第15話「紫電の手刀」
鮮烈な光を纏った白銀の刃と淡い光を纏った漆黒の刃が衝突すると、火花を散らして拮抗する。
だがそれは一瞬だけの出来事。
漆黒の刃は徐々に白銀の刃に押されだすと、クロは堪らずバックステップをして
再び距離を取った黒髪の少女は、驚いた表情でオレの顔を見る。
その目は信じられない、と言わんばかりに見開かれていた。
「同じ〈ソニックソード〉じゃない」
「うーん、そうかな」
「とぼけないで、それは一体なに?」
「何って聞かれても〈ソニックソード〉としか言いようがないんだが」
「うそ、信じられない」
うーむ。
全く同じタイミングで同じ動作で、同じ技を繰り出して押し負ける。
その事に、どうやらクロはかなり驚いている様子。
確かに彼女の使ったスキルは初期に使える普通の〈ソニックソード〉で、オレが使ったのは片手剣の熟練度20で強化された〈ソニックソードⅡ〉だ。
技の威力が違うのだから、正面からの押し合いで負けるのは当然の事。
しかしこれは真剣勝負である、わざわざバカ正直に教えてあげる必要はない。
「……やっぱり只者じゃない、それなら」
呟いて、クロは漆黒の剣を手に再び〈ソニックソード〉を発動させた。
しかし、今度は真っ直ぐに向かってこない。
技の発動とキャンセルを交互に連続で行い、とんでもない速度でジグザグに迫ってくる。
これはアストラルオンラインで、トップ層のプレイヤーが使う上級技の一つ〈ソニックターン〉だ。
高速でスキルの発動とキャンセル。それと姿勢制御も合わせてしないといけないため、並の人間ではすぐに酔ってしまう上に思考がついていけない。
道端で練習しているプレイヤーがコケまくっているのは、姿勢制御に失敗してる結果だ。
更にそこから攻撃に繋げようとすると、難易度はもっと跳ね上がる。
例えるのならば、暴れ馬に乗って弓で正確に的のど真ん中を射抜くようなものだ。
そんな上級者でも一握りしかマスターしてないそれを完璧に使いこなしているクロは、やはり素晴らしいセンスを持っている。
しかし、せっかくの技が台無しだ。
殺気から狙いが分かりやす過ぎる。
これならば取得した〈感知〉スキルを使うまでもない、とソラは剣を握る手に力を込めた。
視界から消えたクロが右斜め後ろから〈ストライクソード〉を放ってくる。
ソラは振り向くと同時に〈ソードガード〉を発動させて、必殺の突き技を横に払った。
「速いのは良いんだけど、読みやすいぞ」
「……ッ」
ならばと、彼女は横に払われた剣の勢いを利用して〈デュアルネイル〉を発動。
高速で繰り出される二連撃のスキルが、ソラの身体を切り裂かんと剣に淡い光を宿して放たれた。
それをオレはVRゲーム〈剣豪〉で培った目で見切り、初撃を〈ソードガード〉のスキルで受け流し、二撃目の回転からの重たい一撃をタイミングを見計らいジャストガードで受け止める。
鍔迫り合いになると、ソラは彼女と視線を合わせて言った。
「確かに速く鋭い。だけどそれだけだ。そんなスキルの使い方じゃ、オレは仕留められないぞ」
「……防戦一方で何を偉そうに」
「なら“魅せて”やるよ、スキルはこう使うんだ」
その場でソラは〈ソニックターン〉を使用。とんでもない速度でスキルのオンとオフを繰り返し、クロの背後を取る。
選択するのは二連撃の〈デュアルネイル〉。
正に先程の彼女の攻撃をトレースした形で、ソラは彼女が使用したスキルと同じ二連撃を発動。
辛うじて反応した彼女は一撃目を剣で防ぎ、二回目の回転からの繰り出される二撃目を剣で受け止めようとする。
だが、ソラはスキルの二撃目を放たなかった。
途中で〈デュアルネイル〉をキャンセルして、高速で回転した勢いのまま〈ストライクソードⅡ〉に繋げる。
システムにしたがって二連続の斬撃が来るかと思っていたクロは、剣の青い発光を見て慌てて回避行動を取ろうとした。
──遅い!
必殺の突き技が、避けきれなかった彼女の左肩を深く切り裂く。
クロのライフポイントが、全体のニ割ほど削れた。
「う……ぐぅ!?」
痛みに顔を歪ませながらも、左肩を右手で押さえながら〈ソニックターン〉で離脱するクロ。
彼女の顔は、信じられないと言わんばかりに見開かれていた。
「……〈デュアルネイル〉の高速斬撃を途中でキャンセルして〈ストライクソード〉に切り替えるなんて」
一撃目を放ってから、次の二撃目を回転して放つまで僅か0、3秒しかない。
そんな短い時間の中でキャンセル技を挟むのは簡単ではないが、VRバトルアクションゲーム〈剣舞〉ではそれができないと雑魚に勝つことすら困難だ。
死に物狂いでコンマ数秒のキャンセル技を試行錯誤していたオレにとっては、この程度の切り替えは出来て当たり前である。
ハハハ、クソゲークソゲー連呼しながらプレイしていた日々が懐かしいぜ。
ちなみに脳を酷使しすぎて熱出るわなんやらで、クリアには2ヶ月以上掛かりました。二度とやりたくないです。
ソラの神業に周囲の観客も愕然となる。
あと三割削れば此方の勝ちだが、ここで終わるほどクロの底は浅くない。
彼女はまだ見せていないのだから、職業である
「クロ、まだ本気じゃないんだろ。“魅せて”みろよ、おまえの全部を」
「……分かった」
オレの挑発を受けて、クロの雰囲気が一変する。
彼女の存在感が増して、身体から何やら赤いオーラみたいなのが燃えるように溢れ出す。
アレは一体。
疑問に思うソラに、彼女は告げる。
「それじゃ、行くよ」
「!?」
突進スキル〈ソニックソード〉を発動させて、前に飛び出すクロ。
その速度は、驚くべきことに先程よりも遥かに鋭く速かった。
ただの〈ソニックソード〉ではない。
一目で理解したソラはタイミングを見計らい、剣を構えて右の薙ぎ払いで迎撃する。
するとクロは地面を蹴って、空高く飛翔する。
ソラの斬撃を避けると、そのまま跳び越えて背後に着地した。
「は!?」
これにはソラも驚いた。
いくら突進スキルを使用しても、身体にロケットがついているわけではない。
タイミングを合わせて跳んだとしても、何のジャンプ台も無しで人を一人跳び越えるほどの跳躍は不可能だ。
つまりは
ソラの〈洞察〉スキルは、その正体を看破した。
自身のMPを50消費して、攻撃力と速度と跳躍力を一時的に上昇させるスキル。
彼女は上昇した跳躍力に〈ソニックソード〉を合わせて、文字通り飛んだのだ。
なるほど、これは面白い。
背後から迫り、一番速度のある〈ソニックソード〉で切り掛かるクロ。
振り返って受けるのは間に合わない。
クロの振り下ろした斬撃が、ソラの背中に振り下ろされた。
スキルで強化された〈ソニックソード〉は、直撃を貰えばバックアタックボーナスと合わさって、確実に白銀の少女のライフポイントを半分まで削る。
見ている誰もがソラの負けを確信した。
しかし危機的状況に挑むように、ただ一人だけ白銀の少女は笑うと。
「色んなVRゲームでの背面からの不意打ちっていうのは、良くあるんだよな」
呟き、剣を思いっきり地面に突き立てて、その鍔につま先を掛けると瞬間的に〈ソニックソード〉を発動させて後ろに跳躍。
背面からのクロの斬撃を避けると、そのまま弧を描いて今度は自分が彼女の背後を取る。
しかし武器は手放してしまった。
一体どうするんだ。
誰もが思う中で、ソラは
MP170から140消費して、残りは30となる。
右手で紫電を纏う手刀を作ると〈ソニックソード〉で接近。
振り返ったクロが
鋭い回し蹴りが、ソラの脇腹を的確に捉える。
防具のない彼は、本来ならばそこでライフポイントが5割削られて終わるはずだった。
だがスキル〈物理耐性Ⅱ〉と自身に付与した〈防御力上昇付与〉によって、ダメージは三割削ったところで止まる。
呼吸が一瞬詰まる程の衝撃を受けたが、ソラは笑みを浮かべて足を止めない。
蹴りを食らっても尚前に進み、渾身の力でクロの鎧の隙間を通して、胴体に〈ストライクソードⅡ〉を叩き込んだ。
「あ……がはぁ!?」
雷が彼女の身体を駆け巡り、強化された必殺の突き技と合わさってライフポイントを半分まで削り取った。
地面に倒れそうになるクロの背中に手を添えて支えると、ソラは【WIN】の勝利判定を受けて微笑を浮かべる。
「良い勝負だった、オレに一撃入れるなんて凄いじゃないか」
「……武器がなくてもスキル使えるなんて、知らなかった」
「ああ、武器がなくても警告は出なかったからな。試しにぶっつけ本番でやったけど、上手くいって良かったよ」
「あなた、とてもクレイジーだね」
ふふん、とソラは目を丸くするクロに対して得意そうな顔をするとこう言った。
「頭おかしいって、良く言われるな」
その言葉に、クロはくすりと可愛らしく笑った。
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