2話 しょっぱい夕餉《ゆうげ》①

 その日は結局眠れなかった。


 あのあと、コウくんが「#9910」に通報してくれた。

 道路の緊急ダイヤル。交通事故なんかの死体も処理してくれる。火葬で。

 ただ、ゴミと一緒にされてしまうのだけれど…。あのまま寒空の下に晒しておくのは、もっと耐えられなかった。


 私の役目は果たしたと思う。あの子のために、あの黒猫のために、今の私に出来ることはやったと思う。

 それでも、イガイガと、胸を締め付けられるような想いが拭い去れない。

 あの子の姿が忘れられない…。


 講義には、いつも以上に身が入らなかった。

 最前列に座っていても、耳に入る言葉は全て頭から零れていくようだった…。


 終業のベルが鳴り、日が傾いても、頭はぼんやりしたまま…。夕暮れ前の色褪せたような空の下をふらふらと歩いていると、突然、背中にハイキックが放たれた。


「へい!元気?!

 ごはん食べに行こー!」


 ひっくり返って、おっかなびっくり見上げると、そこには、残心のようにポーズを決めて、ニッと真っ白な歯を見せる悪友がいた。

 …どうして、私の友人達はみな後ろから攻撃をしかけてくるのだろう。


「あは、ごめん。やり過ぎちゃった…。

 今晩は奢っちゃるから、堪忍かんにんな!」


 呆れて大きな溜め息をつくも、私の頬は少し頬が緩んでいた。


「もう…。じゃあ、定食にデザートもつけてもらっちゃおうかな?」

 …甘い物は好きじゃないけれど。

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