第5話「初めての職業」
レベル【16】から【17】に上がりました。
筋力が【16】から【17】に上がりました。
装備している片手剣の熟練度が【19】から【20】に上がりました。
攻撃スキル〈ストライクソード〉から〈ストライクソードⅡ〉に強化されました。
攻撃スキル〈ソニックソード〉から〈ソニックソードⅡ〉に強化されました。
補助スキル〈全集中〉を取得。
補助スキル〈スライムキラー〉を取得。
「うん? もうレベル上がったのか」
スライム狩りを始めてから2回目のレベルアップのアナウンスを聞いて、ソラはようやく止まった。
離れた所では狩りが一段落してレベル4になったシンとロウが、ややドン引きした顔で此方を眺めている。
時間を確認すると、もう11時30分になろうとしていた。
つまりは合流して草原マップに出てから、かれこれ2時間以上もスライム狩りをしていた事になる。
お昼前にはある程度は終わらせたいと昨日話をしていたので、時間的猶予が余り残されていない事に気がつく。
えーと、確か後は職業設定と武具の購入とやる事は沢山だ!
慌てて二人と合流して謝罪すると、職業を設定する為にソラ達はとりあえず王都ユグドラシルに戻ることにした。
大門を潜ると、そこは先ほど通った噴水のある大広場だ。
うん……?
何やら周囲から視線を感じた。
やはりこの容姿は注目を浴びやすいのか。
気にしても切りがないのでソラは無視してアイテム欄を開き、親切な事に初期アイテムとして所持している城下町のマップを選択。
店の一覧を眺めて、転職を取り扱っている唯一の〈神殿〉という名前を見つけると迷わずにタップする。
すると選択した場所に行く為の最短距離のルートが、地面にガイドラインとして表示された。
それに従い、ソラとシンとロウは歩き出す。
移動する間は暇なので、三人は選ぶ職業について話をすることにした。
「それにしても職業何にするかなぁ」
「俺は迷わずに
「ボクは
シンとロウは既に決まっているようだ。
対するオレは、これといって決まっていない。
他の二人が火力と壁の職業を選ぶのならば、自分はそれを補助できる職業が良いのだろうか。
例えば
「でもなぁ、何かしっくりこないんだよ」
「
「
「しかも転職してから、一ヶ月は転職できないのが一番の悩みどころなんだよなぁ……」
しかも攻略掲示板や個人ブログ、SNSでの詳細な情報の発信などは全て規制されているから、アストラルオンラインに関しては全てが表面上の情報しか拾えない。
例えば、職業レベルを上げて覚える〈スキル〉に関しては速攻で削除されるのだ。
だから最初の職業だけは慎重に選ばなければ……。
そう思いながら歩いていると、先程からチラホラと見えていた巨大な建物がその全容を現す。
全長15メートルの建築物。
あれが王都にある唯一の大神殿。
北欧神話の泉の名を冠する〈ウルズ〉。
見た第一印象としては、全てが怖いくらいに純白に輝く巨大なお城みたいだ。
他の色彩が一切無いのは、神に仕える者達として汚れのない事を証明する為なのだろうか。
そんな事を思いながらシンとロウの二人と、開け放たれた大きな扉を通る。
すると中は大きな空洞になっていて、明かりはガラス張りの天井から差し込む日の光のみだった。
周囲の壁には、この世界の神様っぽい石像が立ち並んでいる。
そして床に描かれている巨大な魔法陣は淡い光を放っていて、場の雰囲気と合わさって神秘っぽさを演出していた。
中に入ったソラは、思わず見たそのままの感想を口にする。
「おお、神殿っぽい」
「っぽいじゃなくて神殿なんだよな」
「ソラって時々変なこと言いますよね」
「むぅ」
二人に苦笑されて、ふてくされて口をへの字にするソラ。
そんな三人の前に、先程まで姿が見当たらなかった白い衣装を身に纏う女性がいつの間にか立っていた。
年齢はパッと見たところ20代前半くらい。
金色の長い髪を結い上げた碧眼の外人さんで、誰が見ても綺麗な人だと思う。
チラッと名前を見てみると、そこには『ヴェルザンディ』と表記されていた。
神殿の名前がウルズと来て、次に姿を現したのはヴェルザンディ。この二つの名は、北欧神話の巨人族の三姉妹から来ているのか。
そう考えていると、ヴェルザンディは腰を曲げて綺麗にお辞儀をした。
「ようこそ、私は
ヴェルザンディは丁寧にテンプレートな説明をすると、魔法陣の上を右手で
天の声とはサポートシステムの事か。
実にファンタジー的な言い回しに感心していると、ソラはヴェルザンディに一つだけ気になる事を質問した。
「これは三人一緒に立っても良いんですか?」
「はい、大丈夫ですよ。魔法陣から出るとキャンセルされてしまうので、そこだけはお気をつけください」
「わかりました、ありがとうございます」
「これが私のお仕事なので、礼なんて要りませんよ」
そう言ってヴェルザンディは、上品な仕草で右手を口に当ててくすりと笑う。
VRゲーム独特の無機質な笑顔ではない。
本当に心の底から嬉しそうな笑顔に、ソラは一瞬だけ見惚れた。
ほえー、最新のゲームのNPCは感情表現が人間と変わらないなぁ。
恐らくはモーションキャプチャーでNPCの感情を表現してるのだろうが、それにしても違和感を感じない。
ぶっちゃけ、プレイヤーを相手にしているような錯覚に陥る。
そうやってソラがぼんやりしていると、不意に肩を叩かれる。
振り向くと、シンとロウが呆れた顔をしていた。
「ソラ、NPCの相手してるような時間は俺達にはないだろ」
「ほんと、ソラは油断するとすぐに余所見するんですから」
「ご、ごめん……」
ぐうの音も出ない程に正論だ。
素直に頭を下げて、ソラはシンとロウの後ろに続いて魔法陣の上に立つ。
その際にチラリとヴェルザンディを一瞥すると、彼女は何だか申し訳なさそうな顔をしていた。
アレは本当にNPCなのか……?
疑問に思うと、いきなり目の前にステータス画面が開く。
サポートシステムが働いて、職業の一覧が表示。
そこには多数の職業があった。
前衛スキルを取得する職業。
素材に関するスキルなどを取得する職業。
魔術スキルなどを取得する職業。
鍛造スキルなどを取得する職業。
隠密系スキルなどを取得する職業。
格闘スキルなどを取得する職業。
回復スキルなどを取得する職業。
召喚士(サマナー)
召喚スキルなどを取得する職業。
モンスターを仲間にするスキルなどを取得する職業。
妨害系のスキルなどを取得する職業。
強化スキルなどを取得する職業。
多種多様な職業があり、しかも初回の設定はなんと無料。
説明文を読む限りでは、ニ回目以降の転職を行う場合の料金は一律2万エルも掛かる。
現在の自分の所持金がスライム狩りによって6950エル程なので、転職を考えるのなら常にエルは2万以上は確保しておかないといけない。
というわけで、ソラは余計に悩む事になった。
2万エルかぁ、これは下手な職業を選ぶと痛い出費だ。
来月に大金を消費しないようにするため、頭を抱えて職業の一覧画面とにらめっこするソラ。
シンとロウは予め決めていたので、魔法陣から出て二人で何やら雑談をしている。
またしても二人を待たしてしまっていることに、ソラは内心焦った。
シンが
しかし中衛と言っても候補は沢山ある。
デバフ役の
単純に戦う頭数を増やせる
回復手段がポーションだけに限られるのは避けたいので、
バランスを考えるのならば、自分が選ぶ職業はこの辺りだろうか。
そう思いながら画面とにらめっこするソラは、しばらくしてから決意すると
恐らくは今後ソロで活動する事も考慮した場合に、敵の弱点属性を付与できる
選択した職業で良いのか、最後の確認の画面が出てくる。
ソラは迷わずにイエスを押す。
すると華やかなファンファーレが鳴り響き、選択した
そして聞き慣れた女性の声が、選択した職業についてお知らせをする。
――――――――――――――――――――――――
職業、
補助スキル〈火属性付与〉を取得しました。
補助スキル〈水属性付与〉を取得しました。
補助スキル〈風属性付与〉を取得しました。
補助スキル〈土属性付与〉を取得しました。
――――――――――――――――――――――――
ファンファーレが終わると、オレは現実に引き戻されてハッと遠くなっていた意識を取り戻す。
慌ててステータス画面を開いて確認してみると、職業のところには確かに
「おお、この世界でオレの始めての職業……」
「ソラは何を選択したんだ?」
「ボクも気になります、ソラのレベルなら何を選択しても問題ないとは思いますけど」
「うん、オレはソロも考慮して
「「
何やら驚きの余り、そのまま後ろにひっくり返りそうになるシンとロウ。
何事なのか聞いてみると、二人は口を揃えてこう説明した。
「今調べてたんだが
「現状だと鑑定とか洞察等のスキルは、入手方法が分からないとの事です。職業のスキルレベルを上げていけば、
「残念ながら、そういった情報は一切見たことないし、出たとしても即座に削除されてる可能性が高い」
「ふーん」
話を聞いている限りでは、この職業を選んだ先達の方々は未だに敵の弱点を看破するスキルを入手できなくてゴミ認定しているとの事。
もしも敵の属性を読み間違えた場合、付与した意味が全くないし、不利属性だと威力が半減するから。
確かにスキルを見てみると一回の使用にMPを40も持っていかれるのは、レベルが上がってMP170になった自分でも中々に厳しい。
これでは普通のプレイヤーは気軽に扱えないだろう。
というわけで、アストラルオンラインのプレイヤー達から現状は非常に扱い難い職業認定されている
しかし、今のオレに一般プレイヤーの常識は当てはまらない。
二人の視線に対してソラは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ、オレ〈洞察〉のスキル持ってるから」
「「………………今なんと?」」
聞こえなかったのかな。
そう思ったオレは、もう一度ハッキリと聞こえるように言った。
「だから、オレ〈洞察〉のスキル持ってるんだよ」
魔王の呪いの副産物であるユニークスキル〈ルシフェル〉の取得と同時に入手した事を言うと、二人はなんとも言えない顔をした。
「俺達以外にスキルの話は一切するなよ。じゃないとおまえ絶対に面倒な事になるぞ」
「レベルといいスキルといい驚くことばかりですよ。他の人からしてみたら、間違いなくチーター呼ばわりされると思います」
「バグなのか仕様なのか判別に困ってるところなんだけど、強さ的にはチーターだよね」
と言ってもこの状況を運営に報告する方法もないし、昨日の夜中にSNSのトレンドに上がっていたツールを使ったアカウント達と同じように初期化される様子もない。
放置されているのか、それとも気づかれていないのか。
どちらにしても二つ目を作れない此方としては、このチートなプレイヤーキャラクターで遊ぶしかないのだ。
「ま、気をつけるよ」
これでこの話しはおしまい。
咳払いを一つすると、ソラは時間を見た。
「ごめん、そろそろ12時だね。妹が昼飯作ってると思うからログアウトしないと」
「ああ、そうだな。後は武器とか見に行く予定だったから午後に回しても問題はないだろ」
「それじゃ神殿を出たら一旦ログアウトしようか」
このゲームは、安全地帯ならどこでもログアウトできる。
次にログインした時は同じ場所から始まるので、時間を合わせれば再集合は楽だ。
神殿の外に出て13時30分に集まる事を約束すると、3人はステータス画面を開いて、一番下の方にあるログアウトを押す。
するとシンとロウは光の粒子となって消えていく。
それを眺めながら、ソラは「現実世界に戻ってやる事をやったら、さっさとログインしよう」と心に決めて光となって消えた。
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