第16話「VRジャーナリスト」
「スッゲー戦いだったぞ!」
「流石は剣姫と黒姫だ、見事な技の応酬だ!」
「鳥肌ヤバいわ、特に最後のアレなに!?」
「剣の鍔につま先を乗せて〈ソニックソード〉で跳んだんだよ!」
「普通そんなことできるか!?」
「ムリムリ! 足を乗せて跳ぶとか単純な事じゃない、相当なバランス感覚とセンスがないとあんな曲芸できねぇよ!」
二人の戦いが終わると周囲から空気を震わす程の歓声が湧き上がり、ソラとクロに対して沢山の拍手が送られた。
その中でソラはクロを支えながら地面に突き立てた〈白銀の剣〉を回収。
後に〈決闘〉の敗北によって30分の無敵硬直を強いられているクロを、高いステータスを利用してお姫様抱っこする。
急に抱えられた彼女は「ふぇ」と顔を真っ赤に染めた。
ソラはそんなクロを「可愛い反応するな」と思いながらもキリエとシンとロウの三人が待つ店の前までやって来る。
そこでキリエにクロを引き渡すと、彼女は口を尖らせて言った。
「えー、ソラの抱っこが良い」
「ほんと、アンタは素直だね」
少しばかり不満そうな顔をするクロに対して、キリエが呆れる。
二人を見て苦笑したソラは、改めて勝者としてキリエの腕の中にいるクロに言った。
「それじゃ、約束通り今後は〈決闘〉以外で相手を試したりするんじゃないぞ」
「……分かった。約束は守る」
「よしよし、良い子だ。それにしてもクロが勝ったらオレに何を要求するつもりだったんだ?」
一応尋ねてみると、彼女は実に残念そうな顔をして呟いた。
「友達になってほしかった……」
「友達?」
「……うん。だってわたし、戦い以外で人と関わる方法が分からないから」
クロはそう言って目を伏せる。
なるほど、つまり彼女は一種のコミュニケーション障害──コミュ障というやつらしい。
出会った人間に攻撃をするのも、クロにとってはスキンシップの一種なのかも知れない(された方はたまったものではないが)。
VRゲームでこんな状態では、リアルでは一体どんな生活をしているのか。
少しだけクロの私生活が気になるけど、VRネット界隈でプライバシーに触れるのはタブーである。
オレは彼女に、率直な感想を口にする事にした。
「なるほど、そんなことなら勝利報酬じゃなくて普通に頼めば良いのに」
「普通に頼めたら苦労なんてしな──ひゃん!?」
ソラは後ろ髪を
その視線から意図を読み取った彼女は、頷くと抱えていたクロから手を離す。
急に支えを失った少女は、指一本動かせない状態で落下して軽い悲鳴を上げた。
もちろん、そのまま地面に落とすなんて可哀想な事は絶対にしない。
落下する彼女を、ソラが途中で受け止めてあげる。
「ふぇ……」
目をぱちくりさせるクロに、ソラは優しく言った。
「オレとクロは、もう友達だろ」
「……友達になってくれるの?」
「ああ、もちろんだとも」
力強く断言すると、彼女の表情がパァと明るくなる。
そして心の底から嬉しそうに笑った。
「ソラと友達!」
「フレンド申請送っとくから、硬直が解けたらOKしてくれ」
「うん!」
動けるのならば、小躍りしそうなくらいの笑顔を浮かべるクロ。
ソラはそんな彼女を見ると、少しだけホッとした。
なんだ。最初はヤベー娘だなと思ったけど、蓋を開けてみたら少しだけ変わった女の子じゃないか。
するとそれに便乗して、周りのプレイヤー達が集まってきてクロとソラにこう言った。
「「自分達もお嬢さん方の友達になっても良いですか!?」」
「弱い人はお断りだよ」
クロの笑顔が一変する。
先程会ったばかりの暗い殺意を瞳に宿すと、フレンド申請をしてきたプレイヤー達を射抜くように睨みつけた。
態度が急に180度変わった彼女の睨みを受けたプレイヤー達は、その半数が殺気に耐えられなくて逃げて、残りの半分は平伏して「ありがとうございます!」と何故かお礼の言葉を口にする。
その異様な光景に、ソラは少しだけ引いた。
「うーん、やっぱりオンラインゲームは変なのが多い」
どうやら、強者以外は認めないクロの考えまでは変わっていないようだ。
一体何から学んだのやら、と何とも言えない顔をするソラ。
すると誰かが不意に肩を叩く。
何事かと振り向くと、そこには金髪碧眼の可愛らしい少女が目を輝かせてソラの事を見ていた。
見た目は十代前半くらい。天然のセミロングヘアで、ポップな服装をしている。
冒険者というよりは、この国に住んでいる住人という感じがした。
彼女は勢いよく頭を下げると、興奮冷めやらぬといった感じで挨拶をしてきた。
「はじめまして
「ジャ、ジャーナリスト……?」
「企業ではなく個人ですけどね。攻略情報は消されてしまうので、主にアストラルオンラインで起きた事を記事にしてます」
「そ、そうですか」
リンネという名前には覚えがある。
白銀の少女の事をえらく気に入った人物で、盗撮画像付きで魅力を熱弁していた記事の投稿者だ。
しかし目の前にいるのは少女。
とてもあんな変態的な記事を書きそうには見えない程に、見た目も可愛らしい。
同名の別人かな、と判断したソラは引き上げていた警戒心を緩める。
彼女は抱えているクロの「なんだこの雑魚は」と言わんばかりの険しい視線を受けても平然としており、メモ用紙とペンを手にソラに迫った。
「先程の決闘は両者お見事でした。その中でも素手でスキルを発動させた剣姫様の発想には、みんなとても驚いてましたよ!」
「誰でも思いつきそうだけど、そんなに珍しいのか?」
「ベータ版では出来なかったので、本リリースも無理だろうと思われてたんです」
「という事は貴女もベータテスター?」
「はい、そうですよ。なんでしたらキリエさんのリア友ですからね」
彼女が答えると、ソラは先程から無言のキリエを見る。
ソラの視線を受けた彼女は今の会話の「リンネがベータテスターで、キリエの知人である」事を肯定するように頷いてみせた。
なるほど、どうやらウソではないらしい。
まさかベータ版では出来なかった素手による攻撃スキルを、製品版で発動できるとは誰も思わないだろう。
となるとベータ版の知識は余り当てにはならないのか。
他にどんな変更があるのかは知らないが、ベータテスターとオレの差はそこまでないのかも知れない。
ソラが思考を巡らせていると、リンネは更に距離を詰めてきた。
抱えているクロは硬直状態でなければ攻撃スキルを発動しそうな位に、自称ジャーナリストの少女に対して不快な顔をする。
だがリンネはクロの事を一切気にせず、ソラにインタビューを続けた。
「ところで、先程の〈黒姫〉を倒した突き技はなんですか? わたくしの目には片手剣のスキル〈ストライクソード〉だけではなく“雷を纏ってた”ように見えましたけど」
「あー、アレは
「「「
オレがこれくらいなら大丈夫だろうとあっさりネタバレすると、クロやリンネを含めた周りのプレイヤー達が騒然となった。
みんな口々に、
「あんな職業を!?」
「不人気ランキング1位の
「ベータテスター達ですら誰一人推奨しないアレを!?」
とか好き勝手な事を叫びだす。
皆の様子を見て、ソラは思い出した。
このアストラルオンラインで〈
とはいえ、あまりにも過小評価しすぎではないか。
スキルレベル10で取得する〈攻撃力上昇付与〉と〈防御力上昇付与〉は汎用性が高く使いやすいと思うのだが。
とは思っても、オレはユニークスキルの恩恵でスキルポイントの獲得数が通常の4倍だ。
普通ならばレベル20でようやく取得できるのをレベル17で先取りしているので、今のところここまで到達している〈付与魔術師(エンチャンター)〉は存在しない。
リンネという少女は口を何度も開け閉めすると、何とか気を取り直してオレに尋ねた。
「な、なんで〈
「んー、強そうだし面白そうだから」
「そ、それだけ?」
「むしろ、それ以外に何があるんだ」
変なことを聞く人だな、といった感じで返してあげるとリンネは目を輝かせて何やら物凄い勢いでメモ用紙に書き込み始める。
そして周りはソラの職業が〈
静寂が支配する中で、どこからともなく現れた一人のプレイヤーがリンネの前に割り込んできた。
リンネが何か言おうとするが、その人物を見ると彼女は口を開いたまま固まってしまう。
またオレに用のあるお客さんか。
次から次に忙しい事だ。
ソラは、今度は一体誰だと思ってその冒険者に向き直ると言葉を失った。
「すまないが情報屋、“彼”に用があるんだ。今日は私に譲ってくれ」
すごく聞き覚えのある声だった。
そんなバカな、とソラは困惑する。
今の彼女はプロゲーマーで、主に対人戦のVRゲームしかやっていない。
そもそも性格的に、ファンタジーゲームをやるような人ではないはずだ。
しかし、その顔を見間違えるなんて事は絶対に有り得ない。
ソラは額にびっしりと汗を浮かべると、抱っこしているクロが「あ、団長だ」と言った。
「その姿はどういうことなのか、説明してもらうぞソラ」
「し、師匠……!?」
そこにいるのは、編み込んだ茶髪のセミロングヘアの身長170くらいの女性。
二振りの刀を腰に下げたサムライ衣装の彼女の名は
VR対戦ゲームの世界大会で、5年間連続で優勝している絶対王者。
今は海外で活動している──オレの対人戦の師匠であり、
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