第11話 化物のち、恋
「そこまでだ。」
そう短く告げ、俺の腕と三年の腕を強く握っているのは、爽やかげだが声に強さのある、美青年だ。
クソ、、、こいつめっちゃイケメンじゃん。
今は周りに女子がいないからいいものの、こんなの周りに女の子の1人や2人居てみろ、
絶対に顔だけで落ちるだろう。恋にな。
流石にアニメとかでありがちな、完璧超人イケメンが存在するとかいうの、こいつの様な気がするんだけど、、、、。
気のせいかな?気のせいであってくれ。
腕を強く掴まれた三年は、それだけで喧嘩を売られたと思ったのか、謎の美青年にもう片方の腕で殴ろうとする。
「んだテメ、、、オラァ!」
が、
「ガハッ、、、!」
「暴力は駄目ですよ、先輩。」
またもや、振り上げられた腕は美青年の細い腕に掴まれ、強く握り締められた。
あまりに強く握っているので、三年の奴も唸り声が出てしまっている。
俺の方はといえば、敵意はないと感じてくれたのか、握るのを緩め、放してくれた。
しかし、三年はまだこりないようで、美青年に蹴りを入れようとする。
「舐めてんじゃねぇぞ、ゴラァァ!!」
が、これもまた、美青年が軽く出したつま先が三年の脛に当たり、そのまま両腕を握って前に放り出す。
そして、脛を蹴られ、急に握られていた両腕を放された三年は重心を定められず、バランスが崩れる。
「っ、、、、!」
三年は短く舌打ちをしながら、後ろに倒れかける。
美青年はその倒れかけている三年のみぞおちに振り上げた腕と拳を叩きつける。
「ぐはっ、、、、ゴエッ、、。」
ボスっと鈍い音がして、嗚咽をした後三年はそのまま気絶し倒れてしまった。
そしてこの一連の流れをほんの数秒でやってみせた美青年は、俺に向き直り、口を開いた。
「驚かせてしまってすまない。この先輩から敵意と悪意を感じたので、鈴風君に危険が及ばない様に気絶させた。大丈夫、大きな怪我はないよ。鈴風君も、、、大丈夫か?」
なにこのイケメン!なんか、俺でも勝てた相手だけど、助けられた感がすごい!カッコいい!
「あ、あぁ俺は大丈夫だ。それより、えーと、俺の名前を知ってるみたいだけど、あんたは?」
そう問うと、美青年は爽やかに答える。
「あぁ、すまない自己紹介が遅れたね。僕は、二年A組の江原海斗。鈴風君とは同じクラスの筈だよ。」
江原海斗か。OK、久しぶりに印象に残る人物だから覚えたぞ。江原、江原、エバラっ!
駄目だなこりゃ。
まぁ、自然と覚えていくだろう。
「江原か、、、よろしく。俺は二年A組の鈴風紅だ。、、、ってもう知ってんのか。」
「あぁ、鈴風君の事は、よく覚えているよ。何せ、僕が唯一敗北を知ることになるかもしれなかった原因なんだからね。」
そう笑顔で言う彼の言葉には、少し引っかかった。
俺が江原に敗北を知らせる、、、?
何のことなのだろうか。
俺は思い出せない。
いや、、、思い出したくもないのかもしれない。
まぁ、考えても仕方ないので、取り敢えず人の名前を覚えれた俺に拍手ーーー!
しかしこの江原という男、すごいな。
まず、あの細くてすらっとした身体のどこにあんなパワーがあるんだ。
俺も腕を握られた時は痛かったし、三年に至っては、あのまま放されずに握られ続ければ、手首が壊死していた所だろう。
それにあの技術だ。
戦闘スタイルを見るに、何かやっていた動きだ。
それも一つじゃない。複数混ざっている様な感じだった。
俺はそんなに詳しくないのでよくわからないが、
すごいという事だけはわかった。
なんだこのtheバカっぽい発言は。
そんなことを思いつつも、俺は苦い顔で答える。
「敗北?何のことかわからないけど、あんなにすごいパワーあるし、顔も良いし、敗北なんて人生において知らなさそうじゃんか。」
しまった。
ついいつもの癖で、皮肉めいた返答になってしまった。これは俺の駄目な癖だ。
自分より上の何かを持った人に言われると、つい一つや二つ皮肉が混ざった発言をしてしまう。
自分のクズ加減に心を痛めつつも、江原は笑って返してくれた。
「はは、そんな事はないよ。僕だって、負ける事くらいある。例えば、光や音の速さには勝てないだろう。それに、握力で言っても、ゴリラには勝てない。ね?」
何を言ってるんだこいつは。
比べる対象がバグってやがる。
自分の速さを謙遜する時、普通人というのは、プロと比べたり、世界チャンピオンと比べるものだ。
それを、軽く乗り越えて比べる対象が光?音?
じゃあなんですか、世界チャンピオンには勝てるんですか?
と言ってしまいたくなる俺の気持ちをわかってくれる人はいるだろうか。
いやきっといるだろう。いてくれ。
あと、光と音で比べた事に衝撃すぎて聞き逃しかけたけど、何?こいつの親ゴリラなの?
そんな感じのこと言ってなかったけ?
「いや、まず音と光で比べてる時点でおかしいから。50m走何秒なの一体。」
俺は、苦笑しながら詮索の意味でも問いかける。
「50mか、、、もうしばらく測ってないけど、中学の頃は、たしか5秒、、、だったかな?」
「は?」
「いや、すまない実はその時風邪をひいていたみたいでね。本当にしんどくて軽くしか走れなかったんだ。」
「は?」
相手に対して同じ返答をしたのは、いつぶりだろうか。
やばい、やばすぎる。なんなんだこいつは。
まず、50mが5秒?
たしか世界記録が5.4秒とかだった気がするぞ。
それだけなら、ただの天才に聞こえるかもしれないが、化物発言はこの後だ。
風邪をひいていて万全じゃなかった?
てことは、万全なら余裕で世界超えるって事ですかね?解釈あってます?というか、生まれてくる次元あってます?
はぁ、、、もうなんか数十秒会話しただけなのに、1日過ごすより疲れた様な気がする。
もう、これからはこいつと関わるのは最小限にしよう。
俺はこんなやつと関わっていけない。
本能でわかってしまった。
そんな返事に困っていた時、ふいに俺の携帯が鳴った。
「あ、江原すまん、電話だ。」
「あぁ、構わないよ。」
誰だ?
渓か!!!
ナイス!でかした!よくやった!
何の用か知らないが、とりあえずこの地獄みたいな会話を中断させてくれてありがとう。
お前には夢の中でジュース奢ってやる。
俺は夢中になりながら、電話に出る。
「どうした?」
「紅、俺な、、、、。」
「恋、、、しちゃったかもしれん。」
「は?」
俺は本日三度目の、同じ返答をしたのであった。
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