第21話 俺にできること
江原が後ろから話しかけてきた。
随分早いな、、、まさか全部買ってきましたとか言わないよね?
そんな心配をしていると、青葉が江原に言う。
「江原くん、まだあまり時間が経ってないけど、無い物でもあった?」
と、青葉は実体験を混じらせ少し落ち込んだ声になりつつも質問する。
しかし江原は首を横に振り、
「いや、僕が担当したものは一応全て揃えたよ。コップ、お皿、そして椅子だね。」
「早いなおい。でも、椅子もあったか。よかったよかった。」
まぁ、江原くんが早いのはいつもの事だもんね!
もう若干慣れつつある自分が怖いよ!
というか、江原くんが1番ヤバいよ!
おそらく、江原は自分のヤバさにはあまり気付いてないんだろうが、別に気づかせる必要もないので、そこはスルーとする。
江原は、俺たちの前で止まると手から一つパックのようなものを出した。
「はい、これお寿司だよ。お花見は、お寿司とかも合うんじゃないかと思ってね。」
マジ、、、かよ、、、。
これに関してはマジでタイミングぴったりだし、
正直俺も驚いた。
何勝手に自分の管轄外の仕事しちゃってんだよ。
とりあえず、取りに行く手間は省けたので感謝はしておこう。
「おお、ありがとな江原。ちょーど今から寿司買いに行くとこだったんだよ。」
「うん、ありがとう江原くん。」
俺と青葉がお礼をしたのを聞いて江原は、
「お、そうだったのか。それなら何よりだよ。僕も役に立ててよかったよ。」
はぁ、、、。その爽やか笑顔が眩しい!
スーパーの少し強い証明のせいなのか、江原の爽やかすぎる笑顔のどちらかのせいだということはわかった。
「よし、なら揃ったしレジに行くか。」
「そうだね、3番レジが空いていたよ。」
さらっと江原が言う。
あんたどんだけ周り見てんだよ、視野鷹か何かですかね。
そんなこんな言い合いながらレジへと向かい、商品を購入する。
「お会計3800円になりまーす。」
と、こなれた感じのおばさまがレジを打ってくれる。
しかしアレだな、6人分の和菓子とお寿司で3800円とかマジで安いな。どこのなんとかゼリアだよ。
お値段以上とはまさにこの事である。
どこのナニトリだよ。
あの歌めちゃくちゃ頭に入ってくるんだよなぁ。
一度聞いただけで忘れない歌ランキング上位だろ、絶対。ふふふん、ふふん、ふふりっ(CM風)
レジにて、6人分の食料を購入した俺たちは、
買った物を全て確認しながら、袋に詰めていく。
「よし、こんなもんか。」
「そうだね、お疲れさま。」
バタバタとしたスーパーのレジ付近の雰囲気に合わせ、俺たちも急いで買った商品を袋に詰めていく。
一仕事終わった安堵からか、ふぅーと長い溜息をついた。
さて、帰りますかね。
花見イベントはいよいよ明日。
何事もなく平和に終わってくれるといいものであると思いつつ、三人でスーパーを出る。
「じゃあ、ここで。また明日、よろしく頼むよ。」
江原が自転車を押しながらスーパーを出たところで言う。
江原は自転車で来たので、電車で来た俺たちとは方向も移動手段も違う。
なーんでここから自転車で帰れるのかねぇ。すご。
「あぁ、おつかれさん。」
「うん、、、お疲れ様。」
俺の後に続いて喋る青葉の声はどこか悲しさを孕んだような、そんな声だった。
「、、、、帰るか。最寄りまで送るわ。」
「うん、、ありがと。」
帰り道も、特に会話が弾むわけでもなく、車道を走る車の音が、やけに耳に残るだけだった。
改札に入って、ホームに並び、電車を待つ。
「荷物は、俺が全部持って帰るわ。」
しかし青葉は首を横に振りながら、
「いや、いいよ。私も半分持つよ。」
と言う。
うーん、、、でもなかなかに重いし、これを青葉に持たせて帰るのは心配というより、悪い気がする。
「いや、いいって。俺力は一応あるから、任せてくれ。」
すると、青葉は頷きながら言う。
「うん、わかった。じゃあ、お願いします。」
「了解。」
そんなやりとりをしていると、電車がきた。
激しい停車音を響かせながら、ホームに止まる。
「やっぱり、送ってもらわなくていいよ。一人で帰るよ。」
電車の扉が開くと同時に、青葉は言った。
「そうか、わかった。」
本人が言っているんだ。それを否定して俺も行くというのはなにか違うだろう。
青葉が電車に乗りこみ、電車は動き出す。
扉が閉まった後も、青葉の顔はどこか浮かない様子だった。
子供くさいと誰もが思うかもしれない。
諦めが悪いと言われるかもしれない。
でも、そらほどに青葉はイベントを楽しみにしていて、大切に思っているんだろう。
何を食べるかの案を授業中に話している中で、
山吹と飯島と青葉が楽しそうに桜餅の話題を喋っていたのを少し聞いた。
青葉は自分勝手な理由で落ち込んでいるんじゃない。
おそらく、山吹たちに私が買ってくると約束でもしたのだろう。
それを守れずに悔やんでいるように青葉の表情からは感じられた。
俺はどこまで行っても裏方だ。
主人公になりたいと思ったこともある。
主人公だと信じている時だってある。
でも、ほとんどの場合俺はいつも裏方だ。
いつだって、渓や江原、そんな人物たちを裏で本人も気がつかないくらいの支えをしてきた。
それでいい。
俺の役目は王道主人公なんかじゃない。
良く言えば裏表両刀持ち、悪く言えばその場しのぎの連続だ。
でも、だからこそ、俺にだってやれることがある。
裏方なら俺の専売特許だ。
※※※※※※※※※※※※※※※
アラームが鳴った。
俺の相棒の携帯が起きろと言ってくる。
外はまだ明け方と言ったところだろうか、
まだすこし暗いような感じがした。
まだ寝かせてくれなんて今日は言わない。
さっさと着替えを済まし朝食も取らないまま、
俺は目的地に向かった。
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