第4話 アロエ万能説2

その日はとても寒かった。


家には母と私の二人だけ。母は台所で夕食の準備をしていた。私は暇を持て余しながら、台所が見えるリビングに置かれたストーブの前を陣取っていた。


当時はストーブの上にヤカンを置いてお湯を作る、というのが一般的だった。我が家でも毎日ヤカンが置かれていたが、その日は何も置かれていなかった。


まだ幼稚園生だった私には分からなかった。ストーブの前は何故か居心地がいい。このストーブというものは何なんだろう。穴の空いた上部からはたくさん湯気が出ている。これは何なんだろう。


好奇心に負けた私は迷いなく手を差し出した。気付けばストーブの上に手の甲を置いていた。いや、焼いていた。


手の甲がとても熱い。私は母に呼びかけた。『熱いよ』と。母は『何が?』と聞いた。こちらを振り向かなかった。


私はまた呼びかけた。『熱いよ』と。母は振り向いた。『何が?』と。


そこにはストーブで手を焼く私の姿があった。母は慌てて私に駆け寄り、私の手をストーブから持ち上げた。その手は赤く焼けただれていた。


『これを食べて貼りなさい』


母から手渡されたのはアロエだった。私はアロエをひと房食べたあと、焼けただれた手の甲にアロエを押さえつけた。


病院へは行かなかった。

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