第6話 薫の場合
夏休みになった。ただ、3年生にもなれば夏期講習で長期休みを感じることもなく、ほぼ毎日学校に来ていた。
進路をそろそろ決めてきている人が多数いる中、俺はまだどこに進むべきか決めかねている。
「今から進路相談の日程決める用紙配るから、希望日書いて今週中に提出しろよー。」
担任から配られた進路相談の紙。
第三希望まで書くように作られた希望進路と、親を交えた三者面談の希望日程を書いて提出する。
行きたい学校はあってもまだ親には言えてない俺には憂鬱でしかなかった。
「ただいまー。」
無言で母親に進路相談の紙を渡す。
「三者面談、お母さんはいつでも大丈夫よ。薫も行きたい大学書いておいてちょうだいね。」
「…っ、うん。」
うちはじいちゃんの代から続く和菓子屋だ。俺はここを継ぐために調理の専門学校に行きたいのだが、両親は当たり前のように大学に入って会社員になる将来を想像している。
三者面談の日程を書いてもらった紙に、行きたい専門学校の名前を書く。
ああ、担任も親も驚くだろうな。
だって誰にも専門行きたいなんて言ってこなかったから。
案の定というかなんというか、用紙を提出した次の日に担任から呼び出された。
「この進路希望、お前正気か?ふざけて書いたんじゃないだろうな。」
「…はあ。」
担任も混乱しているようだった。そりゃそうだろう。学校側からすればそこそこ成績のいいやつは大学進学を目指しているし、俺もそんなに成績が悪い方ではなかったからだ。実績ってやつが欲しいのだろう。
「まあ、一応本気っすね。うち、和菓子屋なんで。」
「親御さんはなんて言ってるんだ?」
「……。」
「お前、両親に伝えてないのか。」
「両親は多分っすけど大学行って欲しいんじゃないっすかね。俺は嫌ですけど。」
「…そうか。お前の進路だ。お前がちゃんと考えてこれを書いたなら俺からは何も言わん。だが、親にはちゃんと伝えろ。家で話すのが難しいなら三者面談の時でもいい。自分の気持ちをちゃんと言葉にしてこい。」
「…っす。」
意外だった。もっと反対されるかと思っていた。案外自分が難しく考えていただけなのかもしれない。
とうとう三者面談の日がきた。
親には結局進路のことは伝えられていない。
「そういえば、薫あんた進路どこの大学にしたの?」
面談の直前、母親に聞かれた。ほら、大学に行くことが前提じゃないか。専門学校なんて口が裂けても言えない。
なんと答えればいいか考えていたらタイミングよく前の人の面談が終わった。担任に呼ばれて教室に入る。
「じゃあ、三者面談を始めますね。」
俺の人生が、決まるかもしれない瞬間。
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