3話 しょっぱい夕餉②
「…そっか」
そう言って、彼女はしみじみとカップを傾ける。哀しげに伏せる彼女の睫毛に滴が光ったような気がした。
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駅前にある居酒屋。大学の最寄り駅ということもあり、学生客が多く、店内はいつも喧騒に満ちている。
その片隅で、私は暴力女と盃を交わしていた。
「盃を交わすって言葉、めっちゃエモくない?!
お互いを認め合ったライバル感がヤバい…
酒を呑むのは、盃を交わすためと言っても過言ではない!!」
と、捲したてているこのハイキック女が、親友の宇野葉月。
「ハイキック女って、サイキック女と一字しか変わらないし、つまり私は実質、
さっきから何言ってんの、この子?
「まぁ、それにしても、相変わらずお魚好きよねー」
机には、焼き魚やらお刺身やらのお皿が溢れんばかりに並んでいる。ササミサラダや鶏肉も頼んでいたけど、圧倒的にお魚。…お肉は当分食べたくなかった。
「さては、私のお財布を空にするつもりかー!大食い娘め!」
ウワバミのような彼女とは違い、私は一滴も呑めない下戸。でも、割と食べる方なので、飲み会の割り勘も元はとれる。
今日は、その自慢の胃袋で、ハイキックの仕返しにお腹いっぱい食べてやるのだ!
頬張る私を見て、彼女は何杯目かの日本酒を飲み干すと、少し微笑んだ。
「ちょっと、元気になった…?」
…あぁ、心配してくれてたのか。
彼女とは大学からの友達。何だかんだで、気があって、一緒に過ごすことが多い。趣味嗜好は、そんなに似てないと思うんだけど、一緒にいるのが楽な友達。
…ちょっとした変化を気にかけてくれるこういう優しいところが、好きなのかもしれない。
「…食事のときにする話じゃないし、よくある話なのかもしれないけど」
彼女の優しさに甘えるように、口を開く。あの夜の死体のことを。
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「そっか…」
躊躇いつつ、ぽろぽろと零す私の話を黙って聴いてくれた彼女は日本酒を一口飲み、何か考えるようにしばらく黙りこむ。
そして、鞄を探ると、神妙な顔でシガーケースを差し出してきた。彼女がタバコを手にするのを見たのは、初めてだった。
「…一本要る?」
断ると、火をつけずに咥える。気を遣ってくれたのだろうか。
深く息を吸って、再び口を開く。
「…噂なんだけど、最近、野良猫の死体がよく見つかるらしいんよね…」
顔を挙げると、目の前の彼女の瞳にはうっすら強い光が灯っているようだった。
「犯人探そうか」
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