第14話 恋をした者
はぁ、、、どうやら俺の親友は恋をしてしまったらしい。
面倒な事になったもんだ。
いいか?恋というのはたしかに尊い物だ。
だが、同時に自分の全てを犠牲にする覚悟があってこそ成り立つものだ。
何故かって?
そんなの、今まで俺が人生で見てきたからだよ。
恋したはいいものの、その後自分が好きな子のことしか考えられなくなり、成績は落ち、人間関係も曖昧になり、そして恋した相手に冷めた時、その人には何が残るだろうか?
何も残らない。
たまに、その恋をしていた期間こそ宝物だとかいう綺麗事を言う奴がいるが、どーも理解できない。
たしかに、宝物は宝物かもしれない。
だがしかし、それ以外の事をほぼ全て失ってる状態で、自分の元々の目的が無くなった時、その宝物とやら1つで何が出来るんだ。
このように恋というものは、それ以外の全てを犠牲にできるという確証を得てからするべきだ。
だが、、、
おそらくアイツはそんな事、微塵も思ってないだろうな。
なにせ恋をしたら人は細かいこれからの計算をすることは出来ないからだ。
だがしかし!!!
言っても俺の親友だ。
俺だって応援をする。
ここまで色々言ってきたけど、渓には幸せになってほしいし、ならなくてもそれでもいい。
まぁ、当たって砕けた所であいつが長い間も落ち込むわけがない。
やれるとこまでは付き合おう。
そんな事を考えながら、電話は意味がわからなさすぎたので、「後で聞く」とメッセージだけ送っておいて、江原に話しかける。
「すまん、なんか呼ばれちゃったみたいだ。色々と助かった。ありがとう江原、ここは任せても、、、大丈夫か?」
「あぁ、構わないよ。呼ばれたならそちらに向かってくれ。もちろんここは僕に任せてくれ。先生を呼んで事情を説明の後、この三年生を連れて行くよ。」
そう親切に微笑みながら言う。
「すまんな、何から何まで。」
すると、江原は首を振りながら
「このくらい何ともないよ。鈴風くんも、気をつけてね。」
やだなにこの人、男でもときめきそうになるオーラを纏っている。
これぞできる男ってかんじですな。
いや、できる漢かな。
それこそ、美青年なので、漢ォォ!という感じではないが。
「あぁ、助かる。」
そういって俺は江原と別れた。
江原は俺が見えなくなるまで、手を振り続けてくれた。
だからいちいちカッコいいんだよなあいつ。
さてと、渓に折り返し電話いれるか。
面倒とは思いつつも、電話をかける。
「もしもし、、、コウか?」
渓はワンコールで出た。
すげぇな、どんだけ待ってたんだよ俺のこと。
まぁ、待てができる良い子なのを確認して用件を聞く。
「で、どうしたんだよ。恋とか言ってたよな?」
コイしか聞いていないので、鯉を飼い始めたとかかもしれないし、故意に人をやっちゃったとかかもしれない可能性も捨てずに持ちつつ、要件を聞いたが、
どうやらそのどちらでもなかったらしい。
「そう、俺は恋をしたんだ。あの、楓という女の子に!!!」
楓?誰だそれ。
人の名前を覚えるのが、勉強の次に苦手な俺に名前を言ってもわかるはずがない。
言ってしまえば、
さっきまで喋っていた完璧超人イケメンの名前ですら、スッとは出てこないまである。
なんだっけ?
江、、、、江ーと、、、、、。
いかん考えすぎて漢字でひらがな扱いをしてしまう。
たしか焼肉のタレとか販売してそうな名前、、、。
江、江、江、
エハラ!エバラじゃないエハラだ!
江原だったと思い出した気持ちよさから少し嬉しそうな声になりながらも同時に渓に聞き返す。
「楓?誰だよそれ、メイプルシロップ食べたくなるような名前してんな。」
「いや、コウのその考え方はよくわからん。」
え、そう?
みんな楓といったらメイプルだからメイプルシロップ思いつくよね?
みんなそうだよね?え?違う?
処刑。
楓とメイプルシロップは繋がるのか議論を脳内で、白熱させつつ渓が話し始めるのを聞く。
「山吹楓だよ、知らない?今年同じクラスだぞ。
めっちゃ可愛いんだからな?マジでコウも見たらびっくりするって。」
「山吹楓かー、、、知らんな。」
でも、可愛いのかー。
山吹楓、略してメイプルシロップちゃん。
略せてねーけど、たしかに可愛そうな名前してるわ。
「さっき、望月を探してたから、一緒に探してたんだけどな、仕草とか顔とかめっちゃ可愛いんだよ。」
「おいそれ気をつけろよ?女の子ってのは仕草を可愛いと思った時点でお前はすでに負けてんだからな?」
あれは中1の時、漫画でめっちゃ可愛くて、それこそ仕草とかヤバイくらい可愛かった女の子がいて、その子を推してたんだが、ストーリー後半になった時その子が実は敵で今までのが全部嘘の演技だって知った時はさすがに驚愕したぜ。
いやほんとに、あざとい系には気をつけた方がいい。マジで。ただのビッチだから。ほんとに。
自分のトラウマと重ねて渓に指導する。
だがそれが不服だったのか、渓は納得のいかない様で、反論してくる。
「ほんとーに可愛いんだよ。そーゆーあざといビッチ系じゃないって俺にはわかるね。性格も良さそうだったし。」
「うーん、、、そういうのが1番裏あるもんなんだよなぁ、、、、。」
それが暴走列車の引き金だった。
「は?お前楓ちゃん舐めてる?舐めてるよなぁ?会ったこともないのに楓ちゃんを悪く言うような事をベラベラベラベラ喋りやがって。会ってみろよ、絶対そーゆービッチなキャラじゃないってわかるぞ。俺は一緒に少しの時間を過ごしたけど、最初から失礼な態度は一切無かったし、ほぼずっと笑顔だったし、不満一つ言わなかったし、俺に礼も言ってくれた。仕草が可愛いのは天然だろ!狙ってやってるわけがねぇ。大体お前、女の子の何を知ってんだよ?ゲームとか漫画とかアニメで出てくる様な女の子と現実の女の子は一味も二味も違うんだよ!!!それをちょっと知ってるかの様に語ってんじゃねぇ!謝れ!楓ちゃんと俺に謝れ!!!楓ちゃんはもう俺の初恋相手なんだよ!!俺が恋したんだから、その子が悪い子なわけねぇだろ!!気遣いだってできるんだぞ!!?」
「あの、、、、、、はい。わかった。オーケー。」
もう、言葉はいらなさそうだった。
最後の方ゼーゼー言いながら喋ってたし。
とにかくなげぇよ。あとながい。そんでながい。
あまりの鬱陶しさに、俺は言葉が出なかったので、はいとだけ言っておいた。
まぁ、これで渓が本気だってことはわかったから、応援はしてやろう。
こんないつも通りでカオスで平和な会話をこれからも続けていたいと、心のどこかで俺は思っていたのだろう。
そんなことを、春の昼過ぎ、暖かい風を受けながら俺は思った。
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