第28話 サプライズdear青葉
私は、昔から遠慮がちな人とよく言われていた。
何をするにもまずは他人優先。
家族がこれを食べたいあれをしたい、これをしてみなさい、あれをしてみるといい、などと言われたことも、自分の意見はとりあえず後回しにして家族の言うことをまずは最優先していた。
友達といてもそうだった。
「青葉ちゃん、〇〇に行こうよ!」
「うん!」
「青葉ちゃん、ごめんこれやってくれない?」
「うん、いいよ!」
「望月、これ頼めるか?」
「はい、わかりました!」
友達、知り合い、先生、大体の人の頼み事やお願い事はあまり断る事はしなかった。
別に偽善者を気取っているわけではなかった。
ただ、自分のやりたい事とか、自分の意見に比べたら他人が言うことの方が正しいと言うか、合ってるような気がして、、、。
そんなこんなで私も中学三年生になった。
とある人とクラスが同じになった。
ある日、私がいつも通りに先生から頼まれた事を手伝っていると、その人が話しかけてきた。
「なぁ、こんなこと聞くのも悪いんだけど、つまんなくないか?」
「へ?」
その人は、中学二年の頃に知り合って、時々話すようになった人だった。
私の中での第一印象は、変な人だ。
その人は、まず自分が最優先、、、というと悪く聞こえるかもしれないが、普段はおとなしそうであまり前に出ていくタイプではない感じだった。
でも、知り合って話してみると、普段とは打って変わって思っていたよりも明るいというか打ち解けやすくて、意外と我の強い人だった。
私は、最初からその人の生き方には若干感動していた。
何故なら、何事にも囚われずに、自由にしているその人を見て、自分にはできないものを持っていると思ったからだ。
そんな自由な人なら、周りから距離を取られているのではと思ったが、どうやらそうではないみたいだった。
その人の隣には、いつも決まった男の子がいた。
その男の子と話す時のその人は、誰と話すよりもアイデンティティが強く周りから見ても互いに打ち解け合っている二人のように見えた。
というか実際そうだったのだ。
いつも二人は楽しそうで、ときには冷たかったり、面白くなさそうな時もあるが、結局は二人でいることが多い。
そんな二人をみて、羨ましくも思った。
私にはない、本当の友情というか、互いに見返りを求めない本物の友達という感じがしたからだ。
そう、その人こそ鈴風紅という男の子だ。
そんな彼だからこそ、私にこう質問してきたのも必然だったのかもしれないと今になって思う。
「いや、、、別につまらなくはないよ。なんで?」
私が聞き返すと、彼はだってと言葉を紡ぎ、
「望月、なんか合わせ主義じゃない?」
と、そんなことを問いかけてきた。
「合わせ主義?」
「うん、なんつーか、自分より他人を大事にしてる気がする。俺は、自分主義だから、わかんないけど。」
「ふふ、自分主義って何?初めて聞いたよ?」
私は面白くなって少し笑ってしまった。
でも、彼は真剣な表情で
「望月は、もっと自分を甘やかしてもいいんじゃないか?」
そう言った。
私は別に自分に厳しくしてきたつもりは微塵もなかった。
普通に厳しくもなく、甘くもなくやってきたはずだ。
でも、彼はもっと甘くと言った。
「そんなに自分に甘くしてもいいのかな?」
「いいだろ。だって」
「自分は好きだろ?」
そう言われた瞬間、私の中の価値観が更新された気がした。
自分に甘くする理由、それは、
『自分が好きだから』だと。
私は、なぜだか納得はできた。
彼が言うからじゃない。
私が彼を信頼しているからだ。
それから私は、とりあえず自分の優先度をあげてみた。
「青葉ー、〇〇いこーよー。」
「うーん、、、こっちも行きたくない?」
「青葉ちゃん、ごめんこれやってもらえる?」
「今は無理かな、ごめんね!」
「望月、これも頼めるか?」
「あ、これ以上は忙しいから嫌です。無理です!」
「えぇ、、、。そうか、わかった。」
とにかく了承して、了承して、了承するのを、
了承して、断って、了承してくらいに変えた。
こうしてから、少し気分が良くなるような感じがあった。
気持ちが軽く、前よりも義務感がなくなった。
彼には、感謝しないと!そう思った。
中三の秋だった。
私の転校が決まった。
そして転校する前日、今のクラスのみんなや友達に別れを言う時、彼はいつも通りだった。
いつも通り、隣の親友と言葉を交わし、笑い、怒り、バカやっていた。
その姿に安心を覚えつつ、いつかまたどこかで会えた時、もう一度お礼を言おうと決めていた。
遂に私が学校から帰る時に、彼は話しかけてきた。
「短い間だったし、そんなに話してもなかったけど、ありがとうな!楽しかった!」
「うん!私も!ありがとうね、またね!」
「おう、、、あ、そうだ。」
「、、、、?」
私が疑問を抱くように振り返ると彼は言った。
「最近の望月は、やりすぎなとこもあるけど、自分を優先できてたし気持ちも楽そうだった!」
「うん、そっか。それなら良かったよ!」
それだけ言って、私は本当に学校から出て、次の日転校した。
彼は、私の価値観を一つ変えてくれた恩人だ。
少なくとも、私は恩人だと思っている。
だからこそ、また会えたらいいなとずっと思っていた。
※※※※※※※※※※※※※※※※
「青葉!」
名前を呼ばれた。声からしておそらく彼だろう。
「何?」
そう言いながら振り返る。
「え、、、」
私は驚いておもわず声が漏れる。
意識して出して声ではなかった。
「ほらよ、青葉。サプラーイズ!」
そう言って彼が差し出したのは、桃色の美味しそうな餅に、塩漬けされた桜の葉が巻かれた和菓子だった。
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