第6話 理由なんていらない


俺は望月青葉と出会った。


正確に言えば、二度目の出会いをした。


望月青葉は優しい。


数年ぶりで俺なんか顔も忘れていたくらいなのに、俺のことを助けてくれた。


普通の人は些細なことと思うかもしれない。



でも、俺には違った。


俺は、助けられたことがないのだ。


正しくは、本当に助かったと実感したことがない。


親とか、親友とか、そういう近しい関係の人は別だが、初対面や、普段話さない人などに感謝や助かったと思うことはない。


だからこそ、青葉に助けられたことは印象的な出来事だったのだ。



※※※※※※※※※※※


青葉と待っていたが、先生は一向に来る気配はなかった。時刻を見ると、既に11時になるのも間もない頃であった。


始業式である今日は、午前中までしか学校はないので、そろそろ戻らないと、本当に今日何も参加しないまま終わってしまう。


青葉も同じクラスなのでそろそろ教室に戻らないと、ヤバくなってくる頃だろう。


「青葉、そろそろ流石に戻るか?」


時間もそろそろまずいので聞いてみた。


「うん、先生も遅いし先に教室に戻っちゃっても大丈夫なんじゃないかな。」



すると青葉も同じことを思っていたようだ。


よし、もう戻るか。



そう決めて、青葉と一緒に保健室を出た。

まだ頭は痛いが、おそらく大丈夫だろう。

もってくれよ、オラの頭!



というわけで、教室まで歩き出す。


俺が青葉を探していた時に保健室という候補が出なかったのは、単に教室から遠かったからというのもあるのかもしれない。



教室に向かって帰っているのだが、今のところ会話のようなものは特にない。


まぁ、それもそうだろう。


久しぶりに会って、助けられてお礼をして、その先に楽しい会話があるのかといえば、俺はyesとは答えられない。



と、いつものように心の中で独り言を始めていると、前に数人の男子生徒が集まって喋っていた。


(見たところ、三年生か、、、?)


だが、思っていた以上に柄が悪かった。


その三年生と思われる男子生徒3名はタバコを吸っていたのだ。



この学校はそこまで柄の悪い学校ではないので、正直少し驚きを感じた。


まぁ、俺も一年の頃に一部の二、三年生に柄の悪い奴がいるということは風の噂や、この目で見たこともないわけではなかったので、衝撃というわけでもなかった。



ただ、近くを通って変に目をつけられても面倒だ。


今は青葉もいる。あまり危険な目に合わせたくはない。となればここは、逃げて別ルートで教室に帰るのがいいだろう。


そう思い、少しUターンしたところ、



「お?そこにいる一年?二年?結構可愛いじゃん。ちょっとこっち来ねぇ?」



見つかった。目をつけられてしまった、、、、。



こうなれば仕方ない。


ここは男として、俺が前に出てお断りしよう。


タバコを吸っているとはいえ、暴力まではするような連中ではないと信じたい。


そして俺がその三年生たちの前に行き口を開いた。



「すんません、ちょっと今急いでてですね、そんな暇ないんですわ、俺ら2人とも。なんで、またの機会があればその時n」



俺が喋り終えようとした直前、顔面に結構マジな拳が飛んできた。


当然、構えてなかった俺はそのまま後ろへふっ飛ぶ。



「ぶべっっっ!」


そして、俺の身体は数メートル先の地面に落下。というより衝突する。



「いっ、、、、てぇ、、。」



頭を打っていた事もあり、ダメージが上書きされ、かなりキツイ。


起きあがろうとしても、脳震盪が起きてしまったのか、起き上がれない。



ヤバイ、これはかなりヤバイ、、、、。



痛みも強い。だが、それよりも、、、、。



「紅君っ!!!!」



青葉が悲鳴を上げ、俺に近づいてくる。


その身体を三年の大きな腕が止めた。



「なぁ、あいつはほっといていいから俺らとちょっと遊ぼうや。何して遊ぶ?」



そんな事を1人の男が言っている。


「嫌、、です!すいません、お断りします!それより、紅君が!早く保健室に連れて行かないと!」



彼女は必死に腕の中でもがいている。



あぁ、やはり優しいんだな。彼女は。



だが、三年生のそれも男の腕を、小柄な青葉が振り払えるはずもなく、無理やり引っ張り連れて行かれる。



クソ、、、。ちくしょう、、、。



俺は助けてくれた人を、助けることもできないのか。それも、こんな最悪の形で。



脳震盪だかなんだかで動かない俺の身体が今この瞬間は大嫌いだ。そして悔しさとも言えない何かが胸の奥、というより身体全体にざわつく。








まぁ、だが考えてみろ。ほっておいても、先生に発見されれば、奴らは青葉を解放し、連れて行かれる。



俺が助ける必要はない。



まず、怪我人の俺が無理をしてまで頑張る必要もない。ここは少し回復を待って、先生に報告に行くのが合理的なんだろう。







、、、、、、、、、、、、。












黙れよ、俺。



よくそんな本当のクズの考えが頭に浮かんだなと思う。


今俺は正直こんな考えをして青葉に会わせる顔がない。



俺が青葉を助けないといけない理由、必要性。


そんなもの、、、





あいつが俺を助けてくれた。他に何がいる?






こんなとこで諦めるような人間なら、もう助かったなんて知らなくていいだろう。



こんなとこでへこたれるような人間なら、助けてもらう価値なんてないだろう。





別に、助けてもらわなくてもいい、構わない。



だが青葉には助けてもらった。そして本当に助かったと思っている。



それなら、、、やることやれよ。俺。






駆け出す。


そんなこと人生でした事もないのに、今だけは絶対に失敗しない自信があった。


理由があるわけではない。


根拠もない。


経験もない。



でも、助けるという自信だけはある。



駆ける。駆ける。



あと3歩。踏み込む。



あと2歩。突き出す。




その距離約1メートル。相手はこちらの対応に遅れた。




「なぁ、名前なんていうの?なぁ、教えてくれよ。なぁ!遊ぼうぜ、、、。っ!てめ、なんdガハッッッ!」










その距離0メートル。







殴る。本気で。


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