83.使い道のない血族
スヴェントの王族が拘束されたのをみて、躊躇する連中はまだ使い道がある。だが踏み絵に失敗した奴を前に、同じ絵を踏む馬鹿は処分するのが道理だよね。だって使えないんだから。
各国の王族の挨拶を受ける中、追加で2つの国主が捕縛される。それでも理解せずに、王女や自国の美女をひけらかす馬鹿はいた。僕が指示しなくても、双子の騎士が淡々と処理を命じる。
僕はトリシャの美しい髪を指に絡めたり、細い腰に手を這わせたりと忙しかった。まだ堪能しきれていないけど、トリシャが真っ赤になったからやめようか。可愛い彼女の照れた顔を、他人に見せびらかす趣味はないからね。僕は彼女を閉じ込めて、僕だけを見ていて欲しい。
「お久しぶりです、兄上」
僕は何も返さない。それが答えだった。お前は僕と血は繋がっているが、利用する価値も生かす意味もない。宮廷闘争を生き抜く知恵や武術もなく、血筋以外に使い道がなかった。
僕によく似た顔の弟は、数人の貴族を引き連れていた。王弟として彼を引き取った宰相と、着飾った夫妻に息子か。あれがトリシャを苦しめたローゼンタール公爵家、逃げ回っていたのに自ら捕まりに来るなんて殊勝じゃないか。
この弟を生かした理由は、ニルスの進言だ。皇帝になったばかりの僕は妻を娶る気はなく、当然子どもを産ませる気もなかった。どこの女が産んだにしても、騒動が起きる。外戚として力を振おうとする貴族も面倒だし、治世を安定させるために我が子は不要だった。そもそも血塗られた皇族の血など絶やしてしまえと思ってるんだから、子を為すことに嫌悪感すらあった。
ニルスは僕が妃を必要としないことに気づき、いざというときの保険として弟の生存を願い出た。僕の代わりに皇族の血を継ぐ子どもを作らせるために。種馬としての扱いだ。それを非道と考えるか、死すべき弟を生かした温情と捉えるか。人によって見方は異なるだろうね。
巨大な帝国に跡取りがなく、僕が死んだ場合……世界は戦乱の世になるだろう。死んだ後の心配をしてやる義理はないが、それも腹立たしい。僕が無能な皇帝として名を遺すことになるんだから。ニルスの進言は、僕が子どもを産ませないことが前提だった。
だが僕は、一目惚れしたトリシャを連れ戻ったのだ。唯一の皇妃として彼女を愛でると決めた以上、跡取りを作るための種馬は不要になった。処分しなければ後々面倒ごとを引き起こす。ニルスの判断は常に冷静で、どこまでも厳しかった。僕を含めた数人の幸せのために、他者は徹底的に使い倒す。そんなニルスだから、僕も信頼するんだけど。
「ユリウス殿下、そちらの方々は?」
知ってるくせに、ニルスは知らない振りで話の先を促す。僕が挨拶を受けないのは、弟の存在を認めないからだ。僕の中で、あれは顔が似ている他人だった。上位者の僕が声をかけなければ、すべて弟の独り言となる。
「っ……」
肩を揺らしたトリシャが、僕の首に回した手に力を込める。首筋に顔を埋めて、しゃくりあげるように呼吸を乱した。恐怖に震えるトリシャは、ニルスの声に振り返ってしまったのだろう。見なければいいと思って抱き締めていたのにね。手を伸ばすと、心得た様子でソフィが薄絹を差し出した。紗に織られた透ける紫の薄絹を、トリシャの髪に絡めるようにして羽織らせる。これで少しは安心できるといいけど。
************************
新作『虚』をUPし始めました。
復讐に憑りつかれた主人公の青年は、異世界に召喚された元日本人。必死に戦い魔王を倒した彼に待っていたのは、この世界からの拒絶と仲間の裏切りだった。
突然現れて手を差し伸べた美女リリィの過去と正体を知る日まで、青年は足掻き続ける……ダークで残虐描写多めのお話です。
意外と明るい主人公ですので、ぜひご賞味ください(*´艸`*)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます