第30話 桜は散り、縁は繋がり、花見は仕舞
女子達三人が食べてる横で、俺たち三人も桜餅を開封して各々食べ始める。
「ううんめぇ!桜餅って久々に食ったけどこんなに美味いのな!」
「そうかい、良かったよ。」
「鈴風くん、、、!これは美味だよ、、、!とても美味しいね。」
「そりゃあ良かった。」
マジでうまいうまい言いながら食べる2人を見ながら考える。
なんか、、、渓の方は動物園そのものだな、、。
もぐもぐ食べたり、手でぱくぱく口に放り込む辺り、動物っぽさが出てる。
そんで江原の方は、、、。
ただの餅食ってるだけなのに、いいとこの貴族的な物のデザートみたいに食べてやがる!
添えられていた木のなんか爪楊枝の進化バージョンみたいな櫛を誰から教わったのか知らないが、器用に使って、すごい上品だ、、、、。
日本和風の庭園とかに餅食ってる江原置いときたいくらいだな。売り上げ上がるぞたぶん、、、。
「しかし江原は食べ方綺麗だな。なんか言われてんの?」
「うーん、言われてると言うと少し違うかな。うちは昔から茶道も少し嗜む程度にはやっていてね。習わされるんだよ四歳の頃に。」
「茶道!?四歳!?すごくね!?」
江原が衝撃のカミングアウトをすると、渓も乗っかってきて驚いている。
いや茶道て、、、。
相変わらず江原はほんとすげぇな。
育ちが良いってレベルじゃねぇぞ!!!?
まぁ、流石ですねって感じで置いておこうか。
と、そんなこんな会話していて、自分が会話に没頭しすぎたせいで、桜餅を食べてないことに気がついた。
おっといけない。こういうのは早めに楽しんだほうがいいんだもんな、、、!
さて、いただきましょうか、、、、ん???
俺が桜餅に手を伸ばそうとした時には、既にパックからは桜餅が全て消えていた。
「え?」
そう言いながら江原を見る。
とっくにデザートは済ませたのか、いつのまにかゴミや皿も片付けられている。
「え?」
もう一度疑問を口に出し、渓を見る。
やはりこちらも既に桜餅タイムは終わっていたようで、ゴロゴロ寝転びながらのんびりとしている。
.....は?
「おぉぉぉぉぉおおぉぉおおいぃ!!!!テメェらどんだけ食ってんだよ!?なにこれ!!!もう桜餅一個も残ってねぇじゃねぇか!!俺一個も食べてねぇんだぞあぁ!?!?」
いきなり暴れ出す俺を江原が止める。
「まぁまぁ、鈴風くん落ち着いて。すまないとは思ってるんだ。でも、あまりに桜餅が美味しすぎてね、、、ふふ、、。ごちそうさまでした。」
「はぁぁぁぁ!?すまないって思ってんのか!?思ってたとしても全部食うなよぉぉ!!」
江原はそれっきり、ごめんごめんと言ったっきり片付けを始めだんまりしてしまった。
渓の方を見ると、食った食ったと言いながら満足そうに腹を触っていた。
はぁ、、、もう怒る気も失せた、、、。
俺が買ってきた物だから所有権は俺にあるだろ!
とまでは言わないが、流石に酷くないか、、、?
だって俺だって桜餅食いたいよ?
久しぶりの他人の金で食うデザートを食べたいんだよ?
君たち酷いよね?
ちくしょー、、、このまま俺は桜餅を食べずに死んでいくのかな、、、。
「っ!?」
そんな風に悲観的になりしょぼくれていた俺の口に、なにか甘いものが急に入り込む。
なんだ、と思い味覚、嗅覚を働かせると、どうやら甘い物の正体はさっきから俺が悲観的になっていた理由の桜餅だった。
なぜという感情の次には美味しいという感情が溢れていた。
「、、、、美味い。」
「ふふっ、良かった!紅くんしょんぼりしてたから、、、甘いもの食べたらいいかなと思って!」
そうやって、ふふっと笑いながら俺に笑顔で桜餅を口に入れてくれたのは、青葉だった。
え、なんか恥ずかしいな。
今、あの男たちが憧れる女の子からのあーんをして貰えたわけですか?
いや、正確に言うと不意をつかれたわけだから、あーんじゃないけど。
とりあえず、貰ったものにはお礼を言わないとと思い、それを伝える。
「ありがとう、、、。悪いな。」
「ううん、全然!」
どうやら、不貞腐れている俺を見て、自分たちの分の桜餅を譲ってくれたらしい。
ありがてぇぇぇ、、、、、。
朝からろくに寝ずに桜餅をいくつかお店周って探してダッシュで買ってきて疲れた身体に染みるわ、、、、。
「青葉は桜餅どうだったんだ、、、?」
俺が桜餅を買ってきた理由となった青葉に聞く。
ここでの解答で俺のこれからのテンションも変わってくるってもんだ。
「うん、すごく美味しかった。ありがとう紅くん、買ってきてくれて!」
「そうか、それなら嬉しいよ。青葉もありがとな、俺があげた物なのに俺に食べさせてくれて。」
俺がそう言うと、青葉は首を振りながら
「ううん、全然!私は私に桜餅を食べさせてくれた紅くんにも、食べて欲しかっただけだよ。」
「そっか、、、。ありがとな!」
俺たちはお互いに笑い合いながら、桜餅の感想を言い合った。
「ええですなぁー、、、!」
「あぁ、、、同感だ、、!」
と、そんな俺たち2人をニヤニヤしながら見てる2人がいた。本堂渓と山吹楓だ。
なんだよ。と思いつつ2人に話しかける。
「んだよ、何話してんの?」
と聞くと、2人はニヤニヤを続けながら言う。
「いやいやー、なんでもないよー。もっと感想言い合ってよ2人共。」
山吹がそんなことを言う。いや感想は今言い合ってたでしょ。もっとってなんだよ。弁当屋か?なんか温かそう。
「俺たちは眺めてるだけで十分だ。むしろそういう状況にしてやるためにコウの分まで全部食ってやった俺に感謝してくれ。」
「青葉ちょい待ってて、あいつぶん殴ってくる。」
「うん?行ってらっしゃいー。」
苦笑いをしている青葉を置いて、俺は
「なんだよ、、、、、ってぇ!」
ニヤニヤしている渓をバコンとしばいてやった。
「マジで次そんなこと言ってみろしばくからな?」
「今のはしばくには入らねぇのかよ。」
やいやい言い合う俺と渓を見て、今度は青葉と山吹が2人で笑っている。
あちらを見ると、片付けをしている江原と飯島も俺たちを見ていたのか、笑いながら片付けている。
クソ、全員に笑われてんじゃねーか。
でも、こんな俺たちも悪くないなと思う自分もいた。
桜が咲けばその下に人が集まり新たな縁が現れる。
桜が散ればその下で人が集まり仲が深まってゆく。
桜が散れば、寒かった冬景色も終わりを迎え、雪解けと共に新たな仲間たちや古い仲間たちと暖かい空のもとで各々が芽を育てる。
このみんなと過ごす内に、
桜を観れるのもあと一回のみ。
その頃俺たちは、どんな桜を見ているのだろう。
そんなことを考えあくびをしながら、俺は散る桜の道を一人で歩き出した。
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