第3話 那月の場合②

そして卒業式当日。

那月が憧れの雨宮先輩に告白する日がやってきた。


「いよいよですな。」


「いよいよですね。」


「なー、もう連絡していい?」


「……。」


なんて3人が盛り上がるなか、1人緊張で顔がこわばる那月。


「おい、昨日までの勢いはどこにいった。大丈夫。お前に失うものはない!当たって砕けろ!涙は薫が拭いてくれる!」


「なんで俺なんだよ…」


式が終わってから連絡を入れると、学校にいる間に会えない可能性があるから朝のうちに修弥が雨宮先輩にメールを入れてくれることになっている。


「…よし!修弥、頼む!放課後、体育館前の渡り廊下に来てほしいと伝えてください!」


「あいよー」


淡々とメール文を打つ修弥と空を見守る那月。なんともシュールな光景である。



そうこうするうちに卒業式が終わって放課後。だいたい部活に入ってるやつらは部活ごとに送別会だっつってカラオケやらボーリングやら、すぐに学校を出て行ってしまう。

俺と那月は帰宅部のエースだったもんで、そんな習慣には全く関係ない。修弥と翔也は那月を見届けてすぐに部活の送別会に合流するらしいが。

ただ、先輩は部活に所属していたからわざわざ那月のために時間を割いてくれたわけだ。


「おら、さっさと行って砕けてこい。」


修弥が思いっきり那月の背中を叩く。


「涙は薫が拭ってやるよ。」


「骨は翔也が拾ってくれるってさ。」


「なんで君たちは俺が振られる前提なんだよ!もう少し応援する気持ちはないんかね!!」


と、熱いエールを背に那月は先輩の元へと向かって行った。



しばらくして那月が戻ってくると、手には一枚の紙と今にも泣き出しそうな那月の顔。表情からでは結果が読めない。


「…どうだった?」


翔也が恐る恐る聞いてみた。


「…やっぱりダメだった。でも前向きなお断りだった。」



つまるところ、今はまだお互いのことを知らないからすぐに付き合うことはできない。まずはお互いのことを知ってから考えたいということで連絡先を書いた紙を渡されたらしい。1年後、俺らの卒業式までに付き合うかお互い考えましょうとのことだ。

結果的には振られたわけだが、完全に振られたわけではないみたいだ。


「じゃあ、その涙は拭わなくていいな。」


「勝手に泣いてろ。」


「なんだかんだいい方に行きそうじゃーん。つまんね!」


「だからなんでお前らは俺の幸せを素直に喜んでくれないないかなー!でも一応振られてるからね?慰めて?」


「「「却下!」」」


何だかんだうまく行きそうな気がして、那月の恋路が楽しみだ。

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