【コミック第1巻】アストラル・オンライン〜魔王の呪いで最強美少女になったオレ、最弱職だがチートスキルで急成長して無双する〜WEB版【発売開始】

神無フム/アスオン3巻発売開始

プロローグ

第1話「少年と魔王」

はじめに


この作品は、作者が息抜き程度に書き始めたものです。

設定に粗が数多くあり、読む人によっては耐え難い違和感を感じる可能性が予想されます。

特に『VRMMO』として完成されたゲーム性を楽しみたい方はブラウザバック推奨です。


以上のことを踏まえた上で、読んで面白いと思って頂けたら幸いです。




◆   ◆   ◆




 VRゲームが一般的となっている現代。

 据置型のゲームや携帯ゲームは殆ど市場から姿を消して、どのゲーム会社もVRゲームの開発が今は主流だ。

 異なる世界を体感できるVRゲームは、一種の麻薬みたいなものである。

 一度魅了されてしまえば、此方の世界よりもあちらにいる時間の方が長くなる。

 それはVR中毒症と呼称されて、世間では問題視されていた。

 という自分もVR中毒症の日本男子であり、数多のVRゲームをクリアしてきた廃人の一人である。

 例えば、この前クリアするまでプレイした『剣豪』というゲームは実に難易度の高いものであった。

 基本的に回避という概念がなく、敵の攻撃は刀で受け止めるか、受け流すか、弾くかの三択しかない。

 オマケにしくじると大抵一撃で即死して、死んだ場合にはステージの入口か中間地点からのやり直し。

 道中の雑魚の攻撃すら最悪の場合は即死するので、何度もトライアンドエラーを繰り返すことになる。

 ちなみに最後に城の頂上で囚われていた姫が、刀を手に襲いかかってきたのは実に衝撃的であった。

 おまえ、なんで捕まってたんだよ。

 思わずそうツッコミを入れたくなる程に姫は強く、倒した後のエンディングロールでは燃える城の頂上に立つ主人公の姿があった。

 クリアした感想としては、


 二度とやるかこんなクソゲーッ!


  と叫んで、掲示板にクリア報告と証拠の動画を添付した。

 みんなの反応は「流石は雑食王!」「絶対に真似したくないことをする、そこにシビれる憧れねぇ!」と褒めてんだか何だかよく分からないものだった。

 そんな今年で神里高校一年生になった上條かみじょう蒼空そらは、簡素な自室のベッドの上で一つのゲームソフトを片手にいつになく緊張していた。

 そのパッケージされているタイトルは、


 〈アストラルオンライン〉。


 これは夏休みに入る前日。つまりは昨日発売したばかりの新作のVRMMORPGだ。

 プレイヤーはアストラル大陸を冒険者として旅をして、世界を侵略しようとしている〈魔王シャイターン〉を倒す事が最終的な目標である。

 ただそれ以外にも遊び方はあり、武勲を積み重ねて貴族になることもできるし、ギルドを作って商業したり、クランを作って仲間と冒険する事もできる。

 自由度が高いらしく、調べることができた情報によるとこのゲームは店を作ったり結婚もできるらしい。

 今まで色々なゲームをプレイしてきたが、こういうオンラインゲームに手を出すのは久しぶりだ。

 何故ならば、オンラインゲームは殆どが協力プレイを前提としているから。

 ミスなどして他人に迷惑をかけたらと思うと、小心者の自分はとてもじゃないが続けていられない。

 そんな自分がなんでこんなゲームを買ったのかって? 

 それもこれも親友の高宮たかみや真司しんじ上月こうづき志郎しろうが、二人でやるのはつまらないからと土下座までして強引に自分に購入させたからだ。

 お陰様でもらった小遣いはスッカラカン。

 海外旅行で不在の親からの来月の支給日まで、無駄遣いは一切できなくなった。

 まったく、実に迷惑な友人達だと蒼空は苦笑する。

 しかし半ば強引に購入させられたが、今は期待に胸の高鳴りを感じているのも事実。

 ソフトをセットした完全ダイブを可能とするヘッドギアを手に、蒼空はベッドに横たわった。


「あー、なんだか緊張してきたぞ」


 呟き、壁にかけてある時計に視線を移す。

 時刻は午前8時。

 学校は昨日夏休みに入ったので、今日から3人で同時に始めようと決めたのは真司だ。

 開始時間は午前の8時にスマートフォンのチャットアプリで準備完了のスタンプが3つ並んだら同時にログインする予定なのだが、蒼空と志郎がスタンプを飛ばした以降は既読が一つも付かない。

 言い出しっぺが遅刻とは良い度胸じゃないか、これは後でお説教だな。

 憤慨していると、志郎から「真司寝てます?」とメッセージが飛んで来た。

 相変わらず昔からリアルでもスマートフォンのやり取りでも、変わることのない親友の敬語に苦笑する蒼空。

 間違いなく寝ているだろ、と蒼空はメッセージを返した。

 自分の予想だと、アイツはきっと緊張して寝れなくて遅くまで起きて、そのまま寝落ちしたパターンではないかと思う。

 するとしばらくして時計の針が8時20分を指すと、真司から土下座と準備完了のスタンプが連続してグループチャットに送られてきた。

 当然、オレと志郎は怒りのスタンプを送りつける。

 真司から「寝落ちして本当に申し訳ありませんでした」とメッセージが届いたので、オレ達は「明日アイス奢りな」と息を合わせて送ると、了解のスタンプが帰ってきた。


「まったく、アイツは」


 苦笑混じりのため息を吐いて、蒼空はヘッドギアを装着してゲームを起動させる。

 するとヘッドギアがソフトから膨大なデータを読み上げ、ユーザーの脳に直接接続して仮想の五感情報を与え、仮想空間を生成する。

 まず最初に表示されるのは、何度も見るVRゲームの注意事項。

 5時間で安全装置が働き、強制的にゲームからログアウトさせられる機能はあるが、夢中になりすぎると脱水症状で死亡する人達は今になっても現れるので、細心の注意を払わないといけない。

 トイレと水分補給は済ませた。

 枕元にはスポーツドリンクを置いたし、心置きなくゲームに集中できる。


「さて、ゲームスタート!」


 音声を認識して真っ暗な闇が、真っ白な世界に染まる。

 先ず最初に始まったのは、女性の声によるパッケージに記載されていたゲーム内容の説明。

 プレイヤーの最終目標は魔王シャイターンの討伐であると説明して、画面が切り替わった。

 次にキャラメイクが始まる。

 目の前に現れたのは付属していた器具(値段が5万と高い原因)で、事前に頭の天辺から足の爪先までスキャンした現実世界の自分の写し身だ。

 このゲームはスキャンしたデータを元にしているので、性別とかは変えられないらしい。

 だから今選べるのは、種族や全身の細かいパーツまでだ。

 しかし直ぐにゲームを始めたかった蒼空は、面倒なのを省略して表示されている姿のままOKボタンをタッチする。

 すると次に、プレイヤーネームの入力画面になる。

 ふむ……名前か。

 下手な名前にすると二人に何を言われるか分からない。

 ここはいつも通り仮想キーボードを操作して、無難な名前「ソラ」を入力して決定する。


『入力は以上です。困った事があればアシストシステムにお尋ね下さい。それでは貴方様のご武運をお祈りします』


 耳に心地よい女性のメッセージを聞いた後に、蒼空の視界は切り替わる。

 さて、いよいよ始まるぞ。

 期待と高まる気持ちを胸に、頬が緩む。

 この時を持って上條蒼空は、冒険者ソラとしてアストラルオンラインの始まりの街に降り立つ。





 ──はずだった。





 ザザッと不穏なノイズが入る。

 同時に最初に黒髪の少年が降り立ったのは、広大で左右対称に柱が並ぶ真っ暗なフロアだった。

 明かりは、大きな窓から差し込む月明かりのみ。

 不気味なくらいに静かで広い空間は、メタい読み方をするのであればボス部屋みたいな印象を受ける。

 ……確か始まりの都市ユグドラシルは広場からのスタートで、目の前に天まで届く大きな樹木が見えるはずなのだが。

 これは、どう見ても違うだろう。

 自分の知識の中で例えるのならば、まるで何処かの城の中みたいな作りをしている。

 周囲を観察しながらソラは石造りの柱に触れて、その手触りに微笑を浮かべた。

 ふむ、流石はリアリティを追求したゲームだ。今までのVRゲームとは比較にならないくらいに、現実との差が分からないぞ。

 VRゲームといえば、容量を減らすためにオブジェクトに触れても質感とかなかったりするのが普通なのだが、このゲームは細かいところまでこだわっているらしい。

 これは期待ができそうだ。

 そんな中でソラは、此方に何かが近づいてくるような足音を聞いた。


 ……なんだ。 


 足音は段々近づいてくると、その主は月明かりの下に姿を現す。

 それは美しくも禍々しい鎧を纏う、同年代くらいの銀髪の美少女だった。

 彼女は侵入者である自分を見て、少々驚いた顔をしている。

 しばらくソラが興味津々に観察していると、美麗な彼女は腰に提げている装飾が施された剣を引き抜いた。

 まさか今から始まるのは戦闘のチュートリアルなのか、とソラは身構える。

 しかし自分の見間違いでなければ、少女の頭の上に表記されている名前らしきモノには先程からこう記されていた。


 〈災禍の魔王〉シャイターンと。


 もしかしてなのだが。

 あれは、ラスボスではないか。

 その証拠に此方はライフゲージが1本なのに対して、敵は10本程表示されている。

 レベルは分からないが、身に纏っている装備とかそこらの女子達が裸足で逃げ出しかねないくらいに美しい見た目とか、どこからどう見てもモブキャラではない。

 ハッキリ言って、今の自分じゃ逆立ちをしても勝てそうには見えなかった。


 あれー、このゲームって確かチュートリアルとかないって聞いたんだけどなぁ。


 しかも相手は魔王。

 自分が調べることができた情報の中で、何一つ当てはまらないシチュエーションだ。

 もしかして、バグというヤツか。

 困惑するソラを無視して、魔王は歩み寄るとこう言った。


『ふ、その程度のレベルで妾(わらわ)の前に現れるとは、実に愚かな冒険者よ』


 問答無用で、剣が右上から左下に振り下ろされる。

 冷静に見て、剣でまともに受ける事は不可能だと思った。

 長年のVR操作感覚で辛うじて回避行動を取ると、腰にある初期装備のノーマルソードを抜刀。

 刀身を斜めにして、ノーマルソードが真っ二つにされないように受け流す。


 ──良し、ぶっつけ本番だったけど身体の誤差は全くないぞ。


 内心は冷や冷やしながら、VRゲーム『剣豪』で培った見切りからの受け流しの成功に喜び、バックステップして魔王から距離を取る。


『……なんと』


 レベル1でまだ職業もないオレが初撃を技術で受けきった事に、魔王が目を見開く。

 だが慌てたりはしてくれない。

 魔王は冷静に何も持っていない左手を此方に向けると、今度は魔法陣を展開して巨大な炎を放ってきた。

 しかもテレビのCMで何度も見た、魔法使いの最上位炎魔法〈インフェルノ・フレイム〉だ。

 肌にビリビリと感じる圧から、その威力を察する。

 かすっても即死は免れない。

 それに当然のことながら、魔法による広範囲攻撃を防御したり避ける術は今の自分にはない。

 だから少しの希望を見出すために、魔王に背を向けると柱の影に隠れる事を目指して全力ダッシュをした。

 でも初期値の脚では到底間に合わない。

 そこで選択したのは、このゲームを始める前に確認した初期で使える突進スキル〈ソニックソード〉だ。

 本来はモンスターに向かって放つ技を、柱をターゲットにして使用。


「間に合えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」


 スキルの効果で、急加速する身体。

 触れていなくても燃えるような熱さを感じる炎を背にしながら、飲み込まれる寸前に頭から飛び込む、

 するとソラは、危ないところで柱の裏に隠れることに成功。

 背後から迫っていた炎は柱にぶつかり、左右に割れてソラの真横を通過する。


『ほう、これは面白い』


 ラスボスを前に粘るレベル1の冒険者に、魔王は感心の声を漏らした。

 それから此方に向かって無防備に歩み寄る。

 ソラはタイミングを見計らって飛び出し、初期に覚えている突き技のスキルを発動させるためにノーマルソードを横に構えると接近する。

 咄嗟に右に薙ぎ払う斬撃が放たれるが、集中したソラはそれを姿勢を低くして回避。

 懐に飛び込むことに成功した彼は、そのまま身を捻り剣に淡い発光を纏う。

 選択する攻撃スキルの名は〈ストライクソード〉。 

 無防備な魔王の胸に、全身全霊を乗せて剣を根本まで突き刺す。

 しかし所詮は全く鍛えていないレベル1のプレイヤーの攻撃だ。

 魔王の体力ゲージは1ミリも削れない。

 くすりと、児戯のような攻撃に対して笑う魔王。

 お返しと言わんばかりに魔王は剣を構えると、黒い発光と共に同じ突き技のスキル〈ストライクソード〉を放つ。


「がはッ!?」


 今度は視認する事すら困難な一撃を胸に受けて、そのままソラは背後の柱に釘付けにされた。

 視界の隅ではプレイヤーの安全装置が働いて、リアルダメージの再現がカットされた通知が表示されている。

 視界の右上にある初期値のライフゲージは、当然だけど『20』から減って『0』になった。

 手足から力を失い、剣で柱と一体になって動けない少年は身体が徐々に光の粒子となっていく。


 まぁ、負けるよな。


 どう足掻いても負けるのは確定していたので、悔しくはない。

 そんな達観して敗北を受け入れている彼に魔王は鼻先が触れそうなくらいに顔を近づけると、右手に何やら魔法陣みたいなのを展開させた。


 おお……このゲーム、負けて終わりじゃないのか。


 間近の魔王の美貌に少しだけドキッとするソラ。

 これから一体どんな展開が起きるのか想像もできなくて、場違いだが少々ワクワクしてしまう。

 そんな彼に、魔王は称賛の言葉を告げた。


『レベル1にも関わらず怖じ気ずに立ち向かおうとした勇気を讃えて、貴様には此れをプレゼントしよう』


「ぷ、プレゼント……?」


『気に入った貴様が妾から逃れられないようにする、とっておきの贈り物だ。有り難く受け取れ──冒険者ソラよ』


 魔法陣はソラの胸に展開されて、そこから何か良く分からないモノが自分を書き換えていく。

 ヤバい。まさかの敗北ルートにワクワクが止まらない。

 ネットでは一切見たことのない展開だ。

 しかも敗北ルートということは、この先には普通とは違う展開が待ち受けているはず。

 正に自分が今突き進んでいるのは未知の領域。

 これにワクワクしないゲーマーはいない。


 ──魔王シャイターン、オレは必ずおまえを倒しに戻ってくるからなッ!


 それは、胸に抱いた一つの誓い。

 魔王の少女にじっと見つめられながら身体が完全に消滅すると、ソラの視界は暗転するのであった。

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