第22話 舞う桜、散る桜


はぁ、、、はぁ、、、。



疲れた。めっちゃ疲れた。




でも、やれるだけの事はやった。



満足だ。




俺は小走りで、桜が舞い散る道を通る。




俺にやれることはやってきた。




あとは、、、、、。うん、大丈夫なはずだ。




だが、目的の為に時間をかけすぎて、

本日10時集合の花見イベントに少し遅れている。




徐々に公園が見えてきた。



あぁ、桜はやはり綺麗だなぁとそんなことを思いながら俺は走る。




この公園は近所にある公園と違い、かなり大きめの公園だ。間違いなく、昨日行った大型スーパーよりも大きいだろう。




こんな大きい公園で他の一般人も来ている中、学校のイベントで許可を取って場所を用意したとなると、先生達もなかなか粋な事をしてくれるもんだ。




そんなこんな思いつつ走っていると、入り口付近に細身ながらしっかりした身体つきで長身の先生らしき人が立っていた。




誰だあれ?




近づいてくると、話しかけてくる。




「鈴風、遅刻は良くないぞ。花見イベントなのに遅刻とは、、、楽しみじゃないのか?」





花見イベントは別に楽しみでもないし嫌でもねーよと思いつつ、この人物が誰かわからないので聞いてみる。




「はぁ、、、。ところでどちら様ですか?」



「なっ、、、、!」




酷く驚いた様子だ。




ん?何か癇にでも障ったかな?



「おいおい、、君とは別れたからまだ2週間しか経ってないはずだが?」



「いやいや、そんなこと言われてもですね、、って2週間って十分長いでしょ。アニメ2話分進みますよ?」




2週間が短いと言っているやつは、アニメ見ないやつか労働してないやつ、もしくはしすぎなやつである。



アニメで言うと、2話っていったらかなり内容進むからね?


12話アニメなんて2話見逃したらもう内容わかんなくなるからさー。




あと、仕事で言っても2週間は長いでしょ。



1週間過ごすだけでもキツいのに、それの倍だぞ?




サザエさん症候群二回は受けることになるぞ?



そんな2週間という期間を、短いとか言ってるこの男性には異議を申し立てたい。



「はぁ、、、それを本気で言ってるんだから、君は面白いやつだと私は思っているんだ。」



褒められたのか?それとも皮肉か?



そこはどーでもいいか。




「そうですか、、、、、あ、もしかして江口先生ですか?」




俺が聞いた瞬間、聞いただけなのに江口先生と思わ

れる人物は、パッと嬉しそうな声になる。



「おお、そうだ!いいぞ鈴風。もしかしなくとも私は江口だ。」




やはりそうか。



このテンション、この見た目、忘れられないよ。



忘れてたけど。



そして慌てたように江口先生は話を始める。




「そうだ、鈴風。遅かったじゃないか、どうしたんだ?」



そこは触れると長くなるんだが、、、。



まぁ、いいか。



この人ならテキトーでも大丈夫だろう。



「実はですね、、、、。」




俺は、ここまでの経緯と行動を簡潔に説明した。



「こんな感じでして。」



すると江口先生は手を顎に当てながら言う。



「なるほどな、、、行ってこい。」



「え?」



行ってこい?あ、もういいのかな。




この人にしては珍しく、言及や詮索はしてこなかった。助かるな。



「はい、なら行ってきます。」



俺はスタスタとみんながいるであろう場所へ向けて進み出す。



俺が数歩ほど歩いたところで江口はこちらを向き、




「鈴風!お前は良いやつだ。私が認める。」



ほぉ、、、それは嬉しいじゃありませんか。



そして立て続けに、



「だから、、、行ってこい!遅刻なんて関係ない!」



「はい、ありがとうございます。行ってきます。」




何やら少し感動しているようだった。



遅刻許されたってことでいいのか?

そんな大層なものか?と俺は思いながら歩く。




賑やかな喧騒が耳に入ってくる。



それと同時に、桜が今まで以上に舞い、みんなの姿が確認できた。



とりあえず報告をと思い、真餅先生を探す。



お、いたいた。よかったー。



俺は真餅先生に近づいて、話しかける。



「おはようございます、真餅先生。江口先生が復活したんでいなくなってたら悲しいと思いましたが、会えて良かったです。」




そう伝えると真餅先生は少し頬を赤色に染め、慌てた様子になる。




「鈴風君、おはようございます。、、、そんな会えて良かったなんて、、、。生徒に言われたのは初め

てですよ!もう、、、。」



真餅先生は恥ずかしげにそう言う。



真餅先生って結構可愛いよな。



20代前半くらいに見えるが、どうなのだろう?



江口先生より可愛いからこちらの方がいいんだけど。



わかってくれる人どうかいてくれ。




「遅刻してすいません。実は、、、、。」




俺は江口先生に話したこととほぼ同じように真餅先生に伝える。



「そ、そうでしたか。それは仕方ないですね、でも遅刻はダメですよ!」



と少しさっきより怒ったような声で俺に言う。



あ、あれー、、、おかしいな。



さっき悪くない感じだったのに、、、やはり遅刻というのはどんなに良い関係でも悪いことなんだな。



反省、反省。




「でも、私も少し嬉しかったですし、今日は多めに見ておきます!はやくみんなの所に行ってきてあげて下さい。みんな待っていますよ。」




「みんな、、、。そうですか、はい。行ってきます。ありがとうございます。」



みんな待っている、、、か。




その言葉を聞いたからか、ここまであまり寝てない状態で早起きして走ったからか、



俺は急にどっと疲れがきたような気がした。




このセリフにだけは騙されない。




俺は生まれてきて、このセリフがあった後に本当に誰かが自分を必要としていて、誰かが自分を待っていてくれたことなんて一度だって無かったからだ。



結局、そんなのただの建前。



言っておかないと、遅れてからみんなに会いにくいからだ。



だから先生や大人は決まってそう言う。




そんなの、ただの嘘にしか過ぎないというのに。





散り行く桜は、この後の自分を写しているようで、少し怖かった。




俺はそんな、憂鬱とは何か違うモヤモヤを抱えながら、みんながいる桜の木の下へと向かった。

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