剣より強いペンで、某、世界(ものがたり)を紡ぎます。~愛した女神と7人の罪人~

月夜に綴る、恋詩(コイモノガタリ)

第1話 序章 事実は小説よりも奇なりとは言うものの・・・

「俺は世界を救う!人も魔族もみんな救ってみせる!!」

「フフ、、ハハハハッ!!我ら魔族を人間ごときが??それもあろうことか「救う」だと!!?」


 世界を、みんなを救って平和に暮らす。それが俺の夢なんだ!!


「だから・・・俺は負けない!!」

「フフ、、ハハハハッ!!ならば見せてみろ!!」

「うおおおおおっ!!唸れ、ダークネスブレイドぉ!」

「フフフ、、ハハハハハッ!!所詮はそんなものか!!」


 効かないっ、、!


だが、皆の笑顔がある限り・・・誰かかこの世界で泣いている限り!!俺は――








「うん。もう結構です。」

「はい??」


 そこで目の前に座るイカつい見た目の男性は捲っていた400字詰めの原稿用紙を閉じる。


「まず設定がありきたりすぎるよね。最近じゃ『全部救う』なんてご都合主義、小説や漫画でも有り得ないから。」

「そ、それはやはりファンタジー物は王道の『勇者VS魔王』の構図でありたいと思い――」

「あと戦闘しかり心理しかり。描写シーンが雑過ぎ。」

「小説とは読み手の想像力と書き手の表現力が相まってこそ初めて完成するものでその余白にこそ某は――」

「なのにやたらと凝った風景の描写。人相とかその場の風景とかこそ、ある程度は読者の想像に任せた方が呼んでる側も楽しいと思うけどねおれは。それに――」


 その後も指摘を繰り返されること15分。後半は反論すら浮かばずただただ打ちのめされるばかりの時間。


「――ってわけだから。まあ毎回直接持ち込んでくる根性は認めてあげるけどね?もっと新しい展開を望んでるわけよ。読者も俺も。」

「しかし某は――」

「あと。・・・ダサいからやめた方がいいよ?」


 取り付く島などある訳もなく出版社を後にする。


「フッ・・・まったく。新しいことばかりに気を取られ足元に転がる原石に気づかぬとは、、、。某は諦めないぞ!!「天才とは、山の頂上まで蝶を追う幼い少年である」byジョン・スタインベック!」

「ごふっ!?」


 意気揚々と己が未来に夢を馳せていたのも束の間。


 声高々に宣言し悔しさを振り切ろうと突き上げた拳は見事、目の前を通り過ぎようとしていた怖いお兄さんたちの顎を捉えた。


「兄貴ーーっ!?」

「てめえ、何してくれてんだぁごらぁ!!」

「いや、、、ちが、、。某は・・・」

「ちがもなにも血が出てんだろうがぁ!!ちょっとこっち来いオラぁっ!」


 胸ぐらを掴まれ細い路地へと連れ込まれる。

 道行く人々は見て見ぬふり。誰もが異常な光景とわかっていながらその一言を口に出す者すらいない。


「フフッ。フッフッフ、、、。」

 知っていますとも。所詮他人は他人。頼れるものなど自分の力だけなのだから。


「ああっ??何笑ってんだてめぇ?それよりもほれ。金出せ金。これの治療費、10万で勘弁してやるよ。」


 某のアッパーが直撃した口髭のコワもてはキレた口を指さしながらこめかみに青筋を浮かべている。


「某、あなた方のようなものに払う金など一銭も持ち合わせてはいないものでして。それに――」


 右手を腰元へ、左手は伸ばし胸の高さで構え腰を少し落とす。そうして不敵な笑みを口に浮かべたまま悪漢どもを見据える。

「やめておいた方が賢明だと思いますけどね?・・・ケガ人が出ますよ?」

「このっ、、、!おちょくってんのかてめえぇ!!」


 激昂し迫りくる口髭さん。繰り出されたのは大ぶりの右ストレート。


「はぁ・・・」

 小さくため息を一つ吐きその一撃を左頬で受け止める。

「あだぁっ、、、!」


 その後間髪入れずに迫る右の前蹴り。阿呆め。モーションが大きすぎますよ!

「ごふうっ、、!」


 しっかりと見極めしっかりと鳩尾に直撃。ここでついに膝を屈する。

戦闘開始から10秒の出来事。


「おらぁ!」

「くらぁ!」

「ごらぁっ!ってかなんだこいつ!?引くほど弱いぞ!??」


 その後もうずくまった某に容赦なく浴びせられる足に拳。

だから言ったでしょう・・・ケガ人が出る。と・・・


「なんだったんだこいつ??まあいいか。ファイトマネーは貰ってくぞ・・・って所持金482円??小学生でももっと持ってんだろうクソが!」

「だ、だから言ったでしょう・・・払う金など無い。と・・・」


 悪漢どころか、大家さんに明日払う今月の家賃もやばいのだ。むしろ貸してください。


「なんでそんなキメ顔できんだコイツ??」


 最後に一発。ビンタで頬を叩いたあと男たちはその場を去っていく。無情にも某の全財産を奪い去って。


「くっ、、、。なかなかやるではないですか・・・」


 強がり。圧倒的強がりである。


 まだ冷たい4月上旬のアスファルトに転がりながら強がりを胸に暮れていく日が茜に染め上げる空を見上げる。


「希望があるところには必ず試練があるものだからby村上春樹。・・・まさにこれは試練という事、ですね、、、。」


 ボコボコにされたダメージを引きずりながらもよろよろと立ち上がり大通りへと戻る。

 顔や服は泥に塗れ、ケガもしているこの有様を見てもなお声をかけてくれる御仁すらいないとは・・・某泣いちゃおうかな。


 何とも寂しい世の中ではあるが、だからこそ物語とはこういった世界には無い『ご都合』を語るものでありたいと思うのに。

 あのハゲ編集者め、、、!好き勝手言ってくれてさ!


「いててっ、、、。」


 などと本人には口が裂けても言えぬ鬱憤がボコボコにされた腹立たしさと相まってぶり返してきた。

 だがそんな事より某にはもっと大きな問題が生じているのだ。


「はぁっ・・・もやしすら、買えぬとは・・・」


 一張羅のよれよれになった羽織袴をいたるところまさぐること15秒。目当てのモノは発見できず。


 まあ、要するにあれだ。端的に言うと金が無い。明日の家賃どころか今日の晩飯にすらあり付けぬほどには金が無い。


「これも試練という事ですか、、、。村上先生、、、!」


 独り言をつぶやく某を奇妙なものを見る目で眺めながら通り過ぎて行く人々。


 フッ。なんとでも言うがいい。某は小説家。孤独に生き、変人と言われようとも自らの作品の為のみに生きる生物。君達とは種が違うのだ。理解できずとも仕方があるまい。


 泣きそうになっている心を強がりで何とか支え重い足取りを家へと向ける。

 帰ったところで金がある訳では無いのだが。まずは家に帰り、明日の朝一番で大家さんに披露するための土下座の練習をせねばならない。


「―――――てますか?」

「しかしてこの空腹をどうしたものか・・・ん?」


 土下座への移行の仕方と謝罪文の内容、空腹の紛らわせ方を考えながら渡る歩道橋。

 某の少し後ろを歩いていた女性から何かしら声をかけられた気がし視線を移した。


 一瞬目が合った女性はなぜか柔らかく微笑む。

(・・・キレイな人だ。)


 見惚れていられたのも束の間。その女性はふらりと体勢を崩し――後方へ。重力に従って倒れこんだ。


「なっ!!あぶなっ――」


 とっさに女性の腕を掴んだものの某の膂力では崩れる二人分の体重を支えられる訳も無く。せめてと思い抱きしめるように女性を庇いながら階段を一番上から見事に転がり落ちる。


良い匂いがするなぁ。うわ!やわらか!まずい部分に手が!しかしこれは不可抗力!!・・・むふっ。


 二転三転、目が追い付かぬ速度で回る視界。

空の青さに、コンクリの灰色。信号やら看板やらなにかしらの緑色やらetc


 体中いたるところを強打しながらもようやく着地したものの・・・最後の最後で某の胸部に押し付けられた女性の胸部の感触に気を取られ頭を強打した。


「小説家と言えども、、、健全な男子であると、いうこと、、、ですね・・・」


 女性の安否の確認すらできぬままに意識はプツリと落ちてしまうのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「んっ、、、。」


 差し込む朝日に照らされ目が覚める。


 時刻は分からないが何とも心地のいいフカフカベッドが覚醒した意識を再度夢の中へ誘おうとささやきかけてくる。

 それにまるで花のようなとても良い匂いもして心地良過ぎでは・・・


「、、、、あれ?」


 しかして某は小説家。今しがた起きていた時の記述を読み返してみればどうにも記載が無い。

・・・カッコつけて言ってはみたものの、某、、、どうやって家に帰った? 


―コンコンっ。


 軽やかに扉をノックする音が聞こえる。はて?誰ぞや来客の予定などあったか?

「・・・・はぁっ!!」


 そこで一つの懸念に行き当たった。今日の日付、朝からの来客、そして――家賃。


「い、いかん、、、!今の某は一文無し!このままでは本当に追い出され、、、!」


 というか追い出される方がマシなのだ。実は某、顔は良い。家賃の滞納はこれまでにも数度・・・というか二か月に一回のペースでやらかしているのだが。

 それでも追い出されないのは大家のババ――奥様がとにかく某の顔がタイプなのだ。


 なので未納の場合、類人猿中最大のショウジョウ科の哺乳類に酷似した顔で丸一日眺め続けられる。というペナルティを受けねばならない。


「な、なんとかせねば、、!あのババア!追い出しはしないのに家賃の猶予だけは一分もくれやがらないぞ、、、!!」 


 1年ですでに4回。「眺めるゴリラ」の刑に処されている某はもはやあの顔を見るだけでサブイボが出るのだ!!


 思考を巡らせている間にも徐々に開き恐怖の元凶大家のババアが踏み込んで来ようとしている。

かくなる上は――


「起きたかしら?」

「大家様お許しをぉ!今月の家賃、必ず明日にはお支払いしますので、、、。どうか、どうか「ゴリラ眺め」だけは・・・」

「へっ?」


 ふふふっ。どうだこの流れゆく清流がごとき一片の澱みも無いDO・GE・ZAは。

ここまで下手に出た人間をなじる勇気が貴様にあるかな??


 2秒ほどの無音。やはり効果ありか?

 伏せていた顔をほんの少し上げチラッと様子を伺う。


「えっと・・・とりあえず、おはよう。でいいのかしら?」

「えっと・・・とりあえずはおはようございます・・・」


 待ち受けていたのは限りなくゴリラに酷似した顔。というかもはや人間に酷似したゴリラ。否。断じて否である。


 大きくキレ長の目には黒く透き通った瞳が鎮座し背中まで伸ばしたロングの黒髪と見事に調和している。

 キレイな肌はとても無垢で清純そうなイメージを醸し出しているが左目の目元にある泣き黒子がその中でなんとも目の離し難い妖艶さを織り交ぜる。


 女性にしては少し高めの身長にモデルと見紛う程の長い脚。そして何より目が釘付けになるのは――

「こんな所に・・・アルプス山脈、、、?」


 世の男性を釘付けにするであろうその豊満なボディライン。ってか、おっぱい。


「あの、、。あるぷすさんみゃく?ってなにかしら??」

「あ、、。し、失礼!なんでも無いので気になさらず!!」


 いかん。朝っぱらから某の野生が暴れ出してしまう所だった。本能とはいかようにも抗いがたいものなのだな。


「フフッ。変な人。目が覚めたようで良かった。朝ごはん出来てるけど――」


ぐぅ~~~っ・・・・


「返事は聞くまでも無いかしら?」

「・・・お恥ずかしい限りです。」


 楽しそうに笑う女性に案内され3日ぶりのもやしの白以外の彩ある食卓へと案内される。

 人に作ってもらった料理などいつぶりであろうか??


 久々のたんぱく質を温かな食事のある喜びと共に口一杯に噛み締めた。

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