第2話「銀髪の少女」
いやー、流石は魔王様とても強かった。
それとすごく可愛いなんて、あんなのを見たら「俺は可愛い魔王の味方になるぜ!」と冒険者の中から離反者が出てくるのではなかろうか。
実際にラスボスを可愛くしてしまったゲームで、一部のプレイヤー達が攻略させまいとラストダンジョンの前を陣取るという珍事件があったのは記憶に新しい。
そんな事に思考を巡らせながら真っ暗な闇の中で、ソラの目の前にいくつかの〈魔王〉との戦闘結果の通知が表示された。
――――――――――――――――――――――――
【〈魔王〉との戦闘に敗北しました】
天命残数(てんめいざんすう)が120から119に減少。
戦闘貢献度に応じた経験値を取得。
レベル1から15に上がりました。
筋力が1から15に上がりました。
スキルポイント150獲得しました。
装備している片手剣の熟練度が1から18に上がりました。
攻撃用スキル〈ガードブレイク〉を取得しました。
攻撃用スキル〈デュアルネイル〉を取得しました。
防御用スキル〈ソードガード〉を取得しました。
攻撃用スキル〈トリプルストリーム〉を取得しました。
ユニークスキル〈ルシフェル〉を取得しました。
〈ルシフェル〉の取得により、下記の補助スキルを取得します。
補助スキル〈魔法耐性Ⅱ〉
補助スキル〈物理耐性Ⅱ〉
補助スキル〈状態異常耐性Ⅱ〉
補助スキル〈洞察〉
補助スキル〈感知〉
――――――――――――――――――――――――
天命残数というのは良くわからないが戦闘で負けても経験値が入るのか、これは良い事を知った。
しかもいくつかスキルを取得したのは 大きい。特にユニークスキルと表記されている〈ルシフェル〉というのは後で確認しておきたい。
取得したスキルの一覧を見ながら、ソラは改めて思った。
それにしても、最初のスタート地点にすら立ててないのにレベル15か……。
確か自分が確認した限りだと、このゲームの現在のトッププレイヤーの最高レベルが11くらいだったはず。
もちろん昨日から24時間ぶっ通しでやった結果ではなく、命に関わらないラインで頑張った結果だ。
それをソラはたった1時間もしない内に越えてしまったのだから、なんだか少しだけ申し訳なく思う。
こりゃ真司と志郎は驚くだろうな。
レベル15になった自分の事を知ったら、きっと二人は驚きの余りひっくり返るに違いない。
そんな事を思っていると真っ暗な闇が晴れて、視界いっぱいに彩り豊かな中世のヨーロッパみたいな街が姿を現した。
「……うわぁ、綺麗な街だな」
思わず、そんな感想が漏れる。
遠く離れた場所に見えるのは地上から天まで届く巨大な世界樹、この始まりの王都の名前にもなっている〈ユグドラシル〉。
周囲を見回してみると、ここはどうやら全てのプレイヤーが最初に踏みしめる場所である〈始まりの広場〉に間違いないようだ。
背後を振り返るとそこには、世界樹の子供の大きな樹木〈スモールユグドラシル〉があり、新しい冒険者達を歓迎するように光の粒子を降らせている。
その光景は実に神秘的で、とても美しいと思った。
少しだけ世界樹の子供が魅せる世界に見惚れた後に、ソラは首を振って我に返る。
いけないいけない、魔王との一件でかなり待ち合わせ時間に遅れているのだ。
きっと今頃は二人に「同時にログインした筈なのにアイツは何やってるんだ?」と言われているのは間違いない。
綺麗な景色だからと、悠長に眺めている場合じゃないのだ。
意識を切り替え、周囲に視線を向けるソラ。
やはり〈始まりの広場〉の名に相応しく、そこには自分と同じ初心者ばかりで上下は『駆け出し冒険者の服』で統一されている人達が沢山いた。
何かバグのせいでいきなり魔王と戦わされてしまったが、リスポーン地点がちゃんと初期地点で良かったとソラは改めて内心ホッとする。
さて、アレが見えるということは、今自分がいるのは本来のスタート地点で間違いないはず。
そう思いながら、ソラは随分と待たせてしまった親友の二人の姿を探す。
アイツらの事だ。
自分と同じで、きっとアバターの姿はそこまで弄っていないだろう。
だから探すのはそこまで難しくないはず。
……それにしても、見られてるなぁ。
じっとりと、ソラは背中に嫌な汗を感じる。
ここにリスポーンした時から、ずっと熱い視線を肌に感じていた。
それも一人や二人ではない。
よく見てみると周囲にいる冒険者達の視線が全て、自分に集中していると思われる。
しかし基本的に相手の情報は、スキルがないとプレイヤーネームしか見えないはず。
もしかして、レベル15の強者のオーラみたいなものでも漏れ出ているのだろうか。
だとすると、自分にはどうする事もできない。
何故ならば、気配を遮断する隠蔽のスキルは未だに覚えていないのだから。
困ったなぁ、とため息混じりに周囲を見回すソラ。
しばらく探していると、ようやく人垣から離れて他の冒険者達と同じように自分を眺める二人の姿を見つけた。
黒髪短髪の185センチの長身のイケメン、プレイヤーネーム『シン』は恐らくは真司。
茶髪にツンツンヘアの人当たりの良さそうな好少年、プレイヤーネーム『ロウ』は志郎だろうか。
予想通り見た目は全く弄っていない。二人とも自分と同じ質素な長袖長ズボンという身なりで、腰にはノーマルソードを提げている。
注意深く見ていると、入手したばかりの洞察スキルが自動で発動。
意図せずに二人のステータスを覗き見ると、レベルは当然の事だが両者共に1だった。
となるとやはり魔王と戦うことになったのはバグか、それともボーナスタイム的なものだったのだろうか。
一緒にレベルを上げる喜びを分かち合うことは出来なくなったが、これはこれで楽しみ方はある。
同時にゲームをスタートした友人がレベル15になった事を知ったら、二人が驚くのは間違いない。
先ずは遅刻したことに対して申し訳なさそうな顔をして二人に走り寄ると、ソラは即座に謝罪をした。
「ごめん、二人とも待たせた!」
ちょっとだけ緊張していたからか、何だか少女のような声が出てしまう。
周囲の冒険者達がざわめく中、シンとロウは顔を見合わせてオレにこう言った。
「君は、何か人違いしてないか?」
「ボク達は親友と待ち合わせしてるんですけど、君みたいな可愛い女の子は知りませんね……」
「女の、子?」
思考が、止まる。
どういうことだ。
指摘されたソラは、そこでようやく冷静になり自分の異変に気がついた。
そういえば身長175センチくらいだった自分の視界が、二人をかなり下から見上げるようになっている事に。
恐らく身長は150前半くらいか。
先程から背中に何かが当たると思っていたら、何やら腰まで髪が伸びていて、オマケに黒髪から銀髪になっている事に。
そして何よりも衝撃的だったのは、胸に触れると両手に残る柔らかい感触。
リアルの自分の性別は紛れもなく男だ。
魔王と戦った時は、確かに少年の姿だった。
何で“性別が女”になっているんだ。
「…………ど、どういうことなんだ」
全く持って意味が分からない。
自分の身に起きたとんでもない現象に対して、理解できなくて絶句するソラ。
そんな彼の疑問にサポートシステムが機能して、急にステータス画面が表示されると一つの状態異常が強調された。
その名は〈魔王の呪い〉。
シャイターンに呪われた者は性別が反転する代わりにユニークスキル〈ルシフェル〉を取得する。
この呪いは永続で、かけた魔王が倒されるまで解けることはない。
「う、嘘だろ……」
まさかこれがプレゼントか。
魔王からとんでもない贈り物を貰ったソラは、頭の中が真っ白になりその場に立ち尽くした。
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