5話 しゃべるわけない

 その日は、朝からしとしとと雨が降っていた。

 空は灰色、というよりネズミみたいな雲に覆われていて、気が滅入るような薄暗い日だった。


 吐き気と眠気を噛み殺しながら、駅へと向かう。途中、駐車場の塀の陰に、ぬいぐるみのような何かが落ちていた。


 誰かの落としものだろうか。


 何となく気になって、近づいてみると、それは猫だった。

 息絶えた猫だった。

 出血は見られないが、どうしたのだろう。餓死だろうか。


 その瞳はカッと見開き、口からは舌が垂れている。まさに断末魔という言葉がしっくりくる表情…。


 最近、近所を彷徨いていた仔猫がいたことを思い出す。きっと誰かが捨てたのだろうと噂されていた。


 彼は顔をしかめて、大きな溜め息をつくと、勢いよくその小さな頭を踏み潰した。

 少しの躊躇いもなく...。


 そして、近くの水たまりに足を突っ込むと、何事もなかったかのように、携帯を取り出し、何処かに電話をかけながら、歩き始めた。濁った水にはほんの少しの赤が混じる。


 雨足は少しだけ強くなっていた。でも、まだ傘はいらない。

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