第81話「最強の三人」

 レッサードラゴンの進化体である〈グレータードラゴン〉。


 テキストデータによると、長いことレッサードラゴン同士で戦い、生き抜いた個体が成長した姿らしい。


 レベルはソラが〈洞察〉スキルで見たところ70で、竜種族の中での階位は5段階の内の下から二段目。


 一番最下位のレッサードラゴンを此処に来るまでに二体程倒したが、そこまで大した強さではなかった。


 それが一段階の進化をして、レベルが30も上がり、一体どれほどの強さになったのかには興味がある。


 並び立つ二人の最強の友と共に最強の付与魔術師であるソラは〈白銀の魔剣〉を手に、〈グレータードラゴン〉と睨み合う。


 見抜いた敵の属性は、レッサードラゴンの時と変わらず火属性。

 それならば付与魔術師として、自分が選択するのは一つだけだ。


 火に強いのは水。


 ファンタジーゲームならば、当然であり不変の相性関係。


 補助スキル〈水属性付与Ⅳ〉を発動させたソラは、戦闘が始まる前に自身と左右の二人に付与した。


 三回も消費した、MPの合計値は135。


 オレのMPの総数は500なので、この時点で残りは365となる。


 そこでMPの消費を検知して、新しく取得した〈アビリティ〉が発動。

 自身のMPが一秒ごとに【5】ポイントずつ回復を始めた。


 この現象を起こしているのは、ソラが右手に握っている、新しい相棒の片手直剣〈白銀の魔剣〉にある。


 ユニークアビリティ〈天の魔力〉。


 効果は周囲から魔力を集め、所有者に与える事。

 MP消費が激しいオレは、ユニークアビリティという事もあり、キリエと別れた後に武器のアビリティ項目を見て迷わずにコレを即決した。


 動作に問題なし、すでに5秒の経過によってMPが25も回復している。


 これならば戦闘中に、マジックポーションを飲まなくても再度〈付与スキル〉を行使できるだろう。


 ふふふ、オレの付与魔術師はさらなる成長を遂げたぞ。


 内心ニコニコしていると、助けたグレンが真剣な声でこう言った。


「ソラ君、私も加勢を」


「あー、それは有り難いんですけど、コイツの出現と同時に〈レッサードラゴン〉の追加が来てます。ここに加勢するよりもグレンさんは、他の方々の援護をしてあげて下さい」


「大丈夫だ、この程度の敵に遅れを取るほど俺達は弱くない」


「なんせボク達は、アスオン最強の〈三連星〉と言われているらしいですからね」


 トップ層の一部から称されている名を、ロウが言うと、グレンは苦々しい顔をした。


「…………わかった、キミ達の武運を祈る」


 渋々といった感じで頷くと、彼はオレ達に背を向けて、生き残った仲間と共に走り去る。


 その背を見送ると、ソラ達は改めて眼前に立ちはだかる〈グレータードラゴン〉と向き合った。


 攻めて来ないと思っていたら、どうやら自身の攻撃を簡単に切り払ったソラを警戒して、様子をうかがっているらしい。


 ならば、此方から攻めるのみ。


「シン、ロウ、いつも通りの戦法でやるぞ」


「ああ、任せろ」


「攻撃は、お二人に任せますよ」


 武器を手に、駆け出す三人。

 事前に4枠付与スキルを〈速度上昇〉で埋めたシンが、ロケットのような速度で長槍を手に先行する。


 彼が選択したスキルは〈ソニックランスⅢ〉。


 強化された駿足しゅんそくをもって、ソラの〈ソニックソードⅣ〉に勝るとも劣らない速度で地面を駆けた槍使いは、ドラゴンの横を通り抜ける際にスキルをキャンセル。

 急停止すると右足で踏ん張り、付与スキルの恩恵で一時的に獲得している属性技〈アイス・デュアルスパイラル〉を発動。


 踏み止めたエネルギーを余すことなく刺突の力に変換して、高速の二連突きを放った。


 それに反応した〈グレータードラゴン〉は、とっさに右腕で防御の構えを取り、モンスター専用のスキル〈スケイルアーマー〉で右腕の装甲を更に大きくして受ける。


 鋭い槍のニ連撃は、まるで盾のように展開されたウロコに阻まれて、マトモなダメージを出すことは出来なかった。


 しかも防御されて、姿勢が崩れるシンに対して、ドラゴンは反撃と言わんばかりに左腕の爪を大きくさせる。


 横がガラ空きだぞ!


 時間差でソラが、少し遅れて突撃。


「ハァッ!」


 跳躍したオレは水属性を宿した斜線2連撃〈アイス・デュアルネイル〉を発動。


 剣を肩に担いで、袈裟斬りでドラゴンの脇腹を切りつけ、そのまま高速回転して再度同じラインを切り裂いた。


 弱点属性と強化されたソラの攻撃は〈グレータードラゴン〉のHPを一気に三割も削り取る。


 自身に大ダメージを与えたオレに対して、ドラゴンは標的を変えると左腕の〈ドラゴンクロウ〉を振り下ろす。


「させません!」


 間に割り込んだロウが、盾で竜の爪を受け止めた。


 〈防御力上昇Ⅲ〉によって強化され、正に鉄壁と化したイケメン騎士。


 彼は自身に付与した盾の強化、ダメージ半減のスキルに加えて、新しいスキル〈イモウビリティ〉によって弾かれることなくその場で踏み止まる。


「ハッ!」


 それだけではなく、大質量を止める引き換えにダメージを受けながら、ロウは〈リバースシールド〉を発動。


 受け止めた全てを反射して、逆に〈グレータードラゴン〉を弾き返した。


「よくやった、ロウ!」


 転倒しそうになるのを必死に耐えるドラゴンに、左の手のひらを向けたシンが、己の最大最強の魔術式の一つを展開させる。


 ソレはスキルレベル20でようやく獲得する事ができる、初めての大魔術。


 上位術式の展開。


 発動コードの要請。


「──大いなる母たる水よ、の偉大なる力をって我が障害を流しはらえ」


 コードを承認。


 代償として、全てのMPを消費。


 以上で、全行程を完了。


 上位水魔術式〈タイダルウェイブ〉の使用が【魔術師】シンに許可される。


「いっけぇ!」


 魔術師シンの全てのMPを込めた魔術式が、ドラゴンの真下に展開。

 術式はマスターである彼の求めに応えて水色に光り輝くと、巨大な水の柱を真下からドラゴンに叩きつける。


 弱点属性の上位魔術の直撃を受けた〈グレータードラゴン〉のHPは、半分を切って残り二割に。


 自衛の為に巨大な炎を無差別に撒き散らすドラゴンの足掻あがきを、ソラは冷静に回避。

 〈白銀の魔剣〉を構えて、この戦いに決着をつける為に地面を駆けた。


 付与スキルで、普段バランス重視にしている構成を攻撃重視に変更。


 5枠も埋める〈水属性付与Ⅳ〉は、上位の属性攻撃スキルの使用をソラに許可する。


 眩い水色の光を放つ刃。

 

 合わせて選択するのは、自身の手持ちの中で最強の威力を誇る刺突技〈ストライクソードⅣ〉。


 接近するタイミングに合わせて〈グレータードラゴン〉が、照準を定めて紅蓮の息吹〈クリムゾンブレス〉をソラに放った。


 不味い、と思う。

 当たれば総防御力【D−】のソラは、一撃でHPが消し飛ぶ程の威力が、そこには込められている。


 回避行動は、間に合わない。


 紅蓮の炎が、彼を飲み込もうとする。


 その直前、最強の守護神であるロウがこれ以上ないタイミングで割り込み、盾で炎のブレスを受け止めた。

 ファランクスとリインフォースを使い、防御力を強化しているとはいえ、受けるのは敵の最大最強の攻撃スキル。


 防ぎきれないダメージによって、ロウのHPが、徐々に端から減っていく。


「ふぅ、間一髪でしたね」


「……すまん、ロウ。肩を借りるぞ!」


「ああ、はい。いってらっしゃい」


 一つ閃いたソラは、更に加速。


 短い言葉で、意図を理解したロウの許可を得て、集中して跳躍。


 彼の肩を、足場にした。


 そこから更に力を込めて、タイミングを合わせて跳躍と同時に〈ソニックソードⅣ〉を使用。


 瞬間的なレベル4のスキルの超加速を得て、オレは空高く飛翔する。


 ロウの強靭な体幹と、少しでもタイミングを間違えたら途中で墜落して、炎のブレスに飛び込む曲芸だ。

 それをこの土壇場で成功させたソラは、上空から〈グレータードラゴン〉に急接近。


 空を飛翔して来る敵を見たドラゴンは、ブレスの攻撃を中断すると、真っ直ぐ向かってくるソラを叩き落とそうとした。


 だが、もう遅い。


 剣を構えたオレは、空中でシステムのアシストを貰いながらスキルを発動。


 そのスキルの使用条件は5つの〈同属性付与〉レベル4以上。


 そして武器熟練度70以上。


 片手剣の刺突スキルと、上位の属性付与スキルが複合する事によって生まれたのは、現状ではソラにしか使う事のできない上位の属性攻撃スキル。


 名を──〈アブソリュート・ゼロストライク〉。


 刃は絶対零度の冷気を放ちながら、〈グレータードラゴン〉の最も硬い頭部の装甲に衝突。


 強度と荷重で強化された白銀の刃は、その耐久値を減らすことなく徐々に装甲に突き刺さり、そのまま装甲ごと頭部を穿うがつ。 


 弱点属性と合わさって、大ダメージを受けたドラゴンは、残っていたHPが全て0に。


 断末魔の悲鳴を上げながら、黒紅の暴竜は、光の粒子となって霧散した。

 

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