第40話 飯島家への道中


電車を降りると、そこは都会とも田舎とも言えない町でした。




ってなフレーズが似合いそうな場所に着いた。



電車を降りて駅を出ると、飯島がたたっと駆けていきこちらを振り向き両手を広げる。



「鈴風君、ここが私の地元だよ!!」



大きな声で言ってくるが、ただの地元だろと思ってしまう。



え、別に自分の最寄駅をそんなテンション高めに紹介することってある?ないよな...?



そう思ったが、口には出さず心の中で留めておく。仕方ない、飯島のテンションに合わせよう。



「お、ジモティーってやつだな!」





「...じもてぃー?どういうこと?」



おっと聞き返されてしまった。

我ながら良い返しだと思ったんだが...。

ギャグセンス無いな俺。



まったく最近の若者は地元=ジモティーも知らんのかね。けしからん!




しかし流行り物に敏感そうな飯島が知らないとなれば、もう死語なのかもしれない。




おじさん悲しいよ...。




「あーいや、気にすんな。ようするに地元なんだな!ってこと。」



俺が言うと飯島は少しはてなを浮かべつつ頷いてくれる。



「う、うん。地元なんだー。」



「でも学校から3.4駅で、俺の家からもたぶん5駅くらいだろ?地元の定義がよくわからん...。」



「うーん、なんでもいい気がする!」



「そ、そっか。」




なんか幸先悪そうなたじたじ会話だが大丈夫なのか...?



不安になりながらも飯島と歩いていると、なにかを見つけたのか飯島が歓声をあげる。




「わぁ!見てみて鈴風くん!噴水の水が出てる!」



「ん?おーほんとだな。」



飯島はすごい嬉しそうにしているが、噴水が出てることに感動するなんて幸せなやつだな。



俺がそう思っていると飯島がぺしっと叩いてくる。



「鈴風くん、噴水の何がすごいんだよって思ったでしょ...?」



ジト目で見つめられて俺は嘘をつけずに認める。




「あ、あぁ。悪い、思った。」



「やっぱり〜。まあ鈴風君はこの辺のことをよく知らないからわからないと思うけどね、あそこの噴水って夏と秋しか出ないんだ〜。」



「ほへー。だから今年も夏が来るぞーって感じでアガってたわけか。」



「そうそう!1年はやいよねってー。」




なるほどな。



しかし春と冬寂しいな、噴水なのに水出てないって。なんのためにあるんだろうか。



冬はもしかしたら凍結とかで無理なのかもしれないが、春は出せるでしょ。




「もう6月なんてほんと早いよね〜。お花見したのが4月終わりくらいでしょ?」




「だな、そう考えるともう1ヶ月か。たしかに最近は少しずつ暑くなってきたしな。」




お花見の1週間前はあまり思い出したくない始業式の日があったしな...。




アレはまじで情報量多すぎの1日だったな。




階段から落ちて、青葉と再開して、三年生にボコられて、青葉に助けられて、江原とかいうバケモ...完璧超人イケメンに出会って。



んでついでに渓が恋した。

それはどうでもいいか。





しかし暑くなってきたということは、おそらく来週かそのあたりから夏服になるわけだな。




青葉や飯島も夏服というわけか....ぐふふ。




おっといかん、悪いところが出た。




同級生女子の夏服で変なことを考えちゃあいけねぇよな。うんうん。




半袖に...普段より着崩した首元....でゅふふ。





....やばい。まじでキモいぞ俺。



瞑想して精神統一しよう。



すぅー、はぁー。すぅー、はぁー。




マズイ!!!


このすぅはぁですら、意味深に聞こえる!!!



ただの深呼吸ですよ!ほんとに!



俺は無罪だああああああ!




「ねーねー鈴風くんっ!聞いてる?」



「おわっ。ごめん聞いてなかった。」




妄想中に急に話しかけられたせいで俺は変な声を出して返事してしまう。




「私の家もうすぐそこなんだ〜。」




「おお、言ってる間にもう到着か。」



「うん!まもなくーわたしの家に到着しまーす!」



「電車かよ.....!」




てことは結衣線なんだろうな。

到着駅は飯島駅というわけか。





何言ってんだ俺。





住宅街を歩いていると飯島が止まった。

おそらくここが飯島の家なんだろう。




あ、やばい。緊張してきたかもしれん...。



家の前らしい場所に到着すると俺の心臓の音は少しずつ速くなっていく。



「ここか...?」



俺が聞くと飯島は元気に答える。



「うん!そーだよ!ちょっと待ってね。えーっとかぎかぎ〜。」



鞄をごそごそし始める飯島。



く、覚悟を決めろ俺!

ここまで来て引いたらチキンすぎるぞ!



きっと飯島だって変なことなんて考えてないはず!考えているのは俺の方だ。




落ち着け落ち着け、江原のアドバイスを思い出せ。




普通でいい、普通がいい...。




...よし。




そして俺は女子の家に入る覚悟を決めた。




「おっけい、鍵開けるね〜。」



「おう。」




飯島がるんるんと鍵を開ける。




ガチャッという鍵の音と共に、扉が開き中が見えてくる。



「ただいまー!」




さて...ここからが勝負だ。




俺は再び気を引き締めると、開いたドアに向かって踏み出した。









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