第5話 アロエ万能説3

成犬を譲り受けた。


犬種はビーグルで、我が家ではビーちゃんと呼んでいた。私は動物を飼うのは初めてで、ビーちゃんに興味津々だった。


その日は両親が姉を小学校へ送り届けていたため、私とビーちゃんのふたりぼっちだった。玄関で両親を見送った。横にはビーちゃんがいた。


興味津々だった私はビーちゃんに手を伸ばした。びーちゃんは躾があまりされていない成犬だった。それは一瞬の出来事だった。


ガブリ。私の手はビーちゃんの口の中にあった。痛い。加減なく噛まれた手はとてつもなく痛かった。


『離して?』


私はビーちゃんに声をかけた。ビーちゃんは知らんぷり。


『離して?』


私はもう一度声をかけた。ビーちゃんは唸り声を上げながら噛む力を強めた。ビーちゃんは我が家にきて間もない、我が家の誰にも懐いていない成犬だった。


私は泣きながらビーちゃんの口を叩いた。急な反撃にビーちゃんは口を開いた。その隙に私は立ち上がり、二階へと階段をかけ登った。


二階なら大丈夫だろう。ほっとして階段を振り返った。ビーちゃんがかけ登っている途中だった。


恐怖を覚えた私は両親の寝室となっている和室に入り、ドアを閉めた。肉が見えるぐらい噛まれた手からはドクドクと血が流れていた。両親の敷布団が赤く染ることなんて気にもとめず、その血をティッシュで拭い続けた。


足音が聞こえた。両親が帰宅した。姿の見えない私を探して、母が二階へ登ってきた。和室のドアを開くと、私が泣きながら血を拭っていた。


母は何故か笑っていた。今でも理由は分からないけれど、確かに『何してるの?』と笑っていた。


母は私に差し出した。これを食べなさいと。それはいつもの如くアロエだった。


病院へは行かなかった。

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非凡な平凡。 @neco_080821

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