第9話 みたび、感謝をし、紅は眠りにつく


眠い。痛い。眠い。痛い。痛い。




眩しい。



眩しい?



あぁ、そうか。



自分が今再び保健室にいるのだと気づく。



目を開けると、青葉、渓、江口先生がいた。



「んあ、、、俺は、、、、。」


何をしていいかわからず、とりあえず時計を見る。



もう12時になっていた。



気づけば、腹も少し減ってきたようだ。



そんなことを考えていると、

江口先生が口を開いた。



「鈴風君、大丈夫か?あの三年生達は、生徒指導室に送っておいた。望月も無事だ。」


あぁ、良かった。


どうやらあの後、江口先生が来てくれたようだ。



意識を失ったので、少ししか記憶はないが。



「いやー、目を覚まして良かった良かった。俺もあいつらボコしたからよ、安心しろよコウ。」


安堵と自慢が混ざったように渓が話した。



渓も来てくれていたような気がする。たぶん。




それよりも、青葉だ。



青葉は大丈夫だったのだろうか。



その事が引っ掛かり、それ以外の疑問が逆に浮かんでこない。



俺も随分、真人間になっちまったもんだ。




そう思いつつ、先生に聞こうと、口を開いた時に俺より先に青葉が泣きそうな様子で口を開いた。



「紅君、ごめんなさい!!私、あの時止めれずに、逃げて先生を呼びに行って、その間に紅君はずっと、殴られ続けて、、、、何もできなくて、本当にごめんなさい!」



青葉なりに責任を感じているのか、そう謝ってきた。だが、違う。



どちらかと言えば、謝るべきは俺だ。



階段から落ちて、助けてもらって、保健室で待っていてくれて。



それなのに俺は、帰り道に出会った三年生達の青葉への言い寄りを止められずに、それどころか暴走させてしまって、俺一人でなんとかしないといけなかったのに、青葉や渓や江口先生にまで、迷惑をかけてしまった。



だから、俺は青葉が謝るのは違うと思う。


俺が謝るべきだ。



そう思い俺は、青葉に向かって言った。


「いや、違う。謝るのは俺の方だ。俺が下手なこと言って、あいつら暴走させて、みんなに迷惑かけちまった。青葉も巻き込んで、、、もっと別のやり方で穏便に済ませられたかもしれないのに。

本当に、、、すいませんでした。」


これでいい。



こうでないといけない。



あの状況で、青葉が謝るのはお門違いだ。




悪いのは、俺だ。



もっと言えば、全ての元凶となったのは、あいつら三年の奴らだ。



謝るならそいつらだし、俺が謝るのも当然だ。


だが、青葉が謝るのだけは違う。



それだけは、認められない。



だが、俺の発言が不服だったのか、認めれなかったのか、青葉は反論の言葉を発した。



「それでも、、、私が何も出来なかったのは事実だし、、、紅君に迷惑かけたのも本当だよ。

本当に、すいませんでした。」 




だから、違う。違うんだ。



青葉は謝る理由なんて、謝らないといけない理由なんて1つもない。



なのに、そうやって謝るのは間違っている。



「違う、、、!青葉じゃなくて、謝るのは俺、、」




「でも!!!紅君。私を助けてくれて、、、」


「ありがとう。」





と、俺の言葉を遮るように青葉が言った。



感謝されるような事なんて、何もしていないのに、俺は感謝されるべきじゃない。



感謝されるべきは、青葉だ。



俺はたしかに、青葉を助けると誓って、青葉を守った、、、、つもりだ。



でも、、、そんなこと、俺が青葉にしてもらった事のお返しにもなっていない。



さらに青葉に俺のせいで迷惑をかけてしまったのに、すぐに先生と渓を呼んできて、また俺を助けてくれた。



だから、俺が感謝するべきなのは、青葉なんだ。



俺は感謝される所にいるような奴じゃない。



「俺は、、、!」


「はい、2人ともその辺で。鈴風も、あんまりしつこいと嫌われるぞ。というか、もう嫌われてるか?」



「んなっ、、、うるさいですよ。俺は今、青葉が言っている事は間違っているって言いたくて、、」



俺が先生に伝えようとするも、



それを認めてはくれなかった。



「だーから、それがしつこいって言ってんだ。望月だって責任くらい感じるし、鈴風への感謝だってある。それは否定せずに、受け取るべきなんじゃないのか?」



「っ、、、、、、、。」



言葉に詰まってしまう。


言われてみれば、たしかにそうだ。



俺は、青葉からの謝罪と感謝、その両方を拒絶していた。


だが、逆だったらどうだろうか。


きっと俺なら。



俺なら、相手に謝罪も感謝も届かなければ、何もできない無力感と絶望に苛まれてしまうだろう。



今、俺はそれを青葉にしている。



そんなことは絶対にダメだ。



許されることではない。



「青葉、、すまん。俺も、、お前に助けられた。」


「ありがとう。」


そう素直に自分の気持ちを言った。




「うん、、、。こちらこそ、ありがとう。」



青葉も、少し気持ちが落ち着いたように言った。



久しぶりにこんなに人と本気で話したかもしれない。



やっぱり、ありがとう と言う言葉はいいものだ。



言っても気持ちがいいし、言われても気持ちは悪くならない。

むしろ、気分がいい。



こんなことが広がっていくと、みんながみんな、良くなっていくのではないだろうか。



でも、ありがとうを言うのだって、難しいものだ。



誰だって恥ずかしいし、言いにくい言葉だ。



だが、それを言った先に、悪い事があるとは思えないし、あるはずがない。



そこを乗り越え慣れるかどうかで、その先の流れは変わっていくのだ。



そして、そこを乗り越えるまでの過程で、何をするか、何が大事なのかをよく考え、




時に笑い、時に失敗し、時に泣き、時に成功し、時に嘘をつき、時に傲慢になり、時に成功する。



こんなことの繰り返しが、生きていく中での経験なのだろう。




だが、今はまだ経験は浅い。


それでいい。


むしろ、浅い方がいい。


なんでも、少ないものを増やしていく時が1番大事なのだから。




そんなことを考えながら、青葉達が帰って、





俺は眠気を感じ、みたび、俺は眠りについた。

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