第67話「ラファエル」
ソラの視線を受けると〈ヴェノム・クイーン・リヴァイアサン〉が大地を震わすほどの雄叫びを上げる。
母である大蛇の叫びに呼応して、周囲の空間が大きく歪む。
すると超強化された冒険者達に対抗するかのように、何もない空間から〈リヴァイアサン・ジェネラル〉が追加で4体出現した。
これでジェネラルの数は、合計で8体になる。
……アレは、もしかしてオレのせいだろうか。
もしかしたら、ゲームシステムが〈ルシファー〉を発動している自分に対して、リヴァイアサンに戦力を追加したのかも知れない。
しかし8体のジェネラルを目の当たりにしても、テンションの上がった冒険者達は口角を釣り上げて、武器を手に真っ向からぶつかりに行った。
「これだけ強化もらえば、コイツ等なんて怖くないぜ!」
「団長達の邪魔をさせるな!」
「精霊のお姫様いるってマ!?」
「これはカッコ良いところ見せないとなぁ!」
向かってくる〈ジェネラル〉に騎士の職業が挑発を使い、引きつけると〈リヴァイアサン〉に対して、真っ直ぐ向かう事の出来る一本道が出来る。
「シノ団長、ジェネラルは引き続きワタシ達が引き受けます!」
「シオちゃん、あのデッカイボスお願いね!」
〈ヘルアンドヘブン〉と〈宵闇の狩人〉の副団長達も、武器を手にジェネラルに向かっていく。
各地で冒険者達とジェネラルの戦闘が始まると、隣にいるクロがオレを見上げた。
「……はじめるね」
「ああ、頼む」
ソラの横に並ぶ黒髪の少女は、システムに促されて、祈るように胸の前で両手を合わせる。
その左手の薬指にハメられているのは、此処に到着する前にオレから手渡された〈
渡す際に知ったのだが、ユニークアイテムである特殊な指輪には、持ち主を選ぶシステムがあるらしい。
オレが手渡すと指輪は、クロを主に相応しいか選定して、無事に所有者である事を認めてくれた。
指輪を装着する事でユニークスキル〈ラファエル〉を取得したクロは、己のMPを全て消費する。
更にバッドステータスとして、ボスバトルが終了するまで消えることのない〈MP回復不可〉を付与された。
代償を支払い、彼女が得たスキルは二つ。
一つは全体に独自枠として付与する、消去不可の永続強化スキル。
クロを中心に展開された強化スキルは、全プレイヤーの【HP】の下に【天使の羽】のアイコンという形で出現。
ボス戦に限り、全ダメージを20パーセントカットする〈風の守護〉が付与される。
残る二つ目のスキルは、自身を〈
〈風之天使〉になって得られるスキルは下記の通り。
【補助スキル】風属性付与EX
【補助スキル】オートリジェネ
【補助スキル】状態異常の無効化
【補助スキル】感知Ⅱ
天使のスキルを開放したクロの瞳は金色になり、髪は翡翠色に変わる。
あえて名付けるなら〈ラファエル〉モードと言ったところだろうか。
ボス戦でしか使えない上にMPを使用できなくなる分、かなりピーキーなスキルだが、足りない分はオレが補ってやれば良い。
なにはともあれ、ユニークスキルの使用に彼女の天命残数が消費されない事に、自分は内心ホッとした。
「お兄ちゃん、クロちゃん、その姿一体どうしたの!?」
「あ、シオちゃんだ」
男に戻っているオレと、髪と瞳の色が変化したクロを見て、近寄ってくるなりシオがびっくりした顔をする。
ソラは剣を持っていない左手の親指を立てて見せると、驚いている妹に説明した。
「おう、分かりやすく言うなら、天使モードってヤツだ」
「天使モード……お兄ちゃんまさか」
言葉の意味を理解したシオは、目を大きく見開いて絶句する。
するとその後ろから、シンとロウの二人がやってきた。
彼等もオレのユニークスキルの事は知っているので、会うなり険しい顔をした。
「おまえ、まさか天命を……!」
「何かやり遂げたって顔してますね」
昔から付き合いの長い親友二人の鋭い洞察力に、ソラは苦笑して頷く。
それだけで彼等は納得したみたいで、二人して深い溜め息を吐くと、それ以上の追求はしてこなかった。
問題はもう一つの方だ。
色々と忙しくてメッセージの山を無視してたので、シノがやたら怖い顔をしてやって来る。
するとクロが、オレを守るようにシノとの間に立つ。
ゲーム内での久しぶりの再会に、強くなったクロの姿を見て、シノは目を細める。
何か言おうとすると、先にクロが口を開いた。
「シノ、わたしパパに会えたよ」
「……ッ!?」
クロの口から出てきた想定外の話に、文字通りシノは面を食らった。
その意味を知っているのは、この場ではオレとシノとシオの三人だけである。
シオも「何事!?」と驚いた顔をしてこちらを見た。
後で説明するよ、とソラは妹に耳打ちする。
するとクロは、ソラの腕を掴み、嬉しそうにシノに言った。
「ソラがね、助けてくれたの。自分の命を一つ捧げてまで」
「……そうか」
「だからね、怒らないで」
「……そうだな、分かった。ハルトは、元気だった?」
「うん、ママを探しに行くって」
「……まったく、あのバカは」
険しい顔から、シノは柔らかい微笑みになる。
その瞳には、古き友人に対する呆れの感情が浮かんでいた。
シノはクロの頭を優しく撫でると、彼女に問いかける。
「目的の一つは、果たせたみたいだな。次の目標は?」
「強くなって、二人を迎えに行くの」
「……なるほど、それは良いな」
「だから、先ずはみんなでボスを倒そう!」
「分かった、頼りにしているぞ」
「うん!」
クロとの会話が終わり、視線が合うとシノは毒気を抜かれたような複雑な表情を浮かべて、オレの頭をわしわしと撫でる。
「まったく、おまえというヤツは……」
「師匠、お叱りはこの戦いが終わってからお願いします」
「バカモノが、クロを助けてもらったんだ。怒れるわけ無いだろ」
肩をすくめて、シノはリヴァイアサンに視線を向けた。
既にヘルアンドヘブンの対ボス部隊が接敵して、交戦を始めている。
騎士隊が受けて、アタッカーが削る戦法。
しかし真の姿になった〈リヴァイアサン〉はディレイからの立ち直りが早く、一回攻撃をするので精一杯らしい。
着実にダメージは与えているが、ステータスが向上した〈リヴァイアサン〉のHPゲージは微量しか減らない。
オレは、自分のHPの下にある天使のアイコンを確認した。
〈ルシファー〉モードの残り時間は、後1時間くらいだ。
これだけあれば、ヤツを倒すには十分すぎるだろう。
クロは〈黎明の剣〉を抜いて、構える。
その隣では、アリアが弓を手にしていた。
「わたくしは、回復と援護射撃に専念いたします」
「オーケイ、アリアは防衣の結界が常に切れないように気をつけろよ」
「大丈夫です、このエリアでこの防衣を身につけてるわたくしには、心強い味方を呼べますので」
「心強い味方?」
何だそれは、と思うと地面が大きく揺れる。
まさか地震か、とバカなことを考えると、急に周囲が暗くなった。
思わず天を見上げたオレは、そこで全長5メートル程の金属っぽい素材で作られたゴーレムと視線が合う。
ソラのサポートシステムである〈ルシフェル〉は、すぐさまそのゴーレムの情報を主に提供した。
〘あれは、レベル100のエンシェントゴーレム。精霊王のドレスを装備した王族に従って戦う、ミスリルと魔術で構成されている古代の兵器です〙
あー、そういえば初めて会った時に、そんなのが精霊の村の周囲にいるって話しを聞いてたな。
ソラ達が唖然としていると、アリアを感知したジェネラルの一体が、戦っている冒険者達を強引に抜けて向かってくる。
不味い、と思い迎撃態勢を取ると、
「エンシェントゴーレム、王家の盟約に従い、わたくしを守りなさい」
アリアの言葉に応じたゴーレムが、向かってくるジェネラルの斬撃を左手で受け止め、右拳のカウンターを叩きつける。
ズドン、と腹の底から重く響き渡る一撃を受けて、ジェネラルは宙を舞った後に地面に落ちた。
ダメージ量は、ジェネラルの二本ある内の一本が、残り5割残っている状況から無くなる程。
圧倒的な攻撃力を見せつけたゴーレムは、アリアを肩に乗せて「姫の護衛は自分に任せろ」と言わんばかりに右手の親指を立てる。
「あー、大丈夫みたいだな」
というか、普通にオレより強い。
むしろゴーレムが率先して戦えば簡単に終わるんじゃないか、という意見がシンから出たが。
アリアから〈リヴァイアサン〉本体には、冒険者しかダメージを与えられないという情報を教えられて、その考えを断念する。
「さて、それじゃ行くぞクロ!」
「うん!」
〈リヴァイアサン〉本体と先に戦っている人達のHPが、残り3割とかなり危ない状況だ。
剣を手にしたソラとクロは、〈リヴァイアサン〉に向かって駆け出した。
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