第36話 希望、そして即決

渓、青葉、山吹の三人が夢栗に連れて行かれた。



あの野郎、俺を痛めつけて、江原を侮辱し、さらには俺を抜いた三人まで連れて行くとは...。




おそらく俺を呼ばなかったのも夢栗なりの意図があるんだろう。俺が嫌いだからとか俺に嫌がらせをするためとか。



別に俺は行きたくもないが、連れて行かれた三人が妙に気になる。




なんであの三人まで連れて行くんだ?

たしかに夢栗が教えるはずだったメンバーには違いないんだが...まぁいいことではなさそうだ。



クソ、俺のせいもあるからなぁ。

申し訳ねぇ。



と夢栗への警戒とあの三人への心配を重ねながらも、俺は渓たちが居なくなり1人になっていたことに気づいた。



どうしようか...。とりあえず寝て時間でも潰すかと思い、机に突っ伏そうと思ったところに誰かが来た。



「あのー、鈴風君ちょっといいかな?」



俺の性格上声だけだと誰なのか判断ができないので、誰だと思って顔を上げると見覚えのある人物がいた。



飯島結衣だ。彼女は両手を後ろに回して俺の返事を待っていたようだった。




「おう、なんか用か?」



と俺が聞くと、飯島はうん、さっきの事なんだけどと話を始めた。



「夢栗君が来て、青葉ちゃん達がついて行ったでしょ?それでもしかしたらさっき江原くんが言ってた鈴風君と夢栗くんの喧嘩が関係あるのかなって。」



なるほど、なかなか勘がいいんだな飯島は。



というかなんで江原が俺と夢栗で揉め事が起きた事知ってんだよ。

最新のニュースだろ、情報網すげぇな。



てか江原の場合、情報網というより江原自身が誰よりも先に知ってそうだもんな。



ふふ、彼と喧嘩したんだね。と言う江原が容易く想像できてしまった...。



「いや、まぁ関係あるっちゃあるな。俺たぶん夢栗が教える勉強会にハブられてるし。はは。」



「そ、そうなんだ。大変だね。」



「ほんと大変だよ、夢栗は思っていた以上にクソなヤツだったしな。」



俺が夢栗との喧嘩のことを思い出してイライラし始めていると、飯島はうーんと考えるようにして話し出す。



「じゃあさ、私が鈴風君に勉強教えようか!?」




「———へ?」



飯島は何言ってんだ?



俺に同情してくれているんだろうか、別に正直勉強しなくてもそんなに悪い点数は取らないから勉強会とか要らないんだけどなー。



俺が理解するのに時間をかけていると飯島は続ける。




「だからね、青葉ちゃん達三人だけが夢栗くんに勉強を教えてもらってたら鈴風君が一人でしょ?江原君がいないなら代わりは私みたいなものだから私が鈴風君に教えるよ!」



「お、おお。なんかすごいけど、別に俺学年で半分くらいの成績だし勉強いらないから気にしなくてもいいぞ?」




できるものなら勉強なんてしたくない。

しなくてもそんなに変わらないので、結局は一緒だと思うんだ。



しかし俺がそう言うと飯島はしゅんと落ち込んでしまった。



「そっか、、、。私じゃ務まらないよね。なんとか江原君の代わりになろうとしたけど、私には荷が重かったかな。ごめんね。」



うわーーー!!!

これアレじゃん。



このまま飯島が落ち込んで泣き出してしまうものなら、俺が「泣かーしたー。」って周りから思われて最悪なやつじゃん!これはマズイ...!



とりあえず飯島を落ち着かせる。



「いや、まぁそんなことはないよ。俺も一人になって強がってただけだから、勉強教えてもらうのが飯島なら心強いよ。」



俺が言うと、飯島はパァッと元気が戻り、再び俺に聞いてくる。



「じゃあ、私が教えても大丈夫かな...?」



「う、うん。大丈夫。それより俺ら二人だけで勉強なんかしてたら、飯島に良からぬ噂でも立つんじゃないか?」




よし、完璧だ。俺といると嫌われるよ戦法がこう言う場合は最強なのだ。



ただ、断られた時の自分のメンタルは若干削られるので注意。



「うん、全然大丈夫だよ!私別に鈴風君と勉強して噂されてもなんとも思わないよー!」



なに.....!?



これが効かないのはなかなか強者だ。



今も飯島は手でグッドサインを作りこちらに向けてきている。なるほど、そう来ましたか。



なら次だ。




「そうか。でも、飯島が教えてるグループがあるだろ?そっちは大丈夫なのか?」




相手の心配をしてそちらに気を向けさせる。



これでいける筈だ。



「あ、うん。そっちは江原くんが復帰して私が鈴風君に教えるのをやめるまでは自習にしてもらうから大丈夫!(グッ)」




「そ、そうなんだ、、、。」




(グッ)じゃねぇよ!!!



なんでそこまで俺に良くしてくれるんだ!?

江原に頼まれているのか?



たしか前の記憶では飯島は俺には脈ナシだと確信していたのだが...。そこが間違っていたのか?



もう訳がわからなくなってきた。



「だから私に任せてね!」



はっ!そうだ...。




俺は何故ここまで断ろうとしていたんだ?

勉強が嫌だったから?飯島に悪いと思ったから?




おそらく俺自身が女子と二人きりで勉強するのがキツかったのだろう。




だがよく考えろ。飯島も是非是非とウェルカムな感じだし合意の上だ。




噂が立っても構わないという言質は取れている。




ならば!!!

....最後の質問で決める。




「ちなみに飯島さん、、、勉強会の活動場所は、どこですか?」




「ん?私の家でやるよ。」





「行きます。」





俺は二つ返事でOKした。









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