第21話「ユニーククエスト」

 ユニーククエスト。

 サポートシステムによると、それは条件をクリアする事でプレイヤーに与えられる〈限定クエスト〉らしい。

 難易度が高ければ高いほどに始めた時点で大量の経験値が入り、クリアできればレアアイテムも入手できるとの事。

 もしも【NO】を押せば、その時点でクエストは消失。

 この状況ならばアリアと共に森の外に出されて、次のマップに進む道が開かれると無知なオレにサポートシステムは丁寧に答えてくれた。


 次に進むか、遠回りをしてレアアイテムを取りに行くか。


 そんなもの選ぶ必要すらない。

 クエストを始めますか?

 【YES/NO】

 という問い掛けに対して、ソラは即決で【YES】で返すとクエストの受注が完了した。


 ゲーマーなら面白そうな方を選ぶに決まってる!


 ……あとレアなアイテムも欲しい。


 すると取得した莫大な経験値によって、レベルが一気に【18】から【22】まで上昇する。

 一体どれだけの経験値が入ったんだ。

 疑問に思う中で、耳に聞こえるのはいつもの涼やかな女性の声だ。


 装備している片手剣の熟練度が【22】から【28】に上がりました。


 筋力が【18】から【22】に上がりました。


 攻撃用スキル〈ガードブレイクⅡ〉を取得しました。


 攻撃用スキル〈デュアルネイルⅡ〉を取得しました。


 防御用スキル〈ソードガードⅡ〉を取得しました。


 攻撃用スキル〈クアッドスラッシュ〉を取得しました。


 おお、ついに四連撃のスキルまで手に入ったぞ。


 オマケに〈クアッドスラッシュ〉とか、名前がカッコよすぎじゃないか。

 感動しつつ更にスキルポイントを全部〈付与魔術師(エンチャンター)〉に振り分け、レベルを【22】まで上昇させる。

 するとスキルレベル【20】のボーナスで、下記を新たに取得した。


 補助スキル〈速度上昇付与〉


 補助スキル〈付与魔術軽減〉


 ……ふむ、これは一体。


 確認してみると〈速度上昇付与〉は文字通り足の速さを上げるもので〈付与魔術軽減〉は使用する付与スキルの消費MPを全て10も軽減してくれるらしい。


 うーん、エクセレントッ!


 速度上昇も嬉しいが、後者の消費MP軽減はもっと嬉しい。

 これで付与スキルの消費MPが格段に楽になる。

 もしかしなくても〈付与魔術師エンチャンター〉は大器晩成型なのではなかろうか。

 この調子で育てていけば、オレならば確かに全職業中最強を目指せるかも知れない。

 脳裏に浮かんだのは“不人気ランキング1位”と口にして驚いていた他のプレイヤー達の姿。


 ふ、ふふふふ……そんなもの更なる付与魔術の高みにのぼったオレが全て覆してやるよ!


 詩織がこの場にいたら説教されそうな事を考えながら一人燃えていると、アリアがニコニコしながら此方の様子を眺めている事に気がついた。


「な、何かオレの顔についてます?」


「いえ、可愛らしく喜ばれるお子……お方だなと思いまして」


 今のお子様と言いかけなかったか?

 気のせいかな、と自分に言い聞かせながらソラは恐る恐る尋ねた。


「………………………………もしかしてさっきの声に出てました?」


「はい、わたくしには分かりかねますが、ソラ様は誰かを見返したいのでしょうか」


「バッチリ聞かれてますね!?」


 バカバカ、オレのバカ!


 取得したスキルに興奮しすぎて声に出してしまうとは、未熟者にも程がある。

 この場にシンとロウがいたならば「アホ面してたぞ」とか「ソラって見ていて飽きませんよね」とか苦笑されていただろう。

 恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして悶(もだえ)ていると、アリアはくすりと笑った。


 ……NPCだよな?


 神殿にいたヴェルザンディや門番の兵士の時にも思ったのだが、このゲームやたらNPCの反応が人間っぽい。

 今までプレイしてきたゲームでは殆どが無機質なものだったり、決められた反応しか返せないものばかりだったから、このゲームのNPCのクオリティの高さには本当に驚かされる。

 例えば大抵のゲームでNPCが笑う時は、プレイヤー側が決められたアクションをした時のみである。

 しかし今のアリアは、オレが顔を真っ赤にしたことに対して控えめに笑ってみせたのだ。


 こんな事がNPCに可能なのだろうか。


 やろうと思えばできるのだろうが、でも今のは明らかにオレの様子や顔の変化を読み取って笑った気がする。

 普通の人間のように。

 ふむ、と思案しているとアリアは嬉しそうにオレの右手を握りこう言った。


「この森を守護される風の精霊達は認めた者しか村に至る道を開いてくれません、ですのでわたくしの手を離さずついてきてください」


「わかった。ちなみに離したらどうなるんだ?」


「その時点で村を守るゴーレムに襲われる事になるので、この手だけは絶対に離してはなりません」


「あ、そういうのいるんですね」


 しかしゴーレムかぁ、鉱石類のドロップとかしそうだから少しだけ戦いたい衝動が湧いてくる。

 そんなオレの様子から察したのか、アリアは少しだけ呆れた様子で釘を刺しに来た。


「ソラ様はとてもお強いですが、戦おうとは思わないでくださいね。ゴーレムはレベル100なので絶対に勝てません」


「ひ、ひゃく……!?」


「オマケにゴーレムは広範囲攻撃を得意としていまして、先程のスケルトンソルジャーが100体束になって突撃しても一瞬で消し飛びます」


「ゴーレムが広範囲攻撃……」


 そりゃ無理だわ。

 レベル的にはオレのおよそ4倍以上。

 動きが遅いのであればヒットアンドアウェイでどうにかできるが、アリアの話が本当なら敵対認識された瞬間に範囲攻撃で消し炭にされそうだ。

 というか村一つ守るのにレベル100のゴーレムがいるとか過剰戦力じゃなかろうか。

 例えるのなら、街一つ守るのに巨大人型ロボットを配備するようなものである。

 そんな事を思いながら彼女に手を引かれて歩いていると、しばらくして門みたいなものが見えてきた。


「村は周囲を壁で覆っていまして、入口はあちらの門だけです」


「ふむふむ、木の柵じゃないのか。中々にしっかりしてるようだな」


 いつものように〈洞察スキル〉を発動。

 表面上から読み取れる情報によると、あの壁は“古代の魔術”で作られた特別性のものらしくどんな攻撃を受けても反射して放った相手に返すとの事。


 古代魔術かぁ、なんかカッコいい響きじゃないか。


 オマケに壁はアダマンタイトの粉末を混ぜて作られているらしく、防御力と耐久力ともに【S】という目玉が飛び出そうな代物だった。

 たしか王都ユグドラシルの周囲の壁は、防御力と耐久力が【A】だったと思う。

 精霊の村の防御力は国以上なのか。

 レベル100のゴーレムも配備されているし、こんな無敵要塞に攻め入ろうとする奴なんて存在しないだろ。

 そう思っていると、アリアが固く閉ざされた門に右手をそえた。


「アリアです。門をお開けください」


 彼女の言葉に反応して、門に魔法陣が展開される。

 するとガチャリという音が聞こえて、ゆっくりと重たい左右の扉が観音開きしていく。

 扉の先には、沢山のログハウスが建ち並ぶ実にシンプルで王道的な村という感じの光景だった。

 住民たちは女性ばかりだ。

 アリアと違い髪は金色。みんな布地の少ない民族衣装みたいなのを身に纏っている。

 門の左右には武装した10代後半くらいの女性の兵士が二人ほどいて、彼女達はアリアを見ると深々と頭を下げた。


「姫様、お帰りなさいませ!」


「姫様、そちらのお方はまさか……」


「こちらのお方は、わたくしをスケルトンソルジャーから助けて下さった命の恩人です」


「おお、見たところ駆け出し冒険者の身なり!?」


「そんな装備で堅牢なスケルトンソルジャーを撃退するとは、実に勇敢なお方だ!」


「村の者達には、この方を丁重にもてなす様に伝達をお願い致します」


「「承知いたしました!」」


 アリアに手を引かれて中に入ると、背後で門がゆっくりと閉まる。

 そこで彼女は手を離すと、両手を広げてオレに対して満面の笑みを浮かべた。


「本日はようこそおいでくださいました。この〈森の王〉の娘として、ソラ様を歓迎いたします」


「……森の王? それってもしかして君は」


「はい、わたくしは“妖精の王と風の精霊王の間に生まれた子供”なのです」


「え、ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 そんなオレの心の底からの叫び声に、何事かと村中の人達が集まってくるのであった。

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