す。
スキル──『発動』。
タイミングを見計らって上級防御スキル〈パーフェクト・プロテクト・コール〉を使用。するとHPゲージの下に黄色い盾マークが出現。
全身を金色の光りが覆うと、青い光を放つ刃が容赦なく胸に突き刺さる。
手加減一切なしの本気のクロの刺突技に、アリスとサタナスがびっくりして目を大きく見開く。
目撃した村人達からは、大きな悲鳴が聞こえた。
普通ならば、これほどの洗練された技を胸に受ければ、オレのHPは全て一ミリも残さずに吹っ飛ぶだろう。
だが、そうはならない。
「……ッ!?」
ソラが展開した防御スキルは、クロの鋭い渾身の一撃を胸に突き刺さる寸前で受け止め、技を放った彼女の剣を身体ごと後方に大きく弾き飛ばした。
尻もちをついたクロは「ええぇー!?」とびっくりした顔をする。
実験が成功した事に、オレは満面の笑顔である。
弾き飛ばしてしまったクロに〈決闘〉の中断を申請しながら歩み寄ると、右手を差し伸べて彼女を起こしてあげた。
「いやー、同じ付与を5個重ねる事で中級スキル、10個重ねる事で上級スキルを使用可能になるんだから、付与スキルって奥が深いなぁ」
「ソラを見てると〈付与魔術師〉って強い職業に思えてきた……」
「最上位の冒険者のレベルが今45くらいだろ。その時点でのスキルポイントは450なんだからスキルレベルは22、それに対してオレは今87と4倍近い開きがあるから、普通の〈付与魔術師〉とオレを比較するのはやめた方が良いかな」
うん、自分で言っておいてなんだが魔王の呪いで獲得できるスキルポイントが4倍になってるのは、本当にチートレベルだ。
チーターとか言われても、何も言い返せない気がする。
そんな文字通り桁違いのスキルレベルの話を聞いたクロは、〈決闘〉の中断ボタンをタッチしながら、なんとも言えない顔をした。
「そんじゃ、確認したいことも終わったし、そろそろクエストの方を進めるか」
「う、うん」
幸いにも今の〈決闘〉で住人達が何事かと集まってきている。
一番近くにいる竜人族の男性に話しかけて、ここにやってきた王国の兵士達はどうしたのか聞いてみる。すると採掘場に現れた〈スケルトン・キング〉の討伐に向かい、みんな重症を負って戻ってきたという情報をくれた。
兵士達は現在は、治療のために宿に泊まっていて動けないらしい。
話を全て聞き終わると同時に、クエストの内容が更新される。
ウィンドウ画面には採掘場の〈スケルトン・キング〉の討伐が新しく追加されていた。
「うーん、またアイツか」
という事は倒すことで、二つ目の〈竜の宝玉〉を獲得する事ができるのだろう。
しかし今回は前回の戦いの時と違って、補助をしてくれる竜人族の兵士はいない。
サタナスを宿に置いて挑むことが出来ない以上、慎重に戦わなければモンスターの標的になる彼女の身が危ないと思われる。
………こうなったら二人にはサタナスの守りに専念してもらって、オレがソロでガイコツと戦うのがベターかな。
幸いにも付与スキルによって、個人バフを盛ることは可能。
むしろ行動パターンは前回ので完全に見きっているので、擬似的にソロ攻略に出来るのなら余裕だと思う。
とりあえずソラは、他の三人に視線を配るとこう言った。
「長旅で疲れてるし、一休みして兵士に話を聞いたら採掘場に向かおうか」
「りょーかい」
「わかったわ」
「サタナス、足湯やってみたい!」
元気の良い最年少の希望を第一目的にすると、ソラ達は行動を開始した。
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