第41話 飯島結衣の勉強会


飯島が言うと同時に家に入ると、中から飯島のお母さんと思われる女性が姿を現した。



「あ、結衣おかえりー。あ!もしかして鈴風君⁉︎」



「あ、こんにちは。お邪魔します...。」




なかなかに陰キャムーブをかましてしまう。



やばい、普通に緊張してるし飯島ママめっちゃ美人じゃん。というか可愛い系?だな。




おそらく30後半だと思われるのに、20代といってもギリ違和感がないくらい若いイメージだ。



「やっぱり鈴風くん!いつも結衣をありがと!今日は来てくれてありがとね〜。なにもない家だけど、ゆっくりしていってね!」




話し方も穏やかで、でも元気のあるそんな感じだな。単純に良い人なんだなと感じた。



いつも結衣をありがとって特になにもしてないんだけどな...。ここは何も触れないでおこう。




「こちらこそいつもお世話になってます。これしょぼい物なんですけど...良ければどうぞ。」




俺が菓子折を渡すと、飯島母が驚いたような顔になる。



「え⁉︎そんなわざわざありがとう〜!別に大丈夫なのにー!いいの?頂いちゃっても。」




「あ、はい。もちろん。お邪魔するんでこのくらいは...。」




良かった。1000円程度の安物だが門前払いはされなかったようだ。一安心だな。




「そう?鈴風くんありがとーね!あとで結衣の部屋にお菓子持っていくからね!」




「はい、ありがとうございま...えっ?」




俺は一瞬聞こえた単語の処理に時間がかかりすぐに反応できなかった。




え...飯島の部屋で勉強すんの?

てっきりリビングとかそういう場所でするのかと思っていた。




まぁたしかにそうか。

リビングとかだと、家族の迷惑になるかもしれないもんな。考えが回らなかった。




しかし飯島の部屋....か。



俺がえ?と言ってしまったので、飯島母に聞き返されてしまう。




「鈴風君どうかした?」




俺は一瞬躊躇うが、すぐに返事をする。



「いえ、なんでもないです。お邪魔します。」



「うん、どーぞー。」



飯島も俺の前で靴を脱ぎ案内してくれる体勢に入る。




「じゃあ、鈴風くん。ごゆっくりね〜。」



「あ、はい!どうも。」




ん?何か一瞬飯島ママが小さくニヤついた気が....いや気のせいだよな?



お、お母さん。別になにも俺は変なこと考えてないので!ほんとに!




俺は目線で強く訴えるが、飯島母はもう普通の笑顔に戻っており、俺の意志が伝わらない。





ぐぬぬ...なんか腑に落ちないが...。




俺が立ち止まっていると、飯島が声を掛けてくる。




「鈴風くんー、はやくいこ?」




「はい行きます、すぐ行きます。」



俺は即答した。




こうなったらもう吹っ切れた。





全力で勉強会楽しんじゃおーーー!!!




フッフゥーーーー!!!!!





俺は心の中でバカみたいに叫んだ。







その後飯島の部屋まで歩き、

遂に部屋の前に到着する。




俺は数十秒前のバカみたいに心の中で叫んだ自分はどこに行ったのかというくらいに緊張し始めていた。




大丈夫...。女子の部屋に入るのは初めてじゃ無いんだ...落ち着け落ち着け。




自分に言い聞かせながら飯島を見ると、もうすでに部屋の扉を開けていた。




「さ、入って入ってー。」



飯島に催促され俺は部屋を眺めながら入る。

そして本日二度目の台詞を言う。



「お邪魔しまーす...。」



「特に面白い部屋じゃないんだけどねー、勉強会する分には問題ないと思う!」




「なんか、the女子の部屋って感じだな。ぬいぐるみとか置いてるし。部屋もピンクっぽいイメージだな。」



俺が感想を言うと、飯島が少し恥ずかしそうにむっとこちらを見つめてくる。



「......。ピンクって...。」



「え?あぁ、そっちのピンクじゃないからな。桃色の方のピンクだ。別になにもいやらしくないから安心しろって。」




「わ、わかってるし!」




わかってるならわざわざ睨みながらピンクとか復唱しなくていいだろ。




桃色を英語で言っただけなのに、あっちだと勘違いする飯島は実はむっつりなのだろうか?



普通ピンクって言われただけでそんなに敏感に反応はしないと思う。




...このエロガキが!





俺はそんなこんな思いつつ仕切り直しに勉強会の事に触れる。




「そういや、俺があいつらと喧嘩したからって気を使って勉強教えてあげようなんてしてもらってありがとな。」



「んーん、全然いいよ。私も江原くんがいないからって大勢の友達に教えることになるのはちょっとやだし。それに....。」



「ん?」



「鈴風くんとはあんまり喋ったことなかったから、どんな人なんだろうって気になったのもあるかなー。」




なるほど。そんな事を思っての行動だったのか。たしかに最初誘われた時、なんか飯島の挙動がおかしかったというかやけにテンションが高かったからな。



俺がどんなやつかわからなかったからパニクってたのかもしれん。




「別に俺は面白い人でもなんでもないぞ。関わって良い事も....たぶんあんまりないな。」




こんなの自分で言うのすごい嫌だなぁ...。

さらに悲しくなっちまうぜ。トホホ。





俺が哀愁漂わせていると飯島が首を振りつつ言った。




「そんなことないよ!鈴風くんはお花見の時、青葉ちゃんにサプライズしてたじゃん!それに王様ゲームしてる時も江原くん達と楽しそうにしてたし、私も楽しかったよ?」



「まぁ、そう言ってくれるなら嬉しいけどさ。」




飯島が俺に良いイメージを持ってくれていて嬉しい気持ちもある。




ただ脈無しだったはずなんだが...。

俺の解釈違いだろうか。




もしかしたら脈無しだけどイメージは良い人くらいの感じか...。たぶんそれだな。





「うんうん、もっと自信持って良いと思うよ!さ、勉強始めよ!」




「おう、やるとするか。」



「わからないとこあったら言ってね、じゃんじゃん教えるから!」



「よーし、がんばるかね!」




俺は気合いを入れつつ飯島と笑顔を交わした。




もう女子の部屋だからとかいう緊張は無かった。





そして、飯島結衣の勉強会が始まった。

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恋愛経験ゼロの俺が本気を出した結果 涼湊羽夢 @joker_22

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