第3話 アロエ万能説1

お転婆だった訳ではないけれど、傷跡が残る怪我を何度かした。


最初の記憶は幼稚園で赤白帽を被り、クラスメイトと影鬼をしていた時のこと。


滑り台の下に隠れた私は、後ろから誰かにドンッと押された。バランスを失い地面に両手、両足を着いた。少しぶかぶかな赤白帽が視界を塞ぐ。突然の暗闇にパニックを起こし、勢い良く立ち上がる。


そこは滑り台の下だった。立ち上がった衝撃で、固く頑丈な滑り台の鉄板に頭をぶつける。そして気付けばまた、地面に両手、両足を着いていた。


幼稚園生とは思えない判断力で今度は注意深く後ろに下がった。ズルズルズルと。この辺でいいだろう。私は自信満々に立ち上がった。そこはまだ暗闇で、まだ滑り台の下だった。


ガンッ。同じ衝撃を受けた。涙は出なかったけど、痛かった。


丁度、影鬼が終わった。クラスメイトが教室へ駆け出す中、私は立ち止まり赤白帽の中に手を入れた。汗を拭い、手を出した。その手は真っ赤に染まっていた。


先生に伝えると大慌てで保健室に連れていかれた。赤白帽を脱ぎ、タオルで血を拭われ、怪我の様子を見る。そこには小さい小さい穴が空いていたらしい。


直ぐに血が止まり、クラスメイトと同じ授業を受け、同じ時間に幼稚園を出た。迎えに来た母に先生が念の為病院へ行くようにと伝えた。いつも通り、母と手を繋いで帰宅した。


自宅に着くと、母から手渡されたのは栽培していたアロエだった。これを食べなさい。病院へは行かなかった。

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