第13話 強敵登場

「どうしたのリン? もしかしてお客さん?」


「……いや どうやら病室を間違えたらしい 少し案内してくる」


「わかった! じゃあそのあいだおかし食べてるね!」


「食べすぎるなよ?」


 病室の前で聴き耳を立てていたミカは、リンに無理矢理連れ出される。

 大人しくリンについていくしか無かったミカ。何故ならリンが放つ殺気に、怖気付いてしまったからだった。


「きっ奇遇だね! こんなところで会うなんて!」


「今更とぼけるつもりか?」


 病院の外にまで連れ出され、ミカは問い詰められる。

 最初から尾行している事など気づかれていた。それでもリンが放置していたのは、こうして決定的な"証拠"を掴む為だった。


「──何の目的があってかは知らん だが話があるのなら聞いてやる」


 リンとしても、あからさまに怪しいミカを放置するつもりはない。

 尾行までするぐらいなのだから、余程の理由があるのだろうと考えていた。


「じゃあ早速……」


今日の夜河川敷まで来い・・・・・・・・・・・ そこで話を聞こう」


 ただし、今ではない。


 込み入った話になる事はリンも予想できる。今ここで話すよりも、ゆっくりとした時間を設けて話し合うべきだと判断したのだ。


「11時までなら待ってやる 来るかどうかは好きにしろ」


 リンは病院へと戻っていく。ミカが追おうにも、その背中からは"それ以上関わったら殺す"といった雰囲気を醸し出し、追いかける事は出来なかった。


【……罠の可能性もあるぞ?】

「でも……行かなきゃだよね?」


 軽い気持ちで関わろうとしていたが、ミカは考えを改める。


 ただの高校生ではない。纏う雰囲気や言動から感じるのは、あきらかに『普通』とかけ離れていた。


「穏便にすませたいんだけどなぁ」

【河川敷と言っていたな 今のうちに視察でもしておくか?」

「いや大丈夫 この辺りのっていったらあそこしかないし」


 指定された場所は幼い頃、公園代わりによく遊んでいた場所であり、野球やサッカーが出来るぐらいには広い場所である。


 何故その場所が選ばれたのは定かではない。が、ミカは嫌な予感しかない。


「……穏便にすませたいなぁ〜」


 改めて口にし、嫌な予感が外れて欲しいと願うミカだった。






「──最近家を抜け出すのも慣れてきちゃった」


 約束通り河川敷へやってきたミカ。当然門限を過ぎた時間であり、親に内緒である。


「お父さんお母さんごめんなさい……ボクは悪い子です」

【順調に悪に進み 我輩としては嬉しいぞ】

「ホント余計なことしてくれたよね」


 頭の中で元凶が嬉々とした声色でミカに言うが、当人からすれば迷惑でしかない。

 脅されているんですと説明したところで、誰も魔王の仕業だとは信じないだろう。


【良いではないか 上手くいけば我輩と離れられる絶好の機会だぞ?】

「そうだね 今日で最後にしたいよ」


 約束の時間の10分前。夜の河川敷からは人の気配を全く感じさせず、少し不気味に思える。


「11時までは待つって言ってたけど……もしかしてすっぽかされてない?」

【案外場所が違ったりするやもしれん】


 来ない可能性を考えつつ、約束の時間が来るまで待つ。

 しかし、時計の針が11時を指したというのに、リンは姿を見せなかった。


「──騙された〜!」


「騙していない」


「あわっ!?」


 来ないと思った瞬間、背後のリンの声に驚かされる。

 全く気配が無かった。ミカはともかく、魔王にすら悟られる事なく、ミカの背後をとっていた。


「ビックリした……」


「目的が分からなかったからな ここに来てからのお前の様子を見させてもらった」


【成る程 意趣返しのつもりか】

(ボクの尾行はバレてたのに)


 自分もされていた事だからと、ミカも言い返す事は出来なかった。

 それに今必要なのは、何故リンが『魔力』を持っているかを知る為であり、重要では無かった。


(でもいきなり『アナタ魔力持ってますよね』なんて聞けないよ〜)

【迷う必要などない 此奴きゃつは魔力の事を知っている筈だ】

(でも魔王様が言ってるだけだしなぁ……)


 文句ばかり言うミカに頭痛が襲いかかる。ミカは痛みに耐えきれず、その場にうずくまった。


「……大丈夫か?」


「お構いなく いつものことだから」


 側から見れば何が起きたのか分からない。突然の頭痛で、倒れそうに見えるだけである。


「俺から先に訊いてもいいか?」


「ボクに……?」


 ミカは病院でリンに囁かれた一言、『何者』かと尋ねられて事を思い出す。

 学校ですでに名前は教えていた。だが、その問いはまるで、内に秘めた魔王の存在を見透かしたかのような一言であった。


「ボクはもう名乗ったよね?」


「本当にそれが本性か? 『舞田マイダ 未架ミカ』」


 名前は覚えている。だとすれば、病院での問いは間違いなく、魔王を見据えての言葉だったのだと、ミカは確信した。


【黒だと言ったろ? 彼奴はすでに我輩の存在を察しているのだ】

(でもなんて聞けば……)

貸せ・・ 我輩が話をしよう】


 このままでは埒があかないと、魔王と人格を入れ替える事を催促する。

 ミカとしても、苦手なリンを相手にするのは避けたい為、喜んで了承した。


「──ッ!?」


 人格が変わった瞬間、リンはミカから離れた。


「……ほう? その様子だと ただ魔力を持つだけではないのは確定だなぁ」


「誰だお前は?」


「御機嫌よう『優月ユウヅキ リン』とやら 貴様の知りたいというのは我輩の事であろう?」


 毅然とした王者の風格を放ち、魔王は自らの名乗りを上げる。


「我輩は『ベルフェゴール』──七欲の怠惰を司る『魔王』である!」


 ミカ以外の人間に、初めて魔王は自らの存在を明かす。

 不敵な笑みを浮かべ、身体からは魔力が迸り、瞳は黒から赤へと染まる。


「お望みの御対面だ もっと喜べ それとも……怖気付いたか?」


 力の差を思い知らせる。ただの人間が敵う存在では無いのだと、魔王は魔力を研ぎ澄ます。


【ここまでする必要ある?】

「脅すのに加減など不要だ 寧ろもっと──ッ!?」


 ミカとの会話の最中、魔王の目前に拳が突き出される。


「……手癖の悪い奴だ」

【今の何!? 全然見えなかったんだけど!?】


 当たる直前に躱せたが、魔王でなければ今の一撃は当たっていたであろう。

 音も無く鋭角に、何の躊躇いも無く放たれたその一撃は、魔王を警戒させるには充分であった。


「躱したか……なら 魔王だというのも戯言じゃあ無さそうだ」


「疑われるとは心外だ この溢れんばかりの気品が目に入らぬか?」


「残念ながら……これっぽっちもな」


 お互いに挑発し、敵意を向け合う。当初から望み薄ではあったが、話し合いの雰囲気は完全に消え失せ、両者共に臨戦態勢に入っていた。


【ええと……戦う流れ?】

「少々身体を酷使するが 我慢しろ」


 魔王は身体に強化の魔法をかけ、身体能力を引き上げる。頼りない身体であるが、これで多少はましになる。


 お返しとばかりに魔王は仕掛けた。今のミカの身体であれば、鉄を砕く事も可能な破壊力を持つ拳をリンへと放つ。


 しかし当たる事は無い。動きを見切られ、放たれた腕を掴まれ、そのまま勢い良く地面は叩きつけらたのだ。


【ウッソ!?】

「想定外には……やるようだな?」


 地に組み伏せられる魔王。ミカは当たり前だが、魔王自身も信じられなかった。


「── 戯言だったか? 魔王というのは」


「調子にのるな小僧!」


 リン腹部を蹴り付け、僅かに出来た隙をついてその場から離れる。

 だがその直後に間合いに入られ、魔王は接近戦を強いられてしまう。


【魔王様が押されるなんて!?】

「押されているものか! この程度すぐに片づく……!」


 魔王はそう言うが、実際に押されているのは魔王である。


「独り言とは余裕だな」


 一瞬の隙すら逃さず、リンは魔王へと踵を落とす。


「ぐっ!?」


 上部に腕を交差させ、寸前のところで受け止めるが、重くのしかかる一撃。

 腕に残った痺れに気を取られ、次に繋げられた回し蹴りに対応が追いつかなかった。


【大丈夫魔王様!?】

「話しかけるな……阿呆め」


 その場から大きく吹き飛ばされた魔王を見せられ、今までのような余裕を見せられないの相手なのだと、ミカはこの時初めて分かった。


「遊びは終わりだ……! とっとと片付ける!」


 自身の人差し指に傷を入れ、流れた血が地面に落ちると魔法陣が描かれる。


「容赦などせん! 叩き潰してやる!」


 魔法陣から現れた血の魔剣を構え、リンへと向ける。

 手段など選べない、それほどまでに魔王が追い詰められたのだ。


この世界で使うのは・・・・・・・・・──初めてだ」


 リンは拳を強く握る。すると激しく炎が燃え上がり、黄金の剣が姿を顕す。


「久しぶりだな 『火の聖剣フレアディスペア』」


 絶望を焼き尽くす、不屈の聖剣を呼び起こす。

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