おまけ 一ビルムだって無駄にはしない
チャリーン……小銭が落ちる音がする
「ンーーアウッ!キャッ…」
「きゃあ!可愛い!」
マーシ・ボワーレの作業場にお針子女子達の歓喜の悲鳴が上がる。いくら絶世のイケメンでも赤ちゃんの可愛さには勝てないらしい。こんなに喜ばれるなら…
「ベビー服を先着購入していた方に、購入商品を
人見知りしない我が子、メアルディーガ殿下が針子の女子達に投げキッスをしている。
それはただ単に口元に当てたグ―パンチの手をパァーッと開いているだけど…その投げキッスを受けた女子達がキャッキャしている。
可愛いは正義だ。
前世でその台詞を聞いた時は、ハッ…と鼻で笑っていたけれど、今なら大声で叫べる。
メアルディーガが可愛いのは正義だーー!
メアルディーガが可愛すぎて、うちの美形旦那…リアフェンガーの影が薄くなっている。折角、辺境からマーシ・ボワーレの工房に視察に訪れたというのに、主役の座を自分の子供に奪われている。
まあ、リアフェンガー本人は奪われてたつもりもなさそうだし?寧ろ、うちの子可愛いでしょ?そうでしょ?みたいな微笑みを浮かべているし?
「しかし、子供用の衣装の販売が順調で良かったな、アレのせいで心配していたが、杞憂だったようだな」
「そうよね~びっくりしたわね、アレは…」
思わずリアフェンガーも私もアレ…と称したが、マーシ・ボワーレの子供服ブランドの華々しいデビューの数ヶ月後…なんと、王都のマーシ・ボワーレ店舗近くに、マーシ・ボワーレの意匠によく似た子供服ブランドの店が突如、開店したのだ。
おまけに…その店のオーナー兼デザイナーが…
「まさかのマリエリーナ=リーム男爵令嬢とはねぇ~」
本当に転んでもただは起きない女だと、関心をせざるを得ないわ…
「私とマーシ・ボワーレ女史が共同で新規部門を立ち上げているって情報を入手したのでしょうけどね…」
私が苦笑いを浮かべていると、リアフェンガーは少し目を細めてから窓から大通りを見た。
「それを知ったからと言ってわざわざ同じ王都の目と鼻の先で、子供向けの衣装店を開店するなど、言語道断だ!」
リアフェンガーがプリっと怒りを滲ませている
「まあ…私達がどの年齢層に向けた衣裳店を開店予定なのかを、調べきれなかったみたいだしね~後追いで華々しく開店はしたものの、大人向けのドレスをただただ子供の寸法にしただけの、普通の衣装店になっちゃってるだけじゃない?おまけに意匠を手掛けているのは、あ・の・王族との熱い噂のあるマリエリーナ=リーム男爵令嬢!…とかあちこちで宣伝してて、痛いわ。私…異世界で匂わせ女に出会うなんて思いもしなかったわ!」
リアフェンガーは私の話に頷きながら、笑っていいのか怒っていいのか迷っているというような、変顔になっている。
「匂わせ?って、さも恋人のフリをしている風を装うことをいうのだったか?」
「まあ、今回はそういう感じの意味ね…ホント香ばしいことしてくるねぇ~おまけに自分が産んだ女の子をマリエリーナ様のだっさいデザインの服で、コテコテに着飾っちゃって~あの平凡顔の女の子が可哀相すぎるわ」
シュージアン=ホーナ=ギャナラシュ殿下と婚約破棄になって…おまけに誰の子なのか分からない子供を妊娠し、最後の最後いや…産んでからもシュージアン殿下の子供かもしれないですよ~的な匂わせを舞踏会などで発信し続けている、豪胆なマリエリーナ様。
しかし、一目その赤子を見れば誰でもこう思うはずだ…
紺色の髪に茶色の瞳の薄っすい顔の女の子だな…
そう…誰がどう見ても、シルバーブルーの髪色、碧眼の彫り深いシュージアン殿下の血が一ミリも入っていないのは一目瞭然だった。
個人的主観だが、産まれた子供はシアン=ノマリ侯爵子息の子供だと思っている。マリエリーナ様は認めてないらしいけど…因みにノマリ侯爵子息は三男で、既に親から勘当されていて、今は軍にお勤めになっている。
ノマリ子息も強姦されたと言いがかりをつけられて、絶対にマリエリーナ様を許さない!と、公言しているらしい。マリエリーナ様はノマリ子息に頼ることも出来なくなってしまったのだ、自業自得だけどね
しかし子供が不憫だよ…既にマリエリーナ様の独創的なヘンテコドレスを着せられちゃってさ~あんなバウ〇クー〇ンみたいなドレス?誰が買うっていうのよ…あら?あんなに美味しいバウ〇クー〇ンに失礼だったかしら?
リアフェンガーと私が苦笑いを浮かべている所へ、マーシ・ボワーレ女史がやって来た。着席を促すとソファーに腰かけてから、女史はせせら笑いっぽい笑みを浮かべている。
「殿下も気にする必要はございませんわ、確かに私の店の衣装よりかなりお安い価格になっていますし、裕福な商家の子女などにも手が出しやすいお店でしょうけれど、意匠が独創的過ぎて…ハッ…笑ってしまいますわ」
辛辣ぅぅぅ~デザイン画に落書きされて、ウ〇コ色されたの根に持ってるんだねぇ~
「まあ…アレはよろしいですわ、そうですわっ妃殿下!以前意匠の図案を頂きましたドレスの仮縫いが終わりましたので、見て頂けます?」
マーシ女史は笑顔になると、嬉しそうに助手の方を呼んでいる。
「まあっもしかしてブラウンカラーのドレスかしら!」
ドキドキしながら助手の方が抱えてきた箱を見詰めた。そしてマーシ女史が箱を開けて取り出したドレスを見て感嘆の声をあげた。
ブラウンカラーのドレスのオーガンジーが美しい光沢を放ち、ドレスの胸元から袖口と裾に向かって銀と黒曜色の宝石が散りばめられている。
「綺麗…」
うっとりと声に出してしまったが、顔を上げるとマーシ女史もリアフェンガーも、嬉しそうに微笑みながら私を見詰めていた。
「出来上がりましたら是非、妃殿下が袖を通されて夜会にお出になって頂きたいですわ!」
「おおっそれは素晴らしいなっマーシ女史!…相談なのだが、このドレスと対になるような私の礼服も作ってもらえないか?」
リアフェンガーがマーシ女史に顔を近付けて、そう言って極上の笑みを浮かべた。
「…っぃ…も、ももも勿論っ最高の衣装をお作り致しますわっ!おまかせぉぉぉ!」
真っ赤になったマーシ女史が壊れた……プスプスと湯気が上がったような幻覚が見えそうなほど、顔を赤くしたままブツブツと呟きながらマーシ女史はデザインルームの中に消えて行った。
「良かったな~次の夜会には間に合うといいな~」
『…このっ…無自覚天然めっ…』
思わず日本語で呟いた私に、きょとんとした美顔を見せつけるアラサーのリアフェンガー王弟殿下。我が夫ながら腹立つなぁ…悔しいけどこのままイケオジに突入してしまいそうなんだよね。
おや?待てよ?
「そろそろオヤジ向けブランドも立ち上げるか?」
フフフ…小銭の貯まる音が聞こえるわ…
計算高くてすみません! 浦 かすみ @tubomix
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