第68話「精霊森の決戦①」

 シオの話によると〈リヴァイアサン〉本体の攻撃は、2本目よりも格段に素早くなったらしい。

 オマケに今まで通じていた〈挑発〉も効かなくなり、ジェネラルの終盤と同じようにTシフトを使った戦法は通じない。

 そこでソラ達が取った選択肢は、一つだった。

 敵の攻撃に対して、ソラの付与スキルを全て防御にガン振りした騎士隊が盾で受けて、メインアタッカーであるソラ達が攻撃する。


 実にシンプルな作戦だ。


「ハァッ!」


 騎士隊が爪による薙ぎ払いを受け止めた所を、横を駆け抜けたソラ達が、単発系の攻撃スキルを放つ。

 青い光を纏う武器。

 単発系で威力が一番あるのは、アストラルオンラインで誰もが愛用している、基本にして必殺の突き技。


 その名は攻撃スキル〈ストライクソード〉。


 シンは槍なので、他の五人とは違う〈チャージランス〉という溜め技のスキルを使用。

 六人が放った強撃は胸だと思われる部分に突き刺さり〈リヴァイアサン〉のHPを2割削る。

 それを見ていた他の冒険者達が「すっげぇ減ったぞ!」「マジかよ!?」「どんな攻撃力ならあんな減るんだ!」と驚きの声を上げた。

 しかし逆に、ソラは内心で冷や汗を流す。

 何故ならば、


「オレが自分の付与スキルを、全部攻撃にガン振りしてるのに、たったアレだけしか減らないのか。本当にアイツ、レベル60なのか?」


 現在の割り振りは〈風属性Ⅱ〉が1つに他の14枠を全て〈攻撃力上昇〉に使っている。

 わかりやすく言えば、基本火力はソラだけで三人分。それが弱点属性によって2倍になり、一人でジェネラルのHPを半分以上は削れる程の大火力となる。

 そんな自分を含めた六人による攻撃で、たったの2割しか削れないのだ。

 敵のHPの総量と防御力の高さの結果だと考えると、マトモな正攻法でコイツを倒すのには、半日以上は掛かりそうな気がした。


「そ、その筈なんだけどね……」


 オレの呟きに対して、シオは苦笑いする。


「もしかしたら、ソラに合わせて強化されてる可能性があるぞ」


「ステージの難易度が、一番レベルが高いプレイヤーに合わせて高くなる原理ですね」


「おまえら、忘れてるみたいだけど、このイベントの推奨レベルは80だからな?」


 この場にいる冒険者は、誰一人として到達していない数字だ。

 何せ一番高いソラですら、レベルは【33】なのである。

 推奨レベルを考えるのならば、敵のステータスがバカ高いのも納得はできるが……。


「タックルが来るぞ、全員回避!」


 シノの掛け声に応じて、全員が余裕を持って横に飛ぶ。

 その中で彼女だけが、ギリギリで回避行動を取った。


「ふっ、敵が強ければ強い程、私も燃えるってものだ!」


 突進攻撃を紙一重で避けながら、シノはすれ違いざまにデュアルネイルを発動。

 高速で回転しながら〈リヴァイアサン〉の左前足を、二回切りつける。


『グオォォォォッ!』


 横を抜ける寸前、反撃に〈リヴァイアサン〉の尻尾が振るわれる。

 これは、データに無い攻撃だ。

 反応が僅かに遅れたシノは、回避は不可能だと判断する。

 彼女が尻尾による打撃に対して、とっさに盾を構えて防御の姿勢を取ると、眼の前にクロが割り込んだ。


「はぁッ!」


 彼女が選択したのは、突進攻撃スキルの〈ソニックソードⅡ〉。

 しかし、ただの〈ソニックソード〉ではない。

 風属性付与EXの恩恵によって、刃に風を纏った彼女のスキルは〈エアリアル・ソニックソード〉に強化されて、普通なら盾で防ぐしかなかった大蛇の尻尾を、単独で切り払う事に成功する。


『グルゥオッ!』


 反転した〈リヴァイアサン〉は雄叫びを上げて、そこから更にクロとシノを目掛けてノーモーションでロケットのような突進攻撃をした。

 そこにアリアとゴーレムが割り込むと、〈リヴァイアサン〉の突進を両手で受け止め、ダメージは無いが右拳を叩き込んで怯ませる。

 ソラは微笑を浮かべて、地面を駆けた。


 ──流石は、レベル100のゴーレムだ!


 〈リヴァイアサン〉の僅かなディレイを逃さずにソラ、シオ、シン、ロウの四人が動くと、真横から無防備な横っ腹に刺突スキルを叩きつけた。

 これでHPは、更に2割の減少。

 後は6割程度しか残されていない。

 怒りに唸る大蛇は、大きく跳躍してソラ達から距離を取る。

 すると2回使用分のリキャストタイムが終わったのか、翼を広げると眩い光を放った。


「不味い、またブレスが来ます!」


「させるかよ!」


 ロウの叫びにシンが飛び出すと、MPを200消費。魔術を使用して、周囲に風の槍〈ウィンドランス〉を4本生成させる。

 口から稲妻をほとばしらせる〈リヴァイアサン〉は、自身が吹っ飛ばないように前足を踏ん張ると、口を大きく開き───


 そこに、シンが狙い放った4本の〈風の槍〉が、同時に叩き込まれた。


 〈光の息吹〉を撃とうとしていた〈リヴァイアサン〉は口内が爆発して、一気にHPが残り4割りまで減少。

 敵のHPが半分を切ると、追い詰められて真の力を発揮したのか、翼が更に四枚増えて合計六枚に。

 更にウロコが鎧のように変化すると、洞察スキルで見る事ができる〈リヴァイアサン〉のレベル表示が60から一気に100まで上昇する。


「ウソだろ!?」


「きゃあ!?」


 大蛇は六枚の翼を大きく動かし、烈風を発生させると、周囲にいた軽装備の冒険者達を人残らず吹き飛ばす。

 更にレベルの上昇により〈リヴァイアサン〉の攻撃力が更に増した。

 先程まで盾で受けることが出来ていた攻撃に、騎士隊が踏ん張ることが出来ず、全員大きく後方に弾き飛ばされた。

 こうなると、盾で敵のディレイを狙っての攻撃はかなり厳しくなる。

 しかし、敵の攻撃を防ぐ方法は、何も盾だけに与えられた役割ではない。

 ソラは皆を見て、こう言った。


「後少しだ、オレとクロで決めに行くぞ」


「うん!」


 剣を手に、駆け出す二人。

 その左右に、他の四人が並走した。


「一番火力があるのはお兄ちゃんとクロちゃんだもんね、敵のスキルの相殺は私達に任せて」


「天使様二人のサポートか、これはこれで燃えるな」


「一人では押し負ける可能性が高いので、ペアで行きましょう」


「それならば、私とシオ、シンとロウのペアがベストだな」


 一直線に向かってくるソラ達を睨みつけると、〈リヴァイアサン〉は巨体を持ち上げて、右手で横から左に薙ぎ払う。

 先ず最初に対応に動いたのは、先程ペア分けされたシンとロウだった。

 二人は動きを合わせて刺突スキルを発動させると、真正面からではなく、側面を狙って腕の進路を変える。


「どれだけ威力と速度があっても、無防備な側面を狙えば、向きを変えるのは誰にでもできる」


「VRゲームでは基本の一つですね」


 とはいえ、ボスモンスターの威力と速度が増した大質量の一撃をスキルでそらすのは、流石に二人も無償では済まない。

 反動で硬直を受けると、シンとロウは一定時間だけ動けなくなる。

 しかし敵はディレイから直ぐに立ち直ると、後退して、近づかせんと今度は口からモヤモヤとした紫色のエフェクトを発生させた。


 あれは、前方の対象にダメージと猛毒を付与する〈ヴェノムブレス〉。


 〈リヴァイアサン〉の予備動作から何が来るのか読み取ったシノは、メニュー画面を開いて武装を変更。

 二本の刀を呼び出すと、シオに告げる。


「ブレスは、一瞬だけ私がどうにかする。その隙に、シオは奴の口を閉じてやれ」


「わかったわ」


 大蛇は予備動作を終えると、巨大な猛毒を吐き出した。

 右腰の刀に両手をかけたシノは、タイミングを見計らって抜刀。

 初期のカタナスキル〈居合斬り〉を発動すると〈風属性付与Ⅱ〉を纏った刃は猛毒のブレスを一瞬だけ切り裂いた。

 しかし、〈リヴァイアサン〉が吐き続けるブレスは、切り裂かれても勢いを止めない。

 ソラ達を飲み込もうと、迫る猛毒を見据えたシノは、間髪入れずにもう一本に手を掛けると続けて抜刀。

 二本の刀から続けて放たれた〈居合斬り〉は、一瞬だけ〈リヴァイアサン〉への道を切り開く。

 そこを見逃さずに〈ソニックソードⅡ〉を発動させたシオが駆け抜けると、続けて流れるような動作で〈ストライクソードⅡ〉に繋げる。

 一本の矢の如く飛翔したシオは、大蛇の鎧のような顎(あご)を下から刺突スキルで強引に閉じさせた。

 〈リヴァイアサン〉の口端からは、紫色の煙がモクモクと溢れ出ている。


 うわぁ、すごい力技だ……。


 その光景に対して、そうはならんだろ、と内心ツッコミを入れたい衝動がこみ上げるソラ。

 女子二人による超パワープレイに、流石に少しばかり呆れた顔をした。


「お兄ちゃん、あとお願い!」


「行け、二人共!」


 硬い部位を叩いたシオは、その反動で硬直する。

 落ちてきた彼女をシノが拾うと、戦域から直ぐに離脱した。

 二人に頷き返すと、ソラは剣を構える。

 付与スキルの編成は攻撃特化から、7つの属性付与と、攻撃力の上昇付与に変更。

 今回必要なのは、7つの異なる属性が一つになるイメージだけではない。

 自身の力を、この剣に全てを注ぐイマジネーション。


「ソラ!」


「ッ!?」


 クロの叫びで、気がついた。

 敵の六枚の翼が、光り輝いている。

 再び開いた口に雷光が弾けるエフェクトを確認するのと、極大威力のブレス攻撃。



 〈エンヴィー・オブ・カタストロフィ〉が放たれたのは、全くの同時だった。


 

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