第一章〜風の精霊編〜

第3話「少女と親友」

 何とか立ち直ったソラは、とりあえず現状を二人に説明しようと思った。

 しかし沢山のプレイヤー達に見られている中で、自分に何があったのかを話すのは流石に不味い気がする。

 もしも魔王と遭遇してオマケに呪われたなんて話が広まれば、今後色んなプレイヤー達から注目される事になるからだ。

 それに自分が銀髪少女ではなく、中身が上條蒼空だと二人に納得のいく説明をする為には、リアルの話もしないといけない。

 だから最初にやるべき事は、この場からの離脱だとソラは判断した。

 幸いにも以前にプレイしたVRスパイゲーム『004』で、女装して潜入するものがあったので女の子のふりをするのは得意だ。


「や、やだなお兄ちゃん達。今日一緒にプレイするって約束したじゃないか」


「え、はぁ?」


「き、キミ何を言って」


「ほらほら、ボサッとしてない此処から離れるよ!」


 ソラは極力自然なように振る舞い、二人に小さな声で面を貸すようにささやくと腕を掴んで引っ張る。

 普通ならば、小さな少女が高校生二人を引っ張るなんて不可能だ。

 でもここは現実ではなくゲームの中。レベル15によって強化された身体能力をフルに活用して、レベル1の彼等を強引にその場から引きずり出す。

 背後から二人に対して何やら舌打ちと共に羨ましそうな視線を感じたが、そんなものは全て無視だ。

 最初二人は抵抗していたが、圧倒的なレベル差から逃れることはできない。

 全くびくともしない少女の腕の力に、やがて二人は抵抗する事を諦める。

 そうしてしばらく街の中を歩き、程よい路地裏を見つけた。

 ソラは、迷わずに真司と志郎を押し込んで自分も身を隠す。

 改めて二人に向き直ると、これから一体何が始まるんだと彼等は少々怯えている様子だった。


 まぁ、誰だってビビるよな。


 シンとロウが怯えるのも無理はない。

 見知らぬ美少女に捕まり、有無を言わさず路地裏に連れ込まれたのだ。

 きっと二人は心の中で、漫画の展開でよくある強面のヤクザっぽい人達が出てくるのだと想像しているのかも知れない。

 確か極道のVRゲームでこんな展開があったな、とだいぶ昔にプレイした内容を思い出すソラ。

 金髪お嬢様に路地裏に連れ込まれたと思ったら、護衛を撒くのに協力しろと言われたのは実にロマンスを感じたものだ。


 ………ハッ!?


 いけないいけない、また思考が脱線する所だった。

 そんな事を思いながらもソラは誰も聞いていないのを注意深く確認しながら、自分のリアルネームを口にした。


「良いか、よく聞けよ。オレは上條蒼空、神里かみさと高等学校の一年生でお前達と10年の付き合いのある親友だ」


「は? 蒼空、おまえなのか……」


「え、ちょっと待って下さい。ボクの記憶だと確かこのゲームって性別変えられませんでしたよね?」


 オレの仕込みなのかと疑い、周囲を見回す2人。

 そんなシンとロウに、ソラは二人のリアルの名前と三人だけの秘密を暴露する。


「真司、おまえはつい最近まで中二病を患っていて眼帯とか包帯とかにハマっていたよな」


「ゔぐ……な、なぜその事を……」


「志郎、おまえは最近発覚した兄の女装癖に悩まされ毛髪が薄くなったんだよな」


「だ、誰にも言わないと約束したそれを知っているということは……」


「そう、オレが紛れもなく本人上條蒼空だからだ。おまえたちも知っていると思うけど、オレは親友の秘密を他人に喋るほど口は軽くないぞ?」


「「……確かに」」


 どうやら納得してくれた様子の二人。

 すぐさまシンとロウは「でもなんで少女になっているんだ」と疑問に思い首を傾げた。

 実にごもっともな意見だ。何せ自分もこの現状を未だに信じ難いのだから。

 でもゲームをスタートした時の魔王との経緯と呪いの話をしてあげると、首を傾げていた二人は興味深そうな顔をした。


「スタートしたら目の前に魔王がいたか……。たしかにそんな情報は聞いたことないな」


「一応検索してみてますが、同じ現象にあった人はいませんね」


 VRヘッドギアの機能の一つ、ゲーム中でもインターネットにアクセスできるのを使っているロウが首を横に振る。


「いやはや参った。まさかゲーム初日にこんな目に合うとは」


 銀髪碧眼の美少女となってしまったソラは、両手を上げてお手上げのポーズを取った。

 他のゲームならば最悪アカウントを消して再度作り直すという手段もあったのだが、このゲームは一度作ったアカウントは消せない上に2つ目を作る事もできない。

 2つ目のヘッドギアとソフトを用意したら出来るのかというと、それはできないと既に証明されている。

 それは有名な実況者の生放送での出来事だ。

 個人情報も別の人のを借りて、スキャンしたキャラデータもその人に貰ってログインしようとしたら、アクセスエラーと表示されて無理だったのを昨日の夜中に自分も生視聴していた。

 そして貸した本人がアクセスするとプレイ出来た事から、不具合というわけではないらしい。

 どうやっているのかは不明だが、それくらい2つ目のアカウントの作成に関しては、徹底して作れないようにされている。

 となると運営に問い合わせるのが一番良いと思うのだが、このゲームなんと問い合わせが存在しない。

 正に八方塞がりというやつだ。

 今更だがよく発売できたものである。

 シンは僕の姿を見ると、なんとも言えない顔をして呟いた。 


「つまりアレだな、ソラは呪いのせいで魔王を倒すまでその姿のままってことか」


「まぁ、そうなるかな」


「ソラがこんな姿でプレイしてるって知ったら、妹さんドン引きしそうですね」


「……確かアイツも昨日からプレイしてたな。こんな姿見られたら、変態呼ばわりされそうで怖いわ」


 ロウから同情するような視線を向けられて、改めてソラは自分の姿を見る。

 天然の腰まで長い銀の癖っ毛。身長は150後半くらいで、年齢は中学生か小学高学年くらいか。

 ステータス画面を開いて確認できる自分の全身を見ると、そこに表示されているのは平凡な少年ではなく、とんでもない美少女だった。

 一体どこの外人のお嬢様だ。こんなのが広場のど真ん中に急に現れたら、そりゃ皆に注目されるわ。

 しかもプレイする時には、必ずリアルスキャンするのだ。

 きっと皆はこの姿が現実と一緒だと思い込んでいるはず。

 ソラは目の前の画面に映る自分のステータスを見て、思わず真顔になる。



―――――――――――――――――――――――


 【冒険者】ソラ

 【性別】女性

 【レベル】15

 【HP】300

 【MP】150

 【筋力】15

 【職業】無職

 【片手剣】熟練度18


―――――――――――――――――――――――


 それに対して、洞察スキルで見ることのできるシンとロウのHPは20でMPは10だ。

 今後色んな意味で目立つんだろうなぁ、と虚ろな目をしながら、ソラは深い溜め息を一つ。

 そんな彼を見て、ロウがフォローするように両手に握り拳を作って力説した。


「代償は大きいけれど、レベルが15になったのはとても大きなアドバンテージだと思いましょう」


 その言葉に、シンも頷いた。


「まぁ、序盤の街の周辺だと何が出てきてもソラが一人で対処できるくらいのレベルではあるな」


「……まぁ、魔王を倒そうと思うならレベルが高いのは悪いことじゃないか」


 オレがそう言うと、シンは顎に軽く手で触れて話を続ける。


「魔王を倒すか。他のゲームであった美少女魔王を保護する団体が湧いてこないことを祈るばかりだな」


「アレのせいでゲームクリアが一ヶ月も伸びたらしいからね」


 別名〈魔王保護戦線〉有名実況者も混ざった事で、当時のネット上は大騒ぎだったのを思い出す。

 オレとシンが遠い目をしていると、ロウが手を叩いて場の淀んだ空気を一変。

 路地裏から出ると、茶髪の少年は王都の外に広がる草原を指差した。


「ハイハイ、魔王までの道のりは長いんですよ。先の事を考える前に今は軽く戦闘に行ってみましょうか」


 ロウが仕切ると、ソラとシンは同意してとりあえず街から出ることにした。


 

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